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(異ファ) クラス転移で授かったスキルが【爪の垢】
いじめっ子たちの垢を煎じて飲まされたが、彼らの「才能」を極限抽出して最強になった。(下)
しおりを挟む三週間後。
エルドラド王国の中級ダンジョン『竜の墓場』。
「う、嘘だろ……なんでこんなところに『魔族』がいるんだよ!」
ゴウの悲鳴が、湿った通路に響く。
そこには、当初の予定にはなかったイレギュラー――漆黒の鎧を纏った魔族の騎士が、嘲笑を浮かべて立っていた。魔王軍幹部クラス。
ゴウの放つ『次元斬』は、魔族の盾に容易く弾かれる。
「ひいっ! アイリ、回復! 早く!」
「もう魔力が……嫌、死にたくない! 誰か、誰か助けて!」
アイリは恐怖で失禁し、豪華な聖女の衣装を汚しながら後ずさった。
かつての「クラスの支配者」たちの、あまりにも無様な姿。
魔族が巨大な剣を振り上げ、トドメを刺そうとした、その時だった。
『――カチッ、カチッ』
静寂の中に、あまりにも場違いな、規則正しい金属音が響いた。
通路の奥、暗闇の中から、一人の男がゆっくりと歩いてくる。
灰色のボロボロのローブを纏い、顔を深く隠した男。だが、その男が放つ異常なまでの威圧感に、魔族すらも動きを止め、本能的な恐怖に身を震わせた。
「……何者だ、貴様は」
魔族の問いに、男は答えない。
ただ、その右手には、この世界には存在しないはずの――巨大な「爪切り」が握られていた。
「助けてくれ……! あんた、俺達を助けてくれ!」
ゴウの叫びを、男――俺は完全に無視した。
そして、魔族に向かって、まるで散歩のような足取りで歩き出す。
「ナメるな、人間がぁ!」
魔族の剣が振り下ろされる。だが、俺はそれを「指先」だけで受け止めた。
【真・剣聖】の受け流しと、【真・剛力】の握力。
「グアッ……!?」
魔族が反応するより速く、俺は魔族の懐に踏み込み、その顎を掌底で打ち抜いた。
空中に浮いた魔族を、俺は容赦なく壁に叩きつけ、その首を片手で固定した。
「……素材としては、三流だな。だが、無いよりはマシか」
俺の声が響いた瞬間、ゴウとアイリの体がビクリと跳ねた。聞き覚えのある、だが以前とは比較にならないほど低く、冷徹な声。
俺は抵抗する魔族の右腕を強引に引き寄せ、その鋭い爪の前に爪切りを当てた。
「……な、何をしている……貴様……離せ……!」
「静かにしろ。この薄汚い爪を切ってやろうというのだ」
『パチンッ』
乾いた音が響く。魔族の鋭い爪が、一枚切り落とされた。
俺はそれを拾い上げると、光にかざして検品し、腰の革袋の中へ無造作に放り込んだ。
『パチンッ、パチンッ、パチンッ』
死を待つ魔族の絶叫。呆然とそれを見つめるクラスメイトたちの前で、俺は淡々と、儀式のように爪を収集していく。
パチン、という音だけが洞窟内に響き渡る異常な光景。
魔族の十本の爪をすべてを「収穫」し終えると、俺は興味を失ったように、魔族の頭部を【真・大魔導】の極大火力で、跡形もなく焼き尽くした。
血の海の中で、俺は革袋の紐を丁寧に締め、ようやく背後の「ゴミ」たちを振り返った。
第五章:爪の垢を煎じて
「……か、カケル……なのか?」
ゴウが、ガチガチと膝を鳴らしながら、縋るように呟く。
俺はフードを脱ぎ、冷徹な視線を奴らに向けた。
「よお。掃除しに戻って来たんだよ。……ふん、相変わらず薄汚い奴らだ。……食堂の床の味、今でも鮮明に思い出せるぜ」
「カケル君! 凄いわ! 生きてたのね、信じてたわ! 私たち仲間だもの」
アイリが、今更ながら媚びるような笑みを作り、俺の腕に縋り付こうとする。
その瞬間に、俺は彼女の腹部に、手加減なしの拳を叩き込んだ。
「ガハッ……!? あ、ああ……」
アイリが床に転がり、胃の中の高級食材を吐き戻しながら悶絶する。
「仲間? 勘違いするな。お前らは俺に『爪の垢』をくれただけの、ただの素材だ」
俺はゴウの前に屈み、その折れた剣を拾い上げた。
「ゴウ。お前の【剣聖】は、ただ力を誇示するための道具だった。だから弱い。本物の剣は、こう使うんだ」
俺が折れた剣で一閃。
その風圧だけで、背後の巨大な石柱が十数本、正確に「断裁」され、崩落した。
「あ……ああ……ひいっ!」
次に、俺はアイリの額に指を触れる。
【逆抽出】。
彼女がこれまで俺や他人に向けてきた「悪意」を、そのまま彼女の精神に流し込む。
「あ、ああああああ! ごめんなさい! やめて、心が痛いのぉぉおお!」
彼女は自分の頭を抱え、地面を転げ回った。肉体は無傷だが、その精神は自分が他人に与えてきた苦痛で焼き尽くされている。
そのとき、
「救世主様! ご無事ですか! 待て、その男は何者だ!?」
王国の騎士たちが駆けつけてきた。
王女エレーヌが俺に歩み寄る。その瞳には、かつての蔑みはなく、強者への歪んだ敬意と欲望が宿っていた。
「素晴らしい力です……! 泥川様、貴方こそが真の勇者。ぜひ、私の夫として、この国を導いてください」
俺は、王女の手を冷たく振り払った。
「断る。俺はゴミ拾いには興味があるが、ゴミ溜めの王になるつもりはない。……近いうちに、お前の自慢の指先も、俺の爪切りで整えてやるからな。王族の垢は、さぞかし上質な味がするんだろう?」
俺は振り返らずに歩き出す。
この国の王都を、神殿を、この歪んだ世界を、「掃除」する時間はたっぷりある。
俺はダンジョンを後にした。
空を見上げれば、雲を割って巨大な影――エンシェントドラゴンが悠然と飛んでいた。
俺は、右手で爪切りを軽く回し、薄く、歪んだ笑みを浮かべる。
「……次は、あいつの爪を煎じて飲むか。伝説の味、今から楽しみだよ」
俺の旅は、ここから始まる。
不味い汚泥を飲み干した、その先に待つ、スキルを求めて。
(完)
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