いぬがみとうま🐾短編集

いぬがみとうま🐾

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(異ファ)宮廷料理人、間違えて魔王軍との最前線に配属される

第1話:野望の上京と、エリート宮廷料理人の誕生

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 料理人にとって、最も名誉ある称号。
 それは間違いなく『宮廷料理人』だ。
 国の頂点に立つ王族たちの舌を満足させ、美食の極致を追求する選ばれし者。その看板さえ手に入れば、将来の成功は約束されたも同然となる。

「待っていろ、王都。待っていろ、俺の輝かしいリタイア生活!」

 俺は、生まれ育った田舎の村を背に、力強く宣言した。

 俺の母さんは、かつて王宮でその名を轟かせた伝説の宮廷料理人だ。
 今は隠居して田舎で最高級のレストランを経営しているが、その暮らしぶりは極めて優雅だ。

 幼い頃から俺は、母さんが振るう華麗な包丁捌きと、一口食べただけで貴族たちが腰を抜かしてひれ伏す光景を見て育った。

「母さん、僕も宮廷料理人になって、いつか母さんの店を超えるレストランを開くよ」

 幼い頃の俺がそう言うと、母さんは銀食器を磨く手を止めて、満足そうに微笑んだ。

「いいかい、レオン。宮廷料理人っていうのは、ただ美味しいものを作るだけじゃダメだ。誰よりも貪欲に、誰よりも必死に、その地位にしがみつく覚悟が必要なんだよ」

 そう、俺は必死だ。
 不自由のない生活を捨ててまで王都へ行くのは、ひとえに「その後の最高の余生」のため。

 宮廷料理人という最強のブランドを履歴書に刻み、王様に認められ、多額の退職金をもらって円満退職する。
 そして国で一番のレストランを開業し、死ぬまで贅沢に過ごすんだ。

 そのための計画ロードマップは、もう頭の中で完璧に出来上がっている。

(まずは、宮廷料理人採用試験……。ここが全てのスタートラインだ)

 王都に着いた俺を待っていたのは、鼻をくすぐる焦がしバターの匂いと、行き交う人々の熱気。
 俺は愛用の包丁ケースをぎゅっと抱きしめた。
 ずっしりとした魔銀製の重みが、手のひらに心地よい。

 試験会場の調理場には、全国から集まった猛者たちが並んでいた。
 彼らが緊張で顔を強張らせる中、俺は淡々と調理台に向かう。

(こいつらはライバルじゃない。俺の成功を引き立てるための、ただの背景だ)

 俺は迷いなく、母直伝の『宮廷流・極限抽出法』を開始した。
 鍋の中でふつふつと煮立つスープ。
 野菜の甘み、肉の脂の旨味。
 それらを魔法のような精密な火加減で、一滴の雑味もなく溶け合わせていく。

「……っ、なんだ、この香りは!? 鼻に抜けるこの濃厚な香気は……!」

 審査員である老練な料理長たちが、吸い寄せられるように俺の前に集まってきた。
 彼らは震える手でスプーンを口に運ぶ。

「信じられない。素材の旨味が、暴力的なまでに押し寄せてくる……!」
「かつての天才の再来だ! いや、それ以上だ!」



 結果は、文句なしの首席合格。
 俺の宮廷料理人としてのキャリアは、これ以上ないほど輝かしくスタートした。

 ところが、本当の試練はここからだった。
 配属前に行われる、三ヶ月間の地獄の研修期間。

「レオン、君の包丁捌きは速いが、盛り付けに華がないな」

 同期の一人、料理貴族の嫡男が鼻で笑いながら言ってくる。
 彼を含めた五人の同期たちは、誰もが天才と称されるエリートばかり。

(ふん、言わせておけばいい。君たちは俺が独立した後の、いい宣伝材料になるんだからな)

 俺は一切の妥協を排し、研鑽を積んだ。
 誰よりも早く厨房に入り、床が鏡代わりになるまで磨き上げる。
 深夜まで王宮の秘伝レシピを暗記し、指の感覚がなくなるまで食材を刻み続けた。

「……よし、これで完璧だ」

 最終評価の日。
 掲示板の一番上には、再び俺の名が記されていた。
 全項目満点。
 宮廷始まって以来の、伝説的な記録での研修修了だ。

「おめでとう、レオン。君の配属先が決まったよ」

 人事担当の役人が、うやうやしく封筒を差し出してきた。
 俺はそれを、恭しく受け取る。
 中に入っていたのは、期待通りの言葉――『北の離宮』。
 筆頭宮廷料理人になるための登竜門とも呼ばれる場所だ。

(やった! ついに掴んだぞ! 夢のエリート街道!!)
(そこで貴族たちの胃袋を掴めば、俺のレストランの成功は約束されたも同然だ!)

 俺は喜びのあまり、手続き用の『役人記入欄・・・・・』を見落としていた。

『配属先・北の不帰の砦』


 同期たちは、俺が手にした「死の宣告」を遠巻きに見つめ、憐れみを含んだ沈黙を守っていた。

 誰も、声をかけることすらできない。
 だって、そこは一度行けば二度と戻れないと言われる、魔王軍との最前線なのだから。

(クックックッ、奴らめ、俺の配属先を羨んで言葉が出ないか……)

「さあ、出発だ! 待っていろ、俺の輝かしい宮廷料理人生活!」

 俺は輝くような笑顔で、馬車に乗り込んだ。
 目指す先は、地獄の業火が燃え盛る死の戦場。

 俺の「必死な料理人人生」における、最大にして最悪の配属ミスが幕を開けた。

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