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第45話 納車、最新式の馬車
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リュシアンを屋敷に招待して、普段より豪華なディナーを用意する。
「す、すごい。僕が領主様の屋敷に招待される日が来るなんて」
リュシアンは屋敷を見回しながらはしゃいでいる。まるでハイテンションの少年だ。
「リュシアン君、剣術大会で優勝したんだって? すごいねえ」
「ありがとうございます!領主様に褒めていただけるなんて感激だなぁ」
「しかも圧倒的な強さだったみたいじゃない。頼もしいねえ」
「たまたまですよ。ヴァルテン領の剣術指南所では僕なんて中の下でしたもん」
中の下?
ヴァルテン領は隣国との国境に位置し、軍事に力を入れている。国の中でも強者が集まるとは聞いたことがあるけど、リュシアンより強い人がたくさんいるなんて……世の中は広いわね。
「でも優勝できてよかったなぁ。衛兵になれたら当面食いつなぐことが出来る」
「あなた、働いてないの?」
「ええ、お嬢様。まだ戻ってきたばかりで職を探していたのです」
「ならば、ちょうどういいわ! 私が始める新規事業を手伝ってみない?」
さて、スカウト開始。
「え? 僕なんかで務まる仕事があるのですか?」
「ええ、駅馬車を守る、護衛よ。野盗と戦うことになるかも知れないけど、その分報酬も弾むわ」
衛兵の一・五倍くらいの給与を想定していた。危険が伴う業務内容だけど、旅客、運輸、郵便での想定収益からすると、一つの馬車に最大で三人の護衛を付けるのが精一杯。でも三人の護衛を付けると、その分、積載できる積荷の量が減ってしまう。
ならば、一人あたり一・五倍の報酬を払ってでも強い護衛を雇いたい。
「是非とも働かせて下さい! わぁ、今日はいい事だらけだ。人生最高の日です」
「うふふ、大げさね」
「優勝してロベルト叔父さんに会えて、職にもつけて、更にはこんなに綺麗な男爵夫人とお食事も出来るなんて、これ以上幸せなことないですよ」
さらっと母の事を褒めたっ! もしかして熟女好き?
「まぁ、お上手なお世辞ね! こんなおばさんをからかって、もう♡」
「お世辞なんかじゃありませんよ! 女神様かと思いましたもん」
「こ、こら、リュシアン君! 夫の私が目の前にいるのに……領主……嫉妬」
「申し訳ございません、領主様。調子に乗ってしまいました、勿論冗談半分です」
「半分本気なんじゃないかーっ! 領主……唖然」
「「「あははははは」」」
和やかなディナーの後、ロベルトとリュシアンは談話室でお酒を酌み交わしながら、夜遅くまで積もる話に花を咲かせていた。
無事、思惑通りにリュシアンのスカウトに成功。ロベルト並に強い護衛が仲間になるなんて幸先の良いスタートだ。
翌日、ヴァンドール領から注文していた旅客用の馬車が届いた。
十名が乗れる頑丈な作りの六頭立て。馬車の上部には荷物も積載でき、客室下部にも大容量のキャビンが備え付けられている。
「どうだ! アニエスカ。最新式の旅客兼貨物馬車だ! 最高だろ」
「ええ、かなり良い。気に入ったわ。って、なんでアンタが納車しに来るのよロメオ!」
「アニエスカは大切な取引先だからな。わざわざ私が来てやったのだ」
「来なくていいわよ、アンタが来ると話がややこしくなりそうだわ」
「なんて事をいうのだ! 元婚約者に対して」
……呆れる
ちょうど、寿司ジョゼへの水、アニー・アンブレラへの絹の納品のタイミングだった事で、試運転がてら新しい馬車でヴァンドール領へと向かうことにした。勿論、研修も兼ねているのでリュシアンも連れて行く。
広い馬車の中、大きな窓、ソファのような座り心地。まるでセンチュリーに乗っている気分だわ、高いだけあるわね。
「ロメオさんって、アニーお嬢様と婚約してたんですか?」
「そうなんだ、俺はまた婚約しようと思っているが今のところ断れていてな。リュシアンからもアニエスカに言ってくれないか」
「えー、僕、昨日雇われたばっかの下っ端ですよ?」
御者台にいるリュシアンが客室にいるロメオに話しかける。
「なんで、アンタがこっちの馬車に乗ってるのよ! 自分の馬車に乗りなさいよ」
「これは……納車した馬車の確認だ。俺は、アフターケアも念入りするタイプだからな」
「それに婚約しようと思ってるって何よ! 一〇〇億エウロ貰ってもお断りよ!」
それにしても六頭の馬が引く馬車は速い。この分ならいつもより二時間は早くヴァンドール領に着けそうね。
ヒヒィィィン――
馬の嘶きと共に馬車が急停止した。
「ロベルト! どうしたの?」
「賊です……アニー様、窓のシャッターを締めて、決して鍵を開けないように」
そういうと、御者台からロベルトとリュシアンが飛び降りた。
この馬車、防犯対策に窓の内側に頑丈なシャッターが備わっているし、頑丈な閂状の鍵が内側に付いているのも心強い。
私とロメオは手分けして窓のシャッターを閉める。とはいえ、状況を把握したいので、少し隙間を開けて外の様子は覗く。
「リュシアン、相手は十五人。行けるか?」
「うん、余裕! ロベルト叔父さんは見物でもしててよ」
お手並み拝見、とい言いたいけれど、見た感じ賊も皆筋骨隆々で相当強そう、ついでに相当な悪人面。
「へへへ、いい馬車だな。積荷ごと置いていってもらおうか」
「「「グヘヘヘ」」」
世紀末のモヒカン男のような賊たちが、武器を構える。
「ロベルト叔父さん、コイツらは殺してもいいの?」
「自分の命が危なかったらしょうがないが、極力、殺すな」
「はーい! 了解~」
リュシアンが剣を構え一回してから、戦闘態勢に入った。
「す、すごい。僕が領主様の屋敷に招待される日が来るなんて」
リュシアンは屋敷を見回しながらはしゃいでいる。まるでハイテンションの少年だ。
「リュシアン君、剣術大会で優勝したんだって? すごいねえ」
「ありがとうございます!領主様に褒めていただけるなんて感激だなぁ」
「しかも圧倒的な強さだったみたいじゃない。頼もしいねえ」
「たまたまですよ。ヴァルテン領の剣術指南所では僕なんて中の下でしたもん」
中の下?
ヴァルテン領は隣国との国境に位置し、軍事に力を入れている。国の中でも強者が集まるとは聞いたことがあるけど、リュシアンより強い人がたくさんいるなんて……世の中は広いわね。
「でも優勝できてよかったなぁ。衛兵になれたら当面食いつなぐことが出来る」
「あなた、働いてないの?」
「ええ、お嬢様。まだ戻ってきたばかりで職を探していたのです」
「ならば、ちょうどういいわ! 私が始める新規事業を手伝ってみない?」
さて、スカウト開始。
「え? 僕なんかで務まる仕事があるのですか?」
「ええ、駅馬車を守る、護衛よ。野盗と戦うことになるかも知れないけど、その分報酬も弾むわ」
衛兵の一・五倍くらいの給与を想定していた。危険が伴う業務内容だけど、旅客、運輸、郵便での想定収益からすると、一つの馬車に最大で三人の護衛を付けるのが精一杯。でも三人の護衛を付けると、その分、積載できる積荷の量が減ってしまう。
ならば、一人あたり一・五倍の報酬を払ってでも強い護衛を雇いたい。
「是非とも働かせて下さい! わぁ、今日はいい事だらけだ。人生最高の日です」
「うふふ、大げさね」
「優勝してロベルト叔父さんに会えて、職にもつけて、更にはこんなに綺麗な男爵夫人とお食事も出来るなんて、これ以上幸せなことないですよ」
さらっと母の事を褒めたっ! もしかして熟女好き?
「まぁ、お上手なお世辞ね! こんなおばさんをからかって、もう♡」
「お世辞なんかじゃありませんよ! 女神様かと思いましたもん」
「こ、こら、リュシアン君! 夫の私が目の前にいるのに……領主……嫉妬」
「申し訳ございません、領主様。調子に乗ってしまいました、勿論冗談半分です」
「半分本気なんじゃないかーっ! 領主……唖然」
「「「あははははは」」」
和やかなディナーの後、ロベルトとリュシアンは談話室でお酒を酌み交わしながら、夜遅くまで積もる話に花を咲かせていた。
無事、思惑通りにリュシアンのスカウトに成功。ロベルト並に強い護衛が仲間になるなんて幸先の良いスタートだ。
翌日、ヴァンドール領から注文していた旅客用の馬車が届いた。
十名が乗れる頑丈な作りの六頭立て。馬車の上部には荷物も積載でき、客室下部にも大容量のキャビンが備え付けられている。
「どうだ! アニエスカ。最新式の旅客兼貨物馬車だ! 最高だろ」
「ええ、かなり良い。気に入ったわ。って、なんでアンタが納車しに来るのよロメオ!」
「アニエスカは大切な取引先だからな。わざわざ私が来てやったのだ」
「来なくていいわよ、アンタが来ると話がややこしくなりそうだわ」
「なんて事をいうのだ! 元婚約者に対して」
……呆れる
ちょうど、寿司ジョゼへの水、アニー・アンブレラへの絹の納品のタイミングだった事で、試運転がてら新しい馬車でヴァンドール領へと向かうことにした。勿論、研修も兼ねているのでリュシアンも連れて行く。
広い馬車の中、大きな窓、ソファのような座り心地。まるでセンチュリーに乗っている気分だわ、高いだけあるわね。
「ロメオさんって、アニーお嬢様と婚約してたんですか?」
「そうなんだ、俺はまた婚約しようと思っているが今のところ断れていてな。リュシアンからもアニエスカに言ってくれないか」
「えー、僕、昨日雇われたばっかの下っ端ですよ?」
御者台にいるリュシアンが客室にいるロメオに話しかける。
「なんで、アンタがこっちの馬車に乗ってるのよ! 自分の馬車に乗りなさいよ」
「これは……納車した馬車の確認だ。俺は、アフターケアも念入りするタイプだからな」
「それに婚約しようと思ってるって何よ! 一〇〇億エウロ貰ってもお断りよ!」
それにしても六頭の馬が引く馬車は速い。この分ならいつもより二時間は早くヴァンドール領に着けそうね。
ヒヒィィィン――
馬の嘶きと共に馬車が急停止した。
「ロベルト! どうしたの?」
「賊です……アニー様、窓のシャッターを締めて、決して鍵を開けないように」
そういうと、御者台からロベルトとリュシアンが飛び降りた。
この馬車、防犯対策に窓の内側に頑丈なシャッターが備わっているし、頑丈な閂状の鍵が内側に付いているのも心強い。
私とロメオは手分けして窓のシャッターを閉める。とはいえ、状況を把握したいので、少し隙間を開けて外の様子は覗く。
「リュシアン、相手は十五人。行けるか?」
「うん、余裕! ロベルト叔父さんは見物でもしててよ」
お手並み拝見、とい言いたいけれど、見た感じ賊も皆筋骨隆々で相当強そう、ついでに相当な悪人面。
「へへへ、いい馬車だな。積荷ごと置いていってもらおうか」
「「「グヘヘヘ」」」
世紀末のモヒカン男のような賊たちが、武器を構える。
「ロベルト叔父さん、コイツらは殺してもいいの?」
「自分の命が危なかったらしょうがないが、極力、殺すな」
「はーい! 了解~」
リュシアンが剣を構え一回してから、戦闘態勢に入った。
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