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王都へお出かけ編
第10話:血相を変えた騎士団長
しおりを挟む魔道具店『天秤亭』を後にすると、外はすっかり夜の準備を始めていた。
空の端から濃い紫が染み出し、市場の石畳には魔導ランプの灯火がぽつぽつと斑なオレンジ色の模様を作っている。
店じまいを急ぐ商人たちの活気ある声が、夕暮れの空気に溶けていた。
「さあ、モップ。私たちも宿に戻ってから食事にしましょうか」
「わふん……」
モップが短く鼻を鳴らした、その時だった。
穏やかな夜のしじまを切り裂くように、遠くから重厚な金属の擦れる響きが近づいてきた。
ガシャン、ガシャン、と鎧がぶつかり合う激しい音。
(あら、なんだか凄く騒がしい足音が……。えっ、あのキラキラした鎧は……)
人混みをかき分け、猛烈な勢いでこちらへ駆けてくる人影があった。
乱れた髪を振り乱し、汗に濡れた額を拭うこともせず、必死の形相で突き進んでくる男の人。
一国の騎士団長としての威厳をかなぐり捨て、なりふり構わず走ってきたことが一目でわかるその姿。
「はぁ、はぁ……っ、ミヤコ殿! やっと、やっと見つけた……!」
私の目の前で急停止したグレン様は、肩で激しく息をしながら、今にも倒れそうな様子で私を見つめた。
「グレン様!? そんなに息を切らして……。騎士団の皆さんで鬼ごっこでもしていたんですか?」
「そんな悠気なことではない! 貴女に……貴女にどうしても確認しなければならないことがあるんだ!」
グレン様が、私の肩を掴まんばかりに身を乗り出してきた。
「ミヤコ殿、聞いてくれ。今日、各地で起きたユニコリザードの暴走個体リストを洗わせた。……けれど、そこには偶然では片付けられない共通点があったんだ」
「共通点……ですか?」
「暴れているのは、すべて五歳の個体なんだ! 今年、使役幻獣として市場に販売されたばかりの若駒ばかり。……これは流行病などではない。管理施設か、あるいはそのもっと前の段階で、何かが決定的に『間違っている』に違いないんだ!」
「五歳の子ばかり……。あの子も、確かにそうでしたわ」
私は、昨日施設で出会ったユニコリザードのあの濁った瞳を思い出した。
あの子も、今年配備されたばかりの五歳だと聞いていた。
「……グレン様。お話はわかりましたけれど、一旦落ち着いて」
興奮しているグレン様に、私は思わず彼の額へそっと手を伸ばした。
「失礼しますね」と告げて、ひんやりとした私の手のひらを、燃えるように熱い彼の肌へと当てる。
ぴたり、とグレン様の動きが止まった。
その瞬間に彼の心臓が、鎧越しにでも伝わるほど激しく跳ねたのがわかった。
「……な、な、何を……」
「まあ、やっぱり! 凄い熱ですわ、グレン様。これ、知恵熱かしら? それとも日射病?」
グレン様は顔を真っ赤にして硬直した。
こんなに熱い体で街中を走り回るなんて。
「ち、違う! これは熱などではない、焦燥だ! ……いや、それ以前にミヤコ殿、近すぎる……!」
グレン様はタジタジになりながら一歩後退したけれど、その表情には、先ほどまでの悲痛な影の代わりに、人間味のある戸惑いが浮かんでいた。
私は鞄の中から、先ほどバランおじ様から預かった『角の破片』を取り出した。
「グレン様。ちょっと、この破片を見ていただけますか?」
私が指し示したのは、角に開けられた横穴の周辺。
グレン様の目が鋭くなり、私の指先へと集中した。
「……この穴の大きさ、不自然だと思いませんか? ユニコリザードは三歳の頃に横穴を開けるのですが、通常より大きいのです。こんなに大きな穴を開ければ、折れやすくなるは当たり前で……」
グレン様の顔から血の気が引き、震える手で破片を受け取った。
「制御を容易にするために穴を広げ、不衛生な処置も重なり……? だとしたら、今後、もっと頻発するということじゃないか!」
グレン様の荒い呼吸が、次第に深く凪いでいく。
「ミヤコ殿。明日、騎士団の厩舎に貴女を案内する。そこでユニコリザードの状態を、その目で確かめてほしい」
「ええ。わかりました。……けれど、その前にグレン様」
私は改めて、彼の少しだけ下がった体温を確認するように微笑んだ。
「今夜はしっかり冷やして寝るんですよ? 約束ですからね」
「……ああ。心得た」
足元でモップが「わふん」と鼻を鳴らす。
――――――ଘ(੭ˊウˋ)੭✧あとがき✧――――――
ユニコリザードの角折れ騒動🦎
これは、国家を揺るがす大事件になっていくのかもしれません。
次回なんと……!
新展開です。
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