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19 宇宙の彼方
しおりを挟む母親が彩香の部屋を退室して、リビングに戻ると民生君はテーブルに両肘をつき、組んだ両手に額をつけていた。
妻の圭子の気配を感じた民生君は、そっと圭子さんを伺い見る。
まるで獰猛な肉食獣を前にして怯えている小動物そのものだ。
一方、圭子様は上流階級の御令嬢よろしく、底辺の貧民を見るように民生君を見下ろしている。
そして、何も言わない。
今、圭子様の1秒が民生君にとっては1分以上にも感じられている。
アインシュタインの相対性理論が証明された瞬間である。
時の流れは、喜怒哀楽などの感じ方によって速さが変わる。
時間の定義は地球上の人によって作られたものであり、宇宙では其の定義は通用しない。
そう、今の民生君の心は地球上に存在しなく、遥か宇宙の彼方へと逃避行しようとしている。
時間とは絶対的ではなく、相対的なものであることを、物理学など高校生以来勉強をしたことのない民生君は今、自身の精神と肉体でアインシュタインの理論の扉を叩こうとしている。
圭子様は何も言わないことで、民生君に圧力を掛けている。
しかし、その必要はすでに無くなっていることを圭子さんは分かっていない。何故なら、民生君は、そこには居ないのだ。
遥か宇宙の彼方へ飛んでいるのだから。
簡単な言葉で表現すると、心ここにあらず。
先程まで、ちょっとした音にも体を震わせていたが、今はどんな音にも反応しない。
圭子さんは、圧力を掛けることを諦めて立ち上がろうとした其の時、彩香とリンがリビングへ戻ってきた。
「どうもお邪魔しました。あやちゃんと二人きりでお話しできる時間も作っていただきまして有難うございます」
「いえいえ、ゆっくりとお話しできましたか、おほほほほほ」
圭子は満面の笑みで応えるが、其の笑い声に度肝を抜かれた民生君は、遥か彼方の宇宙から舞い戻ってきた。
「おほほほほほ」
今まで一度も見たことも聞いたこともない笑い方であった。
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