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第十章
しおりを挟む次のお見舞いでは、私は黙って座っていた。
美咲は黙って天井を見ていたが、薄く微笑んでいるようにも見えた。
「今週は、二人旅、何処にも連れて行ってくれなかったの?」
「うん、ちょっと仕事が忙しくて」
「そう」
また沈黙が続いたが美咲の方から声を掛けてきた。
「ねぇ、私とあなたが出会った日のこと覚えてる?」
「うん、会社の廊下だよね?」
「ハズレよ」
「うん、知ってる。本当は、美咲ちゃんの方が先に僕を見てたんだよね。不幸を背負って歩いてるような僕を」
「えっ、知ってたの?」
「うん、ぺペンギンさんが教えてくれた」
「でも、それもハズレ」
「?」
「私、其の前からあなたのこと知っていたのよ」
「?」
「知りたい?知りたくなくても教えてあげる」
「あはは、知りたいな」
「あのね、あの頃の私、とても不幸だった。小さい頃から親の夫婦喧嘩は絶えないし。私ね、小さい頃は暴力も振るわれてたの。高校を卒業してからは暴力は無くなったけど、働いたお金は全部、親に取り上げられてたわ。それで、其の時の働いていた町工場を辞めて、小さな洋菓子屋さんにアルバイトに行く事にしたの。だって、工場のお給料は振り込みだし、其の通帳を持っているのは親だし、可笑しいわよね? でね、時々ケーキを買いに行ってたお店なんだけど、その洋菓子屋さんの奥さんと仲良くなってね。世間話とかするうちに、お客さんが居ない時なんかにね、其のお店の喫茶コーナーとかで、両親のお話も聞いてくれるようになったの。まぁ、相談してたようなものよね。だったらうちで働きなさいって、言ってくださってね。親のことは大丈夫、給料は手渡し、時給を安い事にして、給料の少しだけを手渡せばいいのよ、それでも駄目なら、うちに住み込みで働きなさいって。それでカウンターで売り子さんになったんだけどね、今思い出しても可笑しいわ。そんな時にあなたが訪ねてきてね、ケーキくださいって。で選ぶケーキが全部チョコレートケーキばっかり。しかも何か違和感があるの。それはね、あなたは気付く筈がないけど。ザッハトルテをザットハルレって言うし、それも真剣に悩みながら言うのよ。私、笑いを堪えるのに大変だったんだから。他にも思い出したら、いくつかあるわ。ほんとおかしな人だったんだから。それでね、ある時お友達とお話ししながらあなたがお店にやってきたの。其の時の言葉、私。忘れられなかった。死んだら何が残る?って言うお話をしてのたよ。其の時に言ったあなたの言葉が真面目すぎて面白かったんだけど、何んか、私、自分の人生と重ね合わせてたみたいだったのよね。でね、其の洋菓子屋さんが旦那さんの実家へ移転しなくっちゃならなくなったの。其の時に私は再就職。そこで、まさかのあなたに会ったの」
「それは必然だね、で、喫茶コーナーでの、その時の私の言葉を覚えてる?」
「うん、ちゃんと覚えてるわ」
「それは、教えてくれないのかい」
「うん、秘密」
「えー」
「うそよ。教えてあげる。それはね、死んだら何が残る?それであなたはこう言ったの。花が残る、其の花を咲かせたのは私だ、生きることは炎の中にいるが如し、私は燃え尽きて灰になり、その灰が肥料となり世界で一番美しい花を咲かすのだ、って」
「そんな恥ずかしいことを言ったのか」
「ええ、私、お腹が痛くなるくらいに笑ったわ!って嘘。辛かったあの時、私、笑えなかった。
私が死んでも、一生懸命生きた私の体が栄養になって花を咲かせるんだ。それなら死ぬ事も悪くないなってね、真剣に思っちゃたよ。それが今は、あなたに会えて、こんなに幸せになれたの。あなた、ありがとう。それなのに・・・・。」
「いいんだよ、そんなこと」
私は涙が流れそうになった。が、美咲は急に嗚咽しながら、辛うじて音になるような弱い声で言った。
「私、死にたくないよ。あなたと一緒に生きていたいよ」
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