幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾

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王都へお出かけ編

第5話:新人飼育官の戦慄と、伝説の「手」

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ごめんなさい、第4話と5話が同じだったみたいで……混乱させてすみません


――――――ଘ(੭ˊウ​ˋ)੭✧まえがき✧――――――


「メェェェッ!」

 タオルは歓喜に震える声を上げると、私の頬にその大きな頭をぐいぐいと擦り付けてきた。
 久しぶりに触れるその黄金の毛並みは、相変わらず極上の手触り。けれど、指先を沈めると、毛の奥に蓄積された微かな「魔力の澱」がピリリと指を突く。

(あらあら……。しばらく会わない間に、随分とお手入れをサボっていたみたいね)

 お掃除好きとしての血が騒ぐのを感じていると、足元で銀色の影がゆらりと揺れた。
 タオルの甘える姿に、ほんの少しのやきもちを焼いたのか。モップがタオルの横腹へ鼻先を突っ込んだ。

「わふんっ!(おい、俺の主にベタベタするな!)」

「クルルッ?(なんだ、やるのか? 犬っころ)」

 終焉の幻獣フェンリルと、聖獣麒麟。
 二頭が視線を交わした次の瞬間、放牧場の空気が爆ぜるように揺れた。
 彼らにとっては、単なる「久しぶり」の挨拶代わりの遊びだったのだろう。けれど、草原を転げ回る二頭が巻き起こす衝撃は、もはや自然災害に等しいものだった。

 ズゥゥゥン!!

 お腹に響く重低音と共に、地面が大きく波打つ。
 土煙が舞い上がり、草原の草が一瞬にしてなぎ倒されていく。
 周囲で見ていた飼育官たちは、「世界が終わる……」とでも言いたげな絶望の表情を浮かべ、腰を抜かして震えていた。

「もう、二人とも! 皆の前で土埃を立てちゃダメでしょ!」

 私はパンパン、と力強く手を叩いた。

「ほら、お座り! お掃除チェックをしに行くわよ!」

 私の声が、破壊の嵐を切り裂く。
 すると、先ほどまで大地を揺らしていた二頭の巨躯が、嘘のように動きを止めた。
 モップとタオルは同時にシュンと耳を伏せ、私の目の前で行儀よく「お座り」をした。

「…………」

 飼育官たちの、魂が抜けたような沈黙が、凪いだ空気の中に漂っていた。



「タオル、そんなに服を引っ張らないで。あっちのユニコリザードたちの様子を見たら、お手入れしてあげるって約束したでしょ?」

「メェ、クルルッ……」

 私の袖を口に含んで、甘えるように足を止めるタオル。
 一歩歩くたびに五色の光を振りまく黄金の麒麟と、その隣を威風堂々と歩く白銀のモップ。
 歴史上類を見ないほど贅沢で、そして周囲から見ればひどく畏れ多い「お散歩」が始まった。

 他の幻獣たちのエリアを通る際、柵の近くにいたペガサスやワイバーンたちが、二頭の圧倒的な威圧感を察して、次々と地面に平伏していく。
 エリア全体が、不自然なほどの静けさに包まれる中、私は施設の衛生状態に目を光らせていた。

「……あら。あっちの柵、錆びているわ。あんな状態じゃ、柵に触れた子たちの肌が荒れてしまう。むぅ」

 私は眉をひそめ、風に乗って流れてくる匂いに意識を向けた。
 草の香りに混じって届く、鼻を突くような澱んだの匂い・・・・・
 それは、生命の循環が滞った時に放たれる、ひどく不快な汚れ・・の予感だった。



 ――ガァァァァッ!!

 ユニコリザードの飼育エリアに近づいた瞬間、喉を引き裂くような咆哮が耳を打った。
 巨大な柵がミシミシと悲鳴を上げ、金属が擦れ合う鋭い響きが響き渡る。

「ミヤコ様、危ない! 近寄らないでください!」

 ベテラン飼育官が悲鳴のような声を上げた。
 そこでは、一頭の大型ユニコリザードが、我を忘れたように暴れ狂っていた。
 本来、この種族は鏡のように美しい鱗を誇る、極めて「綺麗好き」でプライドの高い幻獣。
 それなのに、その子の鱗は自身の爪で掻きむしられ、無惨に剥がれ落ちていた。

 濁った瞳には、自分自身が誰なのかすら分からなくなっているような、絶望的な混乱が張り付いている。

「殺処分……。こうなったら……もう、それしかありません!」

 震える手で槍を構える飼育官たち。
 けれど、私は迷わず、暴れる巨躯の鼻先へとその指先を差し出した。

「……静かに。この子、ただ苦しくて、自分が壊れてしまいそうで怖いだけよ」

 私の指先から、淡い桃色の魔力が溢れ出した。
 それは不浄を焼き切るための光ではない。対象の自尊心を優しく呼び覚まし、心のしわ・・を伸ばすための穏やかな香りの生活魔法。

「不潔なものは、今すぐ綺麗にしてあげますからね。……『生活魔法・鱗磨きポリッシュ』」

 。
 魔法の泡が鱗の隙間へと滑り込み、こびりついていた黒い澱を一瞬で浮かせる。すかさずクロスで拭き上げる。
 磨き上げられた鱗が本来の輝きを取り戻すにつれ、ユニコリザードの荒い呼吸が、次第に穏やかなものへと変わっていった。

「あ……ああ……」

 ユニコリザードは嘘のように大人しくなると、私の手のひらに、熱を持った頬をそっと寄せてきた。
 
(ユニコリザードは、本来おとなしい子たち。……昔、教わった通り、綺麗にして落ち着かせてあげればいいの)

 幼い頃に学んだ、あの温かな「洗浄」の記憶。
 けれど、安堵したのも束の間。私の指先は、ある「異変」を捉えていた。

「……? おかしいわね」

 鱗をなぞる指先が、微かな震えを感じ取った。
 命の火が吸い取られて、腐敗が始まっているような不気味な感覚。

「一体、何が起きているの……?」

 ユニコリザードは私の手元で震え続けている。
 この静かな悲鳴の正体が、国家の犯した恐ろしい「過ち」であることに、私はまだ気づいていなかった。



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