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(異ファ) 冒険者を引退したし、ダンジョン投資に手を出しました
第1話:絶望の投資物件
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石鹸で何度洗っても、爪の間にこびりついた「ダンジョンの残り香」は消えてくれなかった。
アレンは自分の無骨な掌を見つめる。十五年間、迷宮の汚物と死骸を片付け続けてきた手だ。皮膚は硬く角質化し、指先には小さな傷が無数に刻まれている。
冒険者として生きてきた(最底辺の清掃担当だけど……)。
今日、この手は過去を捨て、未来を掴む。
「……よし。これで、全部だ」
アレンは、商業ギルドの応接室にある黒檀のデスクへ、ずっしりと重い革袋を置いた。中から溢れ出したのは、彼が十代の頃から食うものも惜しんで貯め続けた金貨五百枚。一戸建ての邸宅が二軒は買える、底辺清掃員にとっては天文学的な数字だ。
「おやおや、素晴らしい。これこそ努力の結晶、誠実さの証ですねえ、アレンさん」
デスクの向こう側で、脂ぎった顔をテカらせた男――ギルドの不動産部門担当、ボランが下卑た笑みを浮かべた。彼の太い指には、成金趣味な宝石がいくつも食い込んでいる。
「本当に、いい物件なんですね? スローライフに向いている、未開拓の優良ダンジョンだと」
「ええ、もちろんですとも! 名前は『クズリの穴』。浅層にはレア鉱石の反応がびっしりで、気候も一年中安定している。魔物も弱く、奥には澄んだ泉まで湧いている……まさに退職後の楽園ですよ」
ボランは流れるような手つきで、羊皮紙の権利書を広げた。
アレンは『選別眼』という固有スキルを持っている。長年の清掃業務で培われた、物の価値を見抜く力だ。目の前の権利書を注視すると、魔法的な守護の光が微かに揺れているのが見えた。
「さあ、この『契約の宝珠』に手を。これであなたの魂に、迷宮の所有権が刻まれます」
ボランが差し出した青白い珠に、アレンは震える手を重ねた。
直後、脳裏に強烈な熱が走る。魔法契約――一度結べば、死ぬまで書き換え不可能な魂の刻印だ。これによって、アレンは正式にダンジョンのオーナーとなった。
「おめでとうございます! これであなたは勝ち組だ。掃除道具なんて、もう必要ありませんよ。がっはっは!」
ボランの笑い声に、なぜか嫌悪感を感じた。
都市の喧騒を離れ、馬車を乗り継いで三日。アレンはついに、自分の「城」へと辿り端いた。
だが、目前に広がる光景を前に、彼は持っていた荷物を地面に落とした。
「……なんだ、これは」
そこにあるはずの「白亜の岩壁に囲まれた美しい洞窟」など、どこにもなかった。
目に飛び込んできたのは、都市の巨大な排水口と直結し、濁った泥水が滝のように流れ込む巨大な泥の穴だ。周囲には風に乗って凄まじい悪臭が漂っている
アレンは震える足で、穴の中へと踏み込んだ。
一歩進むごとに、ぐちゃりと嫌な音が足裏から響く。それは澄んだ泉などではなく、膝まで浸かるほどの汚泥と排泄物の溜まり場だった。
バリン、と乾いた音がして、洞窟内に残留していた「美しい風景」が剥がれ落ちる。
「……幻影魔法か」
ボランは最初から誰も買い手のつかない、都市の「ゴミ捨て場」を擦り付けるつもりだったのか。
洞窟の奥からカサカサと不快な羽音が響く。体長五十センチを超える害虫『ジャイアント・ローチ』の群れが、腐敗したモンスターの死骸を食い荒らしている。
アレンは絶望に打ちひしがれながらも、職業病のように『選別眼』を発動した。
【対象:ダンジョン内の汚泥】
【価値:0(ただの排泄物と腐敗物の混合体)】
【毒性:高(放置すればバイオハザードの危険あり)】
【対象:ジャイアント・ローチ】
【価値:0(害獣。食用不可、素材価値なし)】
視界に入るもの全てが「価値:0」で埋め尽くされる。
レア鉱石? 澄んだ水? そんなものは欠片も存在しない。ここはただ、王都から溢れ出した不要物が流れ着く、最果ての不法投棄場だった。
「僕は……全部……全部失ったのか」
十五年の歳月。凍える夜も、汚物にまみれた昼も耐え抜いて貯めた金貨五百枚。
それが、この臭い泥の穴に変わった。
アレンはその場に膝をつき、泥を握りしめた。
翌日、泥だらけの姿で商業ギルドへ引き返したアレンはボランを呼び出すが、男の顔に昨日の愛想は微塵もなかった。
「話が違う! あそこはただのゴミ捨て場だ、契約を破棄してください!」
アレンの叫びに衆人が注目する中、ボランは鼻をつまみ嘲笑った。
「汚いですね。契約書には『現状渡し』、かつ『破棄不可』と魂の刻印で誓ったはず。証拠もなく喚くのは、現地も確認せずに全財産を投じた馬鹿だと自白しているようなものですよ」
周囲から嘲笑が漏れる。
「アレンさん、あなたはもう一文無しだ。精々そのゴミ溜めで一生ゴミを漁って暮らすがいい。衛兵! この浮浪者を追い出せ!」
屈強な衛兵に両脇を掴まれ、アレンはギルドの外へと放り出された。
冷たい雨が降り始める。石畳に転がったアレンの横に、彼の唯一の私物である清掃用具のカバンが投げ捨てられた。
アレンは雨に打たれながら、じっと自分の手を見た。
泥にまみれ、震えている手。
だが、不思議と心の中の炎は消えていなかった。
「……掃除屋を、舐めるなよ」
アレンはゆっくりと立ち上がり、モップを握った。
上等だ。
誰もが見捨てたゴミの山から、輝く価値を掘り出してやる。
「住めば都にしてやるさ。……ボラン、お前が『返せ』と泣きついてきてももう遅いからな」
アレンは再びあの「地獄」へと歩き出した。
十五年の清掃経験と、物を価値に変える『選別眼』。
それさえあれば、この世に片付けられないゴミなど存在しない。
アレンは自分の無骨な掌を見つめる。十五年間、迷宮の汚物と死骸を片付け続けてきた手だ。皮膚は硬く角質化し、指先には小さな傷が無数に刻まれている。
冒険者として生きてきた(最底辺の清掃担当だけど……)。
今日、この手は過去を捨て、未来を掴む。
「……よし。これで、全部だ」
アレンは、商業ギルドの応接室にある黒檀のデスクへ、ずっしりと重い革袋を置いた。中から溢れ出したのは、彼が十代の頃から食うものも惜しんで貯め続けた金貨五百枚。一戸建ての邸宅が二軒は買える、底辺清掃員にとっては天文学的な数字だ。
「おやおや、素晴らしい。これこそ努力の結晶、誠実さの証ですねえ、アレンさん」
デスクの向こう側で、脂ぎった顔をテカらせた男――ギルドの不動産部門担当、ボランが下卑た笑みを浮かべた。彼の太い指には、成金趣味な宝石がいくつも食い込んでいる。
「本当に、いい物件なんですね? スローライフに向いている、未開拓の優良ダンジョンだと」
「ええ、もちろんですとも! 名前は『クズリの穴』。浅層にはレア鉱石の反応がびっしりで、気候も一年中安定している。魔物も弱く、奥には澄んだ泉まで湧いている……まさに退職後の楽園ですよ」
ボランは流れるような手つきで、羊皮紙の権利書を広げた。
アレンは『選別眼』という固有スキルを持っている。長年の清掃業務で培われた、物の価値を見抜く力だ。目の前の権利書を注視すると、魔法的な守護の光が微かに揺れているのが見えた。
「さあ、この『契約の宝珠』に手を。これであなたの魂に、迷宮の所有権が刻まれます」
ボランが差し出した青白い珠に、アレンは震える手を重ねた。
直後、脳裏に強烈な熱が走る。魔法契約――一度結べば、死ぬまで書き換え不可能な魂の刻印だ。これによって、アレンは正式にダンジョンのオーナーとなった。
「おめでとうございます! これであなたは勝ち組だ。掃除道具なんて、もう必要ありませんよ。がっはっは!」
ボランの笑い声に、なぜか嫌悪感を感じた。
都市の喧騒を離れ、馬車を乗り継いで三日。アレンはついに、自分の「城」へと辿り端いた。
だが、目前に広がる光景を前に、彼は持っていた荷物を地面に落とした。
「……なんだ、これは」
そこにあるはずの「白亜の岩壁に囲まれた美しい洞窟」など、どこにもなかった。
目に飛び込んできたのは、都市の巨大な排水口と直結し、濁った泥水が滝のように流れ込む巨大な泥の穴だ。周囲には風に乗って凄まじい悪臭が漂っている
アレンは震える足で、穴の中へと踏み込んだ。
一歩進むごとに、ぐちゃりと嫌な音が足裏から響く。それは澄んだ泉などではなく、膝まで浸かるほどの汚泥と排泄物の溜まり場だった。
バリン、と乾いた音がして、洞窟内に残留していた「美しい風景」が剥がれ落ちる。
「……幻影魔法か」
ボランは最初から誰も買い手のつかない、都市の「ゴミ捨て場」を擦り付けるつもりだったのか。
洞窟の奥からカサカサと不快な羽音が響く。体長五十センチを超える害虫『ジャイアント・ローチ』の群れが、腐敗したモンスターの死骸を食い荒らしている。
アレンは絶望に打ちひしがれながらも、職業病のように『選別眼』を発動した。
【対象:ダンジョン内の汚泥】
【価値:0(ただの排泄物と腐敗物の混合体)】
【毒性:高(放置すればバイオハザードの危険あり)】
【対象:ジャイアント・ローチ】
【価値:0(害獣。食用不可、素材価値なし)】
視界に入るもの全てが「価値:0」で埋め尽くされる。
レア鉱石? 澄んだ水? そんなものは欠片も存在しない。ここはただ、王都から溢れ出した不要物が流れ着く、最果ての不法投棄場だった。
「僕は……全部……全部失ったのか」
十五年の歳月。凍える夜も、汚物にまみれた昼も耐え抜いて貯めた金貨五百枚。
それが、この臭い泥の穴に変わった。
アレンはその場に膝をつき、泥を握りしめた。
翌日、泥だらけの姿で商業ギルドへ引き返したアレンはボランを呼び出すが、男の顔に昨日の愛想は微塵もなかった。
「話が違う! あそこはただのゴミ捨て場だ、契約を破棄してください!」
アレンの叫びに衆人が注目する中、ボランは鼻をつまみ嘲笑った。
「汚いですね。契約書には『現状渡し』、かつ『破棄不可』と魂の刻印で誓ったはず。証拠もなく喚くのは、現地も確認せずに全財産を投じた馬鹿だと自白しているようなものですよ」
周囲から嘲笑が漏れる。
「アレンさん、あなたはもう一文無しだ。精々そのゴミ溜めで一生ゴミを漁って暮らすがいい。衛兵! この浮浪者を追い出せ!」
屈強な衛兵に両脇を掴まれ、アレンはギルドの外へと放り出された。
冷たい雨が降り始める。石畳に転がったアレンの横に、彼の唯一の私物である清掃用具のカバンが投げ捨てられた。
アレンは雨に打たれながら、じっと自分の手を見た。
泥にまみれ、震えている手。
だが、不思議と心の中の炎は消えていなかった。
「……掃除屋を、舐めるなよ」
アレンはゆっくりと立ち上がり、モップを握った。
上等だ。
誰もが見捨てたゴミの山から、輝く価値を掘り出してやる。
「住めば都にしてやるさ。……ボラン、お前が『返せ』と泣きついてきてももう遅いからな」
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