目が覚めたらそこは未来

みゆき

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自分を思い出せ

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何がどうなってあんなふざけた契約書にサインする事になったんだ。

もしかしたら、あれは偽物の母印と判子。僕の意思に関係なく偽造された契約書なのかもしれない。

せめて、以前の自分の行動さえ思い出せば…

僕は再び独房へ戻される。急な展開に焦る。

壁から一冊のファイルが出てきた。それと同時に、スピーカーから男の声がする。

「君が過去を思い出して納得できるならば、そのファイルを読むと良い」

分厚いファイル。きっと多くの情報が入っているに違いない。

僕はそのファイルを手にした。

「思い出さない方が幸せだったのかもしれない。そんな事もある。覚悟はしておきなよ」

ブツっと言う音と共にスピーカーは静かになる。

ファイルの表面にはタイトルがあった。

「西山アキラ   詳細データ」

恐らく、このファイルの中には僕の記憶を甦らせる、そんな内容がある。

そっと開く。細かい文字だけでなく、写真まで丁寧に印刷されていた。

そう、これが両親。思い出せる。間違いない。まだ小さい僕を抱いて幸せそうにしている母。それを見ながら微笑む父。

しっかりと熟読しながら記憶を辿る。そう、思い出してきている。このファイルにあるデータとは本物だ。

高校生になった写真。

あぁ、何となく思い出せる。ここから先は不幸な人生の始まり…

ページをめくる手は震える。

そこには、裸で教室に座る僕の写真。痣だらけ。補足として、上級生からのイジメと記載されていた。

更には、僕が一方的に殴られている場面、お金を渡している場面、女子の前で裸になっている場面…

とても多くのショッキングな写真があった。補足さえ読みたくなくなるほど。

吐き気と震え。一度、ファイルを置き落ち着こうとする。震えは手だけではなくなっていた。体全体が震えていた。

どうして…どうして…こんな写真がある?本物だ、それだけは間違いない。

そうだ。高校生活は地獄のような日々。辛い事ばかりだった。

父は行方不明になり、母は仕事に追われて心が壊れる。弟は、僕の事が原因で中学校でいじめを受ける。そして、非行に走った。

トイレで胃の中の物を全て吐き出し、ベッドに座り込む。ただただ静かに時間が過ぎていく。

続きを読まなくては。過去を知って、今の状況を整理する。そして、あいつらに復讐すれば良い。

もう一度、ファイルに向き合う覚悟をして、ページをめくる。

アルバイトは飲食店。家計を助けるために、毎日のように働いてたな。店長はとても良い人で、怪我の事など心配してくれた。

しかし、同じ高校の上級生、同級生から店への嫌がらせが続いた。

僕は自分から辞めた。そこにいてはいけない人間だったから。

家庭、学校、アルバイト。どこにも居場所がなかった。本当に辛い毎日だった。
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