社畜リーマンが乙女ゲームに異世界転生した件 ~嫁がいるので意地でも現実世界に帰ります~

琥珀あひる

文字の大きさ
86 / 156
第八章 学園懇親会

085 登校日

しおりを挟む
 じっくりと孤独な寮生活を堪能できた長期休学の前半も最終日。生徒らが明日からの登園日に備えて続々と寮に帰ってきた事で、休み前のあの喧騒が蘇ってきた。俺のタイムスケジュールも明日から暫くの間、授業モードに変えていかなければならなくなる。俺が学食「ロタスティ」で早めの夕食を食っていると、二人の男子生徒が声を掛けてきた。

 一人はジェムズ・フランダール・ドーベルウィン、もう一人はその従兄弟マーロン・デルーサ・スクロード。二人共神妙な面持ちで、俺の向かいに座った。

「アルフォード。今日は改めて礼を言いたい」

 ドーベルウィンは頭を下げた。

「俺は家の内情を全く知らなかった。お前の姉上様から直接話を聞き、我が家の置かれた状況を初めて知った。家の窮地を救ってくれて感謝する」

「我が家の深刻な状況が打開できる見込みが立ったと父上も母上も言っていた。グレン、礼を言うぞ!」

 二人は改めて頭を下げる。リサが両家の帳簿を精査した結果、実は家計が火の車だった現実が把握できたのだろう。俺は二人にこちらはしっかり報酬を貰ってやっている。その上で改善できたのだから良かったではないかと伝えた。二人は今後ともよろしく頼むと言って、席を立った。

(二人共、親から相当言われたんだろうなぁ)

 おそらくリサと両親の話に立ち会わせられたのだろう。その上でウチとはしっかりと付き合えと言い含められたのは間違いない。15、6の子供に言う事ではないだろう、とは思うが嫡嗣だから早い方がいいとの判断が働いた事は容易に想像できる。俺がもしその立場だったら、一体どうしていただろうか。愛羅と祐介、二人の子供の顔が浮かぶ。

(ダメだな、きっと)

 俺はかぶりを振った。そういう振る舞いをする自分がまず想像できない。そして子供が言うことを聞く光景も浮かばない。そういった点、子供にきつく諭すドーベルウィン伯爵夫妻やスクロード男爵夫妻には遠く及ばないよなぁ、と思った。俺はロタスティを後にして、屋敷にピアノを弾くために向かった。

 登校日初日。クラスの中はいつも以上の喧騒に包まれていた。みんな久々の対面で、積もる話も多いのだろう。俺はトーマスとは一声掛け合い、シャロンとは目を合わせて席につくと、前の席のリディアが休み中どうだったの? と声をかけてきた。

「もちろん寮生活を堪能していたよ」

 ええっ! と返してくるリディア。隣席のフレディがずっとか? と訊いてきたのでそうだよ、と返すと、二人共驚いていた。まぁ、俺の場合、相場や仕事、鍛錬にピアノ、調査とやることが多いから、家に帰るなんて発想はないんだよなぁ。聞けば二人とも実家に戻って羽を伸ばしてきたらしい。俺はある疑問をフレディにぶつけてみた。

「ところで男が女に変わることなんてあるのか、教会的に?

 唐突だったからだろう。フレディがポカーンとした顔になっている。リディアが首を突っ込むように聞いてきた。

「なんなの、それ?」

 俺は事情を説明した。俺が知っている奴は「ジャック・コルレッツ」という男の筈なのに、代わりになぜか「ジャンヌ・コルレッツ」という女がいる、と。

「あるかもしれない・・・・・」

「はぁ!?」

 そんなことがあるのか! フレディの呟きに今度は俺が仰け反った。

「いや。大っぴらに言えることじゃないんだけどさ、お金を積んで・・・・・」

 フレディは小声で話した。教会への性別変更の願い出はままあるらしい。普通ならそんなものは当然ながら却下されるのだが、中には寄付を受け取って秘密裏に行われるケースもあるらしい。それが発覚して問題になることもあるそうだ。

「ということは、カネを積んで化けることもあり得ると」

「そういうことだな」

 ため息交じりにフレディが言った。話を聞いてリディアは呆れ返っている。このエレノ世界、出生や死亡、婚姻といった戸籍を管理するのは国ではなくて教会だ。だから教会には仕事の需要がある。ただどんな宗教なのかは俺は知らない。この国の人々には信仰心とかそういったものは全くなく、同じくニーズもないのだ。だから俺はなにも知らない。

 戸籍を弄ったジャンヌ・コルレッツの中身は本当に男かもしれない。これはまだ想像上での話だが、事実であるならば中々手強い。話的にも人間的にもである。この話で俺のコルレッツに対する警戒心がまた一つ上がった。

 昼、ロタスティでメシを食べていると向かいにアーサーが座った。プレートには例の厚切りステーキだ。お互い挨拶を交わし、話しながらメシを食べる。以前と変わらぬ光景。だが、何かが違う。

「どうかしたのか?」

「ん? 何がだ」

 どうしたと聞いてくるアーサー。逆に質問を振ってきた。

「週末『学園懇親会』というのがあるらしいぞ」

「ああ。懇親会か」

 俺は事情を説明した。生徒会の件で集まった際に話があったクリスの学園内の企画話にコレットが声を上げて、生徒会とクリスが共同で行う事になったイベントだと。

「ああ、あれか! まさかそんな話に」

 アーサーは快諾してくれた。その時、アーサーの後ろをなじみ・・・のある顔が涼しい顔をして、あり得ない格好で横切った。俺は思わず立ち上がった。

「おいリサ! なんだその服は!」

「あらグレンじゃない」

 何事もないように平然と振る舞うリサ。ちょっと待て。ロタスティでメシを食べるのはいいとして、どうして学生服なんかを着ているのだ!

「似合うでしょ、これ」

「違う! ここの生徒じゃないだろ!」

 ええそうよ、と答えるリサ。全く悪びれていない。

「だって私がどんな服を着るのも自由でしょ。一度着てみたかったのよね」

「学園に入っていないのに、そんなもの着たらダメじゃないか!」

「法律や勅令に背いていないわよ。そんな決まり事があった?」

「そういう問題じゃ・・・・・」

「大丈夫だから、安心してグレン」

 俺とリサとのやり取りにアーサーは唖然としている。リサは微笑みながら我関せずと立ち去ってしまった。また一つ悩みのタネが生まれたことを俺は確信した。

 相変わらず授業で【仮眠】を取る。以前と全く変わっていないように見える学園生活。しかしリサの、まさかの学生服での登場を見ると、何かが変わろうとしている可能性は否定できない。だが俺は面倒なので生活のリズムを変えたくない。だから今日も三限目が終わると、器楽室に向かってピアノを弾き、いつものように図書館に行くパターンで動く。

「御連枝かぁ」

 グレックナーの妻室ハンナの手紙に書かれていた単語の意味を調べるために、柄にもないのに貴族関連の本を読み漁る。大体で歴史の本自体があまり好きじゃないのに、こういった系統の本を読むのは得意じゃないのは当たり前。とはいえ、単語の意味を知らないと謎が読み解けないので仕方がない。我慢して読み進めた。

(王統貴族ヨリ別レシ家・・・・・)

 なんじゃこの読みにくさは! こんなもの知ったって現実世界では役には立たんのに。ただ分かったのは、王家アルービオ=ノルデン家より分家した王族系貴族の中で授爵じゅしゃくし、独立した家の事を「御連枝」と言うようだ。要は分家の分家で、かつ男系で王家の血を引くから同格の貴族よりは上、みたいな扱いのようだな、これは。

「グレン。お久しぶりです」

 図書室で所定の机、所定の椅子に座って貴族本を読んでいると、輝くようなプラチナブロンドの髪と大きな青い瞳が特徴のアイリス・エレノオーレ・ローランが俺の向かいに座った。

「おおアイリ。会いたかったよ」

「まぁ」

 アイリは嬉しそうにニッコリ微笑む。変わらないこの笑顔も嬉しいのだが、それ以上に素直に気持ちを言えたのがもっと嬉しい。こんなに自然に言葉が出るなんて思っても見なかった。

「どうだった帰省は?」

「良かったですよ」

 アイリは楽しげに帰省の模様を話してくれた。ローラン夫妻が自分を待ち焦がれていてくれたことや近所の人らの話など、生き生きと喋った。やっぱりこういうところがアイリの良さなんだよなぁ、と思っていると意外なことを言い出した。

「頂いた報酬、全部渡してきました」

「えっ?」

「今までの感謝の気持ちだって」

「ご夫妻はビックリされただろう」

「はいっ!」

 満面の笑みで返事をしてくるアイリ。それにしても三〇〇万ラント全額とは。話を聞くと、アイリは報酬の使い道を色々考えたそうだ。でもいい方法が思いつかない。その時思い出したのが、クリスが決戦賭博で得た勝ち金を全て学園と生徒に使いたいと言っていた事だったという。

「私もそうすればいいと思ったのです」

「それでご夫妻に」

「はいっ!」

 クリスもそうだが、アイリも思いっきりがいい。ポンと人のために使うとやれるのだから大したもんだ。取引しかできない俺とは大違いである。

「渡してスッキリしました」

 アイリはニコニコと説明してくれた。アイリはローラン夫妻にお金をいきなり渡したそうだ。当然ながら夫妻は戸惑っていたが、ドーベルウィン伯爵家からの仕事の報酬だと説明し、これも天からの思し召しだからとローラン夫妻を納得させたのだという。夫妻とも泣き崩れたそうだ。いやぁ、超越理論で説得できる女神の力、ヒロインパワーが恐ろしい。

「私も安心できましたし、いい使い方ができたと思いました」

「良かったね。アイリならではの方法だよ」

 屈託なく笑うアイリを見て、俺はローラン夫妻が涙する場面を思い浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

男が少ない世界に転生して

美鈴
ファンタジー
※よりよいものにする為に改稿する事にしました!どうかお付き合い下さいますと幸いです! 旧稿版も一応残しておきますがあのままいくと当初のプロットよりも大幅におかしくなりましたのですいませんが宜しくお願いします! 交通事故に合い意識がどんどん遠くなっていく1人の男性。次に意識が戻った時は病院?前世の一部の記憶はあるが自分に関する事は全て忘れた男が転生したのは男女比が異なる世界。彼はどの様にこの世界で生きていくのだろうか?それはまだ誰も知らないお話。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...