男爵令嬢アニエスカ〜日本一の女社長、貧乏貴族令嬢に転生して経営無双する〜

いぬがみとうま🐾

文字の大きさ
45 / 46

第45話 納車、最新式の馬車

しおりを挟む
 リュシアンを屋敷に招待して、普段より豪華なディナーを用意する。

「す、すごい。僕が領主様の屋敷に招待される日が来るなんて」
 リュシアンは屋敷を見回しながらはしゃいでいる。まるでハイテンションの少年だ。

「リュシアン君、剣術大会で優勝したんだって? すごいねえ」
「ありがとうございます!領主様に褒めていただけるなんて感激だなぁ」
「しかも圧倒的な強さだったみたいじゃない。頼もしいねえ」
「たまたまですよ。ヴァルテン領の剣術指南所では僕なんて中の下でしたもん」

 中の下?
 
 ヴァルテン領は隣国との国境に位置し、軍事に力を入れている。国の中でも強者が集まるとは聞いたことがあるけど、リュシアンより強い人がたくさんいるなんて……世の中は広いわね。

「でも優勝できてよかったなぁ。衛兵になれたら当面食いつなぐことが出来る」
「あなた、働いてないの?」
「ええ、お嬢様。まだ戻ってきたばかりで職を探していたのです」
「ならば、ちょうどういいわ! 私が始める新規事業を手伝ってみない?」

 さて、スカウト開始。

「え? 僕なんかで務まる仕事があるのですか?」
「ええ、駅馬車を守る、護衛よ。野盗と戦うことになるかも知れないけど、その分報酬も弾むわ」

 衛兵の一・五倍くらいの給与を想定していた。危険が伴う業務内容だけど、旅客、運輸、郵便での想定収益からすると、一つの馬車に最大で三人の護衛を付けるのが精一杯。でも三人の護衛を付けると、その分、積載できる積荷の量が減ってしまう。

 ならば、一人あたり一・五倍の報酬を払ってでも強い護衛を雇いたい。

「是非とも働かせて下さい! わぁ、今日はいい事だらけだ。人生最高の日です」
「うふふ、大げさね」
「優勝してロベルト叔父さんに会えて、職にもつけて、更にはこんなに綺麗な男爵夫人とお食事も出来るなんて、これ以上幸せなことないですよ」

 さらっと母の事を褒めたっ! もしかして熟女好き?

「まぁ、お上手なお世辞ね! こんなおばさんをからかって、もう♡」
「お世辞なんかじゃありませんよ! 女神様かと思いましたもん」
「こ、こら、リュシアン君! 夫の私が目の前にいるのに……領主……嫉妬」
「申し訳ございません、領主様。調子に乗ってしまいました、勿論冗談半分です」
「半分本気なんじゃないかーっ! 領主……唖然」
「「「あははははは」」」

 和やかなディナーの後、ロベルトとリュシアンは談話室でお酒を酌み交わしながら、夜遅くまで積もる話に花を咲かせていた。

 無事、思惑通りにリュシアンのスカウトに成功。ロベルト並に強い護衛が仲間になるなんて幸先の良いスタートだ。


 翌日、ヴァンドール領から注文していた旅客用の馬車が届いた。
 十名が乗れる頑丈な作りの六頭立て。馬車の上部には荷物も積載でき、客室下部にも大容量のキャビンが備え付けられている。

「どうだ! アニエスカ。最新式の旅客兼貨物馬車だ! 最高だろ」
「ええ、かなり良い。気に入ったわ。って、なんでアンタが納車しに来るのよロメオ!」
「アニエスカは大切な取引先だからな。わざわざ私が来てやったのだ」
「来なくていいわよ、アンタが来ると話がややこしくなりそうだわ」
「なんて事をいうのだ! 元婚約者に対して」

 ……呆れる

 ちょうど、寿司ジョゼへの水、アニー・アンブレラへの絹の納品のタイミングだった事で、試運転がてら新しい馬車でヴァンドール領へと向かうことにした。勿論、研修も兼ねているのでリュシアンも連れて行く。

 
 広い馬車の中、大きな窓、ソファのような座り心地。まるでセンチュリーに乗っている気分だわ、高いだけあるわね。

「ロメオさんって、アニーお嬢様と婚約してたんですか?」
「そうなんだ、俺はまた婚約しようと思っているが今のところ断れていてな。リュシアンからもアニエスカに言ってくれないか」
「えー、僕、昨日雇われたばっかの下っ端ですよ?」

 御者台にいるリュシアンが客室にいるロメオに話しかける。

「なんで、アンタがこっちの馬車に乗ってるのよ! 自分の馬車に乗りなさいよ」
「これは……納車した馬車の確認だ。俺は、アフターケアも念入りするタイプだからな」
「それに婚約しようと思ってるって何よ! 一〇〇億エウロ貰ってもお断りよ!」

 それにしても六頭の馬が引く馬車は速い。この分ならいつもより二時間は早くヴァンドール領に着けそうね。

 ヒヒィィィン――

 馬のいななきと共に馬車が急停止した。
 
「ロベルト! どうしたの?」
「賊です……アニー様、窓のシャッターを締めて、決して鍵を開けないように」

 そういうと、御者台からロベルトとリュシアンが飛び降りた。
 この馬車、防犯対策に窓の内側に頑丈なシャッターが備わっているし、頑丈なかんぬき状の鍵が内側に付いているのも心強い。

 私とロメオは手分けして窓のシャッターを閉める。とはいえ、状況を把握したいので、少し隙間を開けて外の様子は覗く。

「リュシアン、相手は十五人。行けるか?」
「うん、余裕! ロベルト叔父さんは見物でもしててよ」

 お手並み拝見、とい言いたいけれど、見た感じ賊も皆筋骨隆々で相当強そう、ついでに相当な悪人面。

「へへへ、いい馬車だな。積荷ごと置いていってもらおうか」
「「「グヘヘヘ」」」

 世紀末のモヒカン男のような賊たちが、武器を構える。
 
「ロベルト叔父さん、コイツらは殺してもいいの?」
「自分の命が危なかったらしょうがないが、極力、殺すな」
「はーい! 了解~」

 リュシアンが剣を構え一回してから、戦闘態勢に入った。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

伯爵令嬢の秘密の知識

シマセイ
ファンタジー
16歳の女子高生 佐藤美咲は、神のミスで交通事故に巻き込まれて死んでしまう。異世界のグランディア王国ルナリス伯爵家のミアとして転生し、前世の記憶と知識チートを授かる。魔法と魔道具を秘密裏に研究しつつ、科学と魔法を融合させた夢を追い、小さな一歩を踏み出す。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。  リバコーン公爵家の長女ソフィアは、全貴族令嬢10人の1人の聖獣持ちに選ばれたが、その聖獣がこれまで誰も持ったことのない小さく弱々しいトカゲでしかなかった。それに比べて側室から生まれた妹は有名な聖獣スフィンクスが従魔となった。他にもグリフォンやペガサス、ワイバーンなどの実力も名声もある従魔を従える聖女がいた。リバコーン公爵家の名誉を重んじる父親は、ソフィアを正室の領地に追いやり第13王子との婚約も辞退しようとしたのだが……  王立聖女学園、そこは爵位を無視した弱肉強食の競争社会。だがどれだけ努力しようとも神の気紛れで全てが決められてしまう。まず従魔が得られるかどうかで貴族令嬢に残れるかどうかが決まってしまう。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

どうやらお前、死んだらしいぞ? ~変わり者令嬢は父親に報復する~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「ビクティー・シークランドは、どうやら死んでしまったらしいぞ?」 「はぁ? 殿下、アンタついに頭沸いた?」  私は思わずそう言った。  だって仕方がないじゃない、普通にビックリしたんだから。  ***  私、ビクティー・シークランドは少し変わった令嬢だ。  お世辞にも淑女然としているとは言えず、男が好む政治事に興味を持ってる。  だから父からも煙たがられているのは自覚があった。  しかしある日、殺されそうになった事で彼女は決める。  「必ず仕返ししてやろう」って。  そんな令嬢の人望と理性に支えられた大勝負をご覧あれ。

処理中です...