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17 最悪の扉
しおりを挟む早速、その日の夜のうちにリンは彩香の家を訪問した。
チャイムを鳴らし、中へ入れてもらうと自己紹介を始めた、
「初めまして、お母様のお父様から紹介をいただきました、私、古本屋保育園の笠原リン、と申します。(こいつの名字。笠原、言うんや。てか、それよりも、古本屋保育園てどういうこと? そんな園名でええのん? 思いっきりベタやん。しかも、こいつ、勝手に喋り出しよったで。)」
「ああ、どうも初めまして、父から伺っております。よろしくお願いします」
(え、嘘やろ? こんな園名で通用するの? なんかこの作戦、自分で計画したけど、タッタリアの脚本に失敗がありそうな気ぃするわ。)
「どうぞ此方へ」
と彩香の母親がリビングへと案内する。
そこには、彩香の父親と彩香が居る。
リンは、二人を認めると、先ずは父親に挨拶をした。
「初めまして、笠原リン、と申します」
彩香の父親は両目を開いて、リンの美しさに固唾を飲んでいる。
「あ、どうも、私、初めてです。彩香の父で、妻の夫で、この家の主人の民生、と申します」
などと訳の分からない挨拶。
リンの美しさに完全に我を忘れてしまっている。
アホの見本のようなものである。
その横で、細長く伸びて切れ味の鋭くなった目に変化した妻が彼を見ている。
(よっしゃ! キャスティングは間違いないわ!)
「お姉ちゃん、わたし、あやか」
「彩香、お姉ちゃん、じゃないよ。先生、って呼びなさい」
と優しく母親が諭すと、
「そうです。ちゃんと先生とお呼びしなくてはいけないのです」
と先生と娘の区別もできなくなった脳細胞で、娘に敬語を使っている父親の森田民生君は、生徒のように緊張して、起立して返事をした。
何処までもアホを貫き通すつもりのようである。
「あなたに言っていません。彩香に言っているのです」
と相変わらず切長の鋭い目が一層鋭くなって、民生君の妻、森田圭子が言う。
その言葉を聞いて、妻の変化にやっと気付いた民生君は青ざめてしまう。
アホの見返りである。
がくりと膝を折るようにして椅子に座り込んだ民生君の横を、彩香が素早くすり抜けて先生の足元へ行く。
リンは膝をついて彩香をその胸に抱き寄せてしっかりと両腕に力を入れて抱きしめる。
民生君は、今にも涎を垂らしそな顔をして見ている。
どん底のアホである。
「あやか、せんせいのこと、好き」
「ありがとう、先生もあやちゃんの事、好きだよ」
「せんせい、あやか、せんせいに、あったことがあるような気がする」
「先生も初めてのような気がしないの。(言語自動操縦? てか、実はリンの中に入ってるの僕やってバレてへん?)
そう言いながら、彩香はリンの首に小さな腕を回してしがみ付く。
彩香が会ったことがあるような気がすると言ったのは、去年の誕生日にプレゼントされた服を着せてくれた幽霊のような女性にそっくりだからである。
そして既に最悪のアホは意識を失いかけている。
リンの美しさにではない。
妻から放たれている呪いのオーラに気付いた彼は今、動くことができない。
そして彩香が言う。リンの耳にそっと、
「ぺぺちゃん、どこ?」
それを聞いて、リンは部屋にいるみんなに聞こえるようにはっきりと言う、
「では、早速で申し訳ありませんが、お子様のお部屋に案内していただけませんでしょうか?(せやな、あやちゃんの部屋に戻った方がよさそうやな)」
「分かりました、では此方へどうぞ」
と母親は愛想良く満面の笑みを浮かべて言ったが、その満面の笑みを見て民生君は鳥肌が立つ程の恐怖を感じている。
彼は覚醒者ではないが、ある変化を感じ取ることができた。
カチャリ、と扉の音が聞こえたのだ。
民夫君を無視していた妻の心の扉が開いた音だ。
最悪の形で。
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