ペンギン仕掛けの目覚まし時計4

織風 羊

文字の大きさ
17 / 30

17 最悪の扉

しおりを挟む


 早速、その日の夜のうちにリンは彩香の家を訪問した。
チャイムを鳴らし、中へ入れてもらうと自己紹介を始めた、

「初めまして、お母様のお父様から紹介をいただきました、私、古本屋保育園の笠原リン、と申します。(こいつの名字。笠原、言うんや。てか、それよりも、古本屋保育園てどういうこと? そんな園名でええのん? 思いっきりベタやん。しかも、こいつ、勝手に喋り出しよったで。)」

「ああ、どうも初めまして、父から伺っております。よろしくお願いします」
(え、嘘やろ? こんな園名で通用するの? なんかこの作戦、自分で計画したけど、タッタリアの脚本に失敗がありそうな気ぃするわ。)

「どうぞ此方へ」

 と彩香の母親がリビングへと案内する。
そこには、彩香の父親と彩香が居る。
リンは、二人を認めると、先ずは父親に挨拶をした。

「初めまして、笠原リン、と申します」

 彩香の父親は両目を開いて、リンの美しさに固唾を飲んでいる。

「あ、どうも、私、初めてです。彩香の父で、妻の夫で、この家の主人の民生、と申します」

 などと訳の分からない挨拶。
リンの美しさに完全に我を忘れてしまっている。
アホの見本のようなものである。
その横で、細長く伸びて切れ味の鋭くなった目に変化した妻が彼を見ている。
(よっしゃ! キャスティングは間違いないわ!)

「お姉ちゃん、わたし、あやか」

「彩香、お姉ちゃん、じゃないよ。先生、って呼びなさい」

 と優しく母親が諭すと、

「そうです。ちゃんと先生とお呼びしなくてはいけないのです」

 と先生と娘の区別もできなくなった脳細胞で、娘に敬語を使っている父親の森田民生君は、生徒のように緊張して、起立して返事をした。
何処までもアホを貫き通すつもりのようである。

「あなたに言っていません。彩香に言っているのです」

 と相変わらず切長の鋭い目が一層鋭くなって、民生君の妻、森田圭子が言う。
その言葉を聞いて、妻の変化にやっと気付いた民生君は青ざめてしまう。
アホの見返りである。

 がくりと膝を折るようにして椅子に座り込んだ民生君の横を、彩香が素早くすり抜けて先生の足元へ行く。
リンは膝をついて彩香をその胸に抱き寄せてしっかりと両腕に力を入れて抱きしめる。
民生君は、今にも涎を垂らしそな顔をして見ている。
どん底のアホである。

「あやか、せんせいのこと、好き」

「ありがとう、先生もあやちゃんの事、好きだよ」

「せんせい、あやか、せんせいに、あったことがあるような気がする」

「先生も初めてのような気がしないの。(言語自動操縦? てか、実はリンの中に入ってるの僕やってバレてへん?)

 そう言いながら、彩香はリンの首に小さな腕を回してしがみ付く。
彩香が会ったことがあるような気がすると言ったのは、去年の誕生日にプレゼントされた服を着せてくれた幽霊のような女性にそっくりだからである。

 そして既に最悪のアホは意識を失いかけている。
リンの美しさにではない。
妻から放たれている呪いのオーラに気付いた彼は今、動くことができない。

 そして彩香が言う。リンの耳にそっと、

「ぺぺちゃん、どこ?」

 それを聞いて、リンは部屋にいるみんなに聞こえるようにはっきりと言う、

「では、早速で申し訳ありませんが、お子様のお部屋に案内していただけませんでしょうか?(せやな、あやちゃんの部屋に戻った方がよさそうやな)」

「分かりました、では此方へどうぞ」

 と母親は愛想良く満面の笑みを浮かべて言ったが、その満面の笑みを見て民生君は鳥肌が立つ程の恐怖を感じている。
彼は覚醒者ではないが、ある変化を感じ取ることができた。
カチャリ、と扉の音が聞こえたのだ。
民夫君を無視していた妻の心の扉が開いた音だ。
最悪の形で。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

【完結】悪役令嬢の薔薇

ここ
恋愛
公爵令嬢レオナン・シュタインはいわゆる悪役令嬢だ。だが、とんでもなく優秀だ。その上、王太子に溺愛されている。ヒロインが霞んでしまうほどに‥。

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

処理中です...