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第44話 圧巻、リュシアンの強さ
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「ねぇ、ロベルトって若い頃に剣術大会を何連覇もしていたんでしょう?」
「ええ、かなり昔の話ですが。どうしたのですか? 急に」
「その剣術大会って、今も開催されているのかしら?」
「ええ、勿論。今は、都市衛兵隊が衛兵の人材発掘を兼ねて大会を運営していますね」
駅馬車を通すに当たって、護衛は必須。昨今の治安の悪さ、野盗対策に護衛のスカウトしようと考えていた。ちょうど、次の剣術大会は来週行われる。衛兵の精鋭たちや街の腕自慢たちが出場するこの大会は昨今、多くの観客を入れること無く衛兵の屯所で行われた。
「ロベルト、今回の大会、一緒に見に行きましょ。見込みのある剣士を選んでほしいの」
「はい、かしこまりました」
大会当日の朝、ロベルトを連れて衛兵の屯所へと向かうと、四十人ほどの屈強な男たちが各自準備運動をしていた。
「さすがに皆、厳ついわね。とっても強そう」
「ええ、衛兵の給与は良いですからね」
予選は、十人ずつに分けられてのバトルロワイヤル形式。一見、人数を絞るための雑な仕組みに見えるが、ロベルト曰く、一体多数の戦いが出来る者は有能なため理にかなっているのだとか。
剣術大会と銘打っているが、出場者が持つ武器は剣以外にも、槍や棍棒といったあらゆる武器が散見される。勿論、命のやり取りにならないように木製の物である。
予選第一試合が始まった。
開始と同時に、各々近くにいる者に攻撃を仕掛ける。激しくぶつかり合う木製の武器の激突音、本物の刃は付いていないが、かなりの迫力だ。
「なんか、すごいわね。なんで観客をいれないのかしら。興行として儲かりそうなのに」
「先代領主の時代は、かなり大々的にやっていたのですが……」
「あ、察し……きっと、あのポンコツ父がナンセンスな事をして大赤字を垂れ流したのね」
「え、ええ。そうなのです」
来年からは大々的にプロモーションして、大きな会場で開催しよう。他領地からの参加も募ればより良い人材の発掘もできるし、領民も増えるわ。
「勝者、リュシアン!」
審判が勝者の名前を呼ぶ。
え? もう勝負が着いたの? 考え事をしてたら見逃しちゃった。
筋骨隆々な参加者の中、第一試合を勝ち抜いたのはスラリと長身の若者。しかもイケメン。これは来年の大会も出てくれたら女性ファンが殺到するだろうな。
「あの者は……」
「ロベルト、あの人の事、知っているの?」
「ええ、彼はリュシアン。我が親友であり、リタの夫、ダミアンの甥っ子です」
ロベルトの親友ダミアンも、ロベルト並に強かったと聞くが、その遺伝子は甥っ子も持っているようね。彼の次の試合は、よそ見しないで注目しなきゃ。
ものの二時間程度で予選は終了。勝ち上がった四人の男たちがトーナメント形式で本選戦う。興行として剣術大会を開催するなら、出場者は百人以上必要ね。この調子だと表彰式を入れても夕方前に終わってしまう。
本選第一試合、リュシアン対大男。リュシアンも長身であるが、大木のような棍棒を振り回す、相手の男は頭一つ分以上大きい。腕の図太さも相当なもので、まるで肩から足が生えているかのようだ。
リュシアンは木剣をくるりと一度回し、スッと半身に構える。
ブォォと音を唸りを上げて振り回す棍棒がリュシアンに襲いかかるが、リュシアンは状態をそらし、半歩だけ横に移動して躱す。そのすがたは、かつて賊に襲われたときに戦ったロベルトの身のこなしを彷彿とさせる。
息をつく間もなく連続で振り回す棍棒の攻撃はリュシアンに掠ることすら無い。苛立つ大男が棍棒を振りかぶり、力を込めて振り下ろす。それに合わせて放ったリュシアンの一閃が、棍棒を握る手に決まった。
「ぐぁぁぁぁぁ」
苦悶の叫びが屯所に響く。大男の粉砕された拳、折れた指が明後日の方向を向く。
「勝負あり! 勝者リュシアン」
圧倒、圧巻の結果だった。ロベルトを見ると、いつもの穏やかな表情ではない。
「ロ、ロベルトの方が強いわよね」
「うーん、わかりませんね。私も彼がこんなに強くなっているとは予想だにしておりませんでした」
多分、本心だろう。ロベルトの無表情な顔が物語っている。
本選に進んだリュシアン以外の出場者も決して弱いわけではない。だが、飛び抜けて強いリュシアンは圧倒的な実力を見せそのまま、余裕で優勝した。
ふふふ、いい人材を見つけた。駅馬車の護衛にはリュシアンをスカウトしよう。
幸いロベルトの知っている人だ、明日にでも訪ねてみようと考えていた、その時。
「ロベルト叔父さん! おーい、ロベルト叔父さーん」
リュシアンが手を振りながら駆けてくる。ナイスタイミングだ。
「ロベルト叔父さん! ご無沙汰してます。ダミアン叔父さんの甥っ子リュシアンです」
「久しぶりだなリュシアン。こんなに大きくなって」
「あはは、最後にあったのは僕が十歳の時だから……十五年前ですもん」
「グレゴリアス領に戻ってきていたのだな」
「ええ、父の仕事でヴァルテン領に引っ越したのですが、父が亡くなってしまったので」
「オレリアンさんが亡くなったのか……大変だったな」
ロベルトが遠い目をしながら、リュシアンの父の死を悲しんでいた。
ロベルトの親友ダミアンの兄であるオレリアン。ロベルトにとっても兄貴的存在で幼少の頃はよく面倒を見てくれていたのだとか。
「そうだ! ロベルト叔父さん。今日一緒に飯くいましょうよ! 積もる話もあるんだ」
「ありがたいお誘いだが、私はまだ仕事があってな」
いや、仕事なんて後回しでいい。リュシアンをスカウトするせっかくのチャンス。逃さないわ。
「いえ! ロベルト、リュシアンさんと食事しましょ。私も混ぜてもらって良いかしら」
「ええ、かなり昔の話ですが。どうしたのですか? 急に」
「その剣術大会って、今も開催されているのかしら?」
「ええ、勿論。今は、都市衛兵隊が衛兵の人材発掘を兼ねて大会を運営していますね」
駅馬車を通すに当たって、護衛は必須。昨今の治安の悪さ、野盗対策に護衛のスカウトしようと考えていた。ちょうど、次の剣術大会は来週行われる。衛兵の精鋭たちや街の腕自慢たちが出場するこの大会は昨今、多くの観客を入れること無く衛兵の屯所で行われた。
「ロベルト、今回の大会、一緒に見に行きましょ。見込みのある剣士を選んでほしいの」
「はい、かしこまりました」
大会当日の朝、ロベルトを連れて衛兵の屯所へと向かうと、四十人ほどの屈強な男たちが各自準備運動をしていた。
「さすがに皆、厳ついわね。とっても強そう」
「ええ、衛兵の給与は良いですからね」
予選は、十人ずつに分けられてのバトルロワイヤル形式。一見、人数を絞るための雑な仕組みに見えるが、ロベルト曰く、一体多数の戦いが出来る者は有能なため理にかなっているのだとか。
剣術大会と銘打っているが、出場者が持つ武器は剣以外にも、槍や棍棒といったあらゆる武器が散見される。勿論、命のやり取りにならないように木製の物である。
予選第一試合が始まった。
開始と同時に、各々近くにいる者に攻撃を仕掛ける。激しくぶつかり合う木製の武器の激突音、本物の刃は付いていないが、かなりの迫力だ。
「なんか、すごいわね。なんで観客をいれないのかしら。興行として儲かりそうなのに」
「先代領主の時代は、かなり大々的にやっていたのですが……」
「あ、察し……きっと、あのポンコツ父がナンセンスな事をして大赤字を垂れ流したのね」
「え、ええ。そうなのです」
来年からは大々的にプロモーションして、大きな会場で開催しよう。他領地からの参加も募ればより良い人材の発掘もできるし、領民も増えるわ。
「勝者、リュシアン!」
審判が勝者の名前を呼ぶ。
え? もう勝負が着いたの? 考え事をしてたら見逃しちゃった。
筋骨隆々な参加者の中、第一試合を勝ち抜いたのはスラリと長身の若者。しかもイケメン。これは来年の大会も出てくれたら女性ファンが殺到するだろうな。
「あの者は……」
「ロベルト、あの人の事、知っているの?」
「ええ、彼はリュシアン。我が親友であり、リタの夫、ダミアンの甥っ子です」
ロベルトの親友ダミアンも、ロベルト並に強かったと聞くが、その遺伝子は甥っ子も持っているようね。彼の次の試合は、よそ見しないで注目しなきゃ。
ものの二時間程度で予選は終了。勝ち上がった四人の男たちがトーナメント形式で本選戦う。興行として剣術大会を開催するなら、出場者は百人以上必要ね。この調子だと表彰式を入れても夕方前に終わってしまう。
本選第一試合、リュシアン対大男。リュシアンも長身であるが、大木のような棍棒を振り回す、相手の男は頭一つ分以上大きい。腕の図太さも相当なもので、まるで肩から足が生えているかのようだ。
リュシアンは木剣をくるりと一度回し、スッと半身に構える。
ブォォと音を唸りを上げて振り回す棍棒がリュシアンに襲いかかるが、リュシアンは状態をそらし、半歩だけ横に移動して躱す。そのすがたは、かつて賊に襲われたときに戦ったロベルトの身のこなしを彷彿とさせる。
息をつく間もなく連続で振り回す棍棒の攻撃はリュシアンに掠ることすら無い。苛立つ大男が棍棒を振りかぶり、力を込めて振り下ろす。それに合わせて放ったリュシアンの一閃が、棍棒を握る手に決まった。
「ぐぁぁぁぁぁ」
苦悶の叫びが屯所に響く。大男の粉砕された拳、折れた指が明後日の方向を向く。
「勝負あり! 勝者リュシアン」
圧倒、圧巻の結果だった。ロベルトを見ると、いつもの穏やかな表情ではない。
「ロ、ロベルトの方が強いわよね」
「うーん、わかりませんね。私も彼がこんなに強くなっているとは予想だにしておりませんでした」
多分、本心だろう。ロベルトの無表情な顔が物語っている。
本選に進んだリュシアン以外の出場者も決して弱いわけではない。だが、飛び抜けて強いリュシアンは圧倒的な実力を見せそのまま、余裕で優勝した。
ふふふ、いい人材を見つけた。駅馬車の護衛にはリュシアンをスカウトしよう。
幸いロベルトの知っている人だ、明日にでも訪ねてみようと考えていた、その時。
「ロベルト叔父さん! おーい、ロベルト叔父さーん」
リュシアンが手を振りながら駆けてくる。ナイスタイミングだ。
「ロベルト叔父さん! ご無沙汰してます。ダミアン叔父さんの甥っ子リュシアンです」
「久しぶりだなリュシアン。こんなに大きくなって」
「あはは、最後にあったのは僕が十歳の時だから……十五年前ですもん」
「グレゴリアス領に戻ってきていたのだな」
「ええ、父の仕事でヴァルテン領に引っ越したのですが、父が亡くなってしまったので」
「オレリアンさんが亡くなったのか……大変だったな」
ロベルトが遠い目をしながら、リュシアンの父の死を悲しんでいた。
ロベルトの親友ダミアンの兄であるオレリアン。ロベルトにとっても兄貴的存在で幼少の頃はよく面倒を見てくれていたのだとか。
「そうだ! ロベルト叔父さん。今日一緒に飯くいましょうよ! 積もる話もあるんだ」
「ありがたいお誘いだが、私はまだ仕事があってな」
いや、仕事なんて後回しでいい。リュシアンをスカウトするせっかくのチャンス。逃さないわ。
「いえ! ロベルト、リュシアンさんと食事しましょ。私も混ぜてもらって良いかしら」
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