いぬがみとうま🐾短編集

いぬがみとうま🐾

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(異ファ) いずれ勇者と魔王になる二人

第5章:昔のように

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「ち、違う! こんなことはあり得ん! 神の理を人が超えるなど……!」

 狼狽する枢機卿が、背後の虚空から「神の腕」を召喚する。
 天を衝くほどの巨大な光の腕が、二人を押し潰そうと振り下ろされた。

「おい、アイン! 死ぬなよ! 死んだら承知しねぇぞ!」
「……ふん、命令するな。……まだだ、僕の命は終わっていない」

 アインはフラフラになりながらも、空中に魔法陣を展開した。
 それはかつて、村でこっそりダミアンを助けていた時のように、精緻で、献身的なサポート魔法。

「ダミアン! 三秒後に右足の下に魔力の足場を展開する!」
「おう、分かった! お前の言う通りに飛んでやる!」

 二人の呼吸が、完璧に重なる。
 十数年、ずっと一緒にいた。
 一人が立ち上がり、もう一人がその背中を支える。
 
 アインの魔法が、神の腕の攻撃軌道を数ミリ単位で逸らす。
 ダミアンはその隙間を、光速の突進で駆け抜けた。

「行け……ダミアン!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!」

 聖剣が、枢機卿と背後にいた「世界の理」の核を貫いた。
 


 パリン、と。
 世界を覆っていた透明な檻が、砕け散る音がした。
 
 光があふれる。
 神の呪縛から解き放たれた大地に風が吹き抜けた。



 ――数時間後。
 半壊した魔王城の広間。
 
 二人の青年が、瓦礫の上に並んで座っていた。
 どちらも泥だらけで、傷だらけだ。
 だが、二人の表情には、憑き物が落ちたような清々しさがあった。

「……なあ、アイン」

「なんだい」

「お前、結局最初から全部、俺を守るためにやってたんだな」

「……何度も言わせないでくれ。ただの計算だよ。君を死なせるのは、僕の人生の計画において、最大の損失だからね」

 アインはそっぽを向いた。
 エリスたちの治療魔法のおかげで、命に別条はない。
 だが、彼の「魔眼」の力は失われ、かつての膨大な魔力も今は枯渇している。
 ただの、少し頭の良い青年に戻ったのだ。

「へへっ、相変わらず素直じゃねぇな。……でもよ、ありがとな」

「……ふん」

 ダミアンが、アインの肩に腕を回した。
 アインは嫌そうな顔をしながらも、それを振り払わなかった。



「これからどうするんだ? 神様はいなくなったけど、世界はまだ混乱してるぜ。人間も亜人も、まだ仲が悪いままだしな」

「……そうだね。神という理なくなった以上、これからは自分たちで秩序を作らなければならない。……魔王軍として保護した彼らにも、居場所が必要だ」

 アインは遠くの空を見つめた。
 
「僕は『魔王』のまま、彼らを率いるよ。人間との交渉、共存のためのルール作り。……優等生の仕事は、まだまだ山積みだ」

「なら、俺は『勇者』として世界を回るぜ。お前の仲間がいじめられないように、睨みをきかせてやるよ。……あ、それと、お前が引きこもりっぱなしなら、また俺が遊びに連れ出してやるからな!」

 ダミアンが屈託のない笑顔を見せる。
 かつての「悪ガキ」と「優等生」。
 立場は変わっても、二人の関係は、あの日の古の洞窟の前と何も変わっていなかった。

「……次はどっちが勝つか、競争だ」
 ダミアンが拳を突き出す。
 
 アインは一瞬呆れたような顔をしたが、やがて小さく笑い、自分の拳をそこに合わせた。

「ふん。僕の計算では、100戦やって僕の100勝だ。……覚悟しておけよ、馬鹿ダミアン」

 青い空の下。
 二人の少年の、新しい「冒険ごっこ」が、今ここから始まった。

(完)


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