いぬがみとうま🐾短編集

いぬがみとうま🐾

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(異ファ) いずれ勇者と魔王になる二人

第1章:凸凹な二人

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 空はどこまでも青く、世界は残酷なほどに美しかった。
 辺境の村、ルミナス。
 そこで暮らす二人の少年は、村人たちから「光と影」と呼ばれていた。

「おい、アイン! いつまでそんな小難しい本を読んでるんだよ! 今日は裏山の『古の洞窟』まで探検に行くって決めたろ!」

 土埃を上げながら走ってきたのは、太陽のような金髪を振り乱した少年、ダミアンだ。
 服は泥だらけ、鼻の頭には擦り傷。今日も今日とて、彼は村の「悪ガキ大将」だった。


「……ダミアン。その洞窟は村の立ち入り禁止区域だ。君の頭の構造は、文字を読むという機能を拒絶しているのかい?」

 僕は愛読書から視線を外さず、冷静に言い返した。
 僕、アインは村一番の「優等生」だ。
 十歳にして村の書庫にある魔法書をすべて読破し、理論上は中級魔法まで使いこなせる「神童」――それが僕の評価だった。

「へっ、硬いこと言うなよ! お前がいれば、どんな魔物が出たってイチコロだろ? ほら、行くぞ!」

「あ、おい、引っ張るな……! これだから野蛮人は……!」

 結局、僕は本を閉じ、彼の後ろを追いかけることになる。
 いつだってそうだ。
 僕は理屈をこねて反対するが、ダミアンの直情的なエネルギーには勝てない。
 
 洞窟の中、ダミアンは松明を振り回しながら突き進む。

「おらぁ! 魔王、出てこい! このダミアン様がぶっ飛ばしてやる!」

「静かにしろ。……ほら、足元に気をつけろ」

 僕は指先で小さく魔法陣を描く。
 ダミアンが滑りそうな濡れた岩肌に、こっそりと【摩擦増大フリクション】の魔法をかける。
 彼が気づかないように。
 彼が怪我をして、村の大人たちに怒られないように。

 僕は昔から、この「悪ガキ」の尻拭いをするのが役目だった。
 それが、僕なりの友情の示し方だったのだ。

 ――しかし、運命の日は唐突に訪れた。



 十六歳。
 この世界に生きる若者が、教会から「天職」を授かる【選定の儀】。
 王都からやってきた枢機卿が、厳粛な面持ちで村の中央広場に立った。

「これより、神の御神託を告げる。……アイン、前に出よ」

 僕は緊張で指先を震わせながら進み出た。
 筆記試験は満点。魔力計測も過去最高値。
 誰もが、僕が『賢者』や『大魔導師』に選ばれると信じて疑わなかった。

 だが、枢機卿が僕の目を見た瞬間、その顔が驚愕に歪んだ。

「その目は……まさか、【全知の魔眼アカシック・アイ】か!?」

 魔眼。
 それは、世界の構成要素を読み解き、真理に触れることができる禁忌の力。
 その瞬間、僕の視界に変異が起きた。

 世界が、情報の羅列に書き換えられる。
 枢機卿の背後に蠢く、どす黒い信仰の「正体」。
 そして――この儀式の、本当の意味。

『――勇者は神の糧。魔王を倒し、力を極めた瞬間に、その魂は天上へ回収される。神という名のシステムを維持するための、純粋な生贄として』

 頭の中に、見たくもない真実が流れ込んできた。
 教会が何百年も隠し続けてきた、この世界の残酷な仕組み。
 
「……っ!」

 僕は吐き気を堪えながら、隣を見た。
 そこには、試験も受けずに居眠りをしていたダミアンが、呼ばれてもいないのに「なんか光ってるから」という理由で、教会の祭壇に刺さっていた古びた剣を引っこ抜いていた。

 まばゆい黄金の光。
 教会の歴史上、数人しか現れなかったという『光の勇者』の誕生だった。

「よっしゃあ! 見てろよアイン! 俺、勇者になっちゃったぜ!」

 無邪気に笑うダミアン。
 だが、僕の「魔眼」は捉えていた。
 彼の魂に、金色の鎖が絡みつくのを。
 魔王を倒した瞬間、その鎖は彼を食い殺し、神の餌にするだろう。

(……そんなこと、許せるわけがない)

 僕が守ってきた。
 僕が魔法でこっそりサポートして、泥だらけの彼を支えてきたんだ。
 それを、神なんていう得体の知れない存在に奪われてたまるか。

「……アインよ。お前の魔眼は危険すぎる。神の敵だ」

 枢機卿の瞳に殺意が宿る。
 僕は瞬時に理解した。
 このままここにいれば、僕は消される。
 そしてダミアンは、何も知らないまま「英雄」として使い潰される。

 なら、選ぶ道は一つしかなかった。

「……ふん。くだらない」

 僕は冷笑を浮かべ、集まった村人たちを見下ろした。
 
「全知の力を得て理解したよ。こんな弱者の掃き溜めに、僕のような天才が留まる必要はない。……この世界を、僕が望む形に書き換えてやる」

 僕は背後に巨大な転移魔法陣を展開した。
 
「アイン!? おい、何言ってんだよ!?」
「さよなら、ダミアン。……君のような馬鹿とは、住む世界が違うのさ」

 嘘だ。
 喉まで出かかった叫びを、僕は飲み込んだ。
 
 僕はその日、村を捨てた。
 教会を、神を、世界を敵に回す「魔王」としての第一歩を踏み出した。
 すべては、あのアホみたいに笑う幼馴染を、死の運命から救い出すために。




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