11 / 15
第十章
しおりを挟む次のお見舞いでは、私は黙って座っていた。
美咲は黙って天井を見ていたが、薄く微笑んでいるようにも見えた。
「今週は、二人旅、何処にも連れて行ってくれなかったの?」
「うん、ちょっと仕事が忙しくて」
「そう」
また沈黙が続いたが美咲の方から声を掛けてきた。
「ねぇ、私とあなたが出会った日のこと覚えてる?」
「うん、会社の廊下だよね?」
「ハズレよ」
「うん、知ってる。本当は、美咲ちゃんの方が先に僕を見てたんだよね。不幸を背負って歩いてるような僕を」
「えっ、知ってたの?」
「うん、ぺペンギンさんが教えてくれた」
「でも、それもハズレ」
「?」
「私、其の前からあなたのこと知っていたのよ」
「?」
「知りたい?知りたくなくても教えてあげる」
「あはは、知りたいな」
「あのね、あの頃の私、とても不幸だった。小さい頃から親の夫婦喧嘩は絶えないし。私ね、小さい頃は暴力も振るわれてたの。高校を卒業してからは暴力は無くなったけど、働いたお金は全部、親に取り上げられてたわ。それで、其の時の働いていた町工場を辞めて、小さな洋菓子屋さんにアルバイトに行く事にしたの。だって、工場のお給料は振り込みだし、其の通帳を持っているのは親だし、可笑しいわよね? でね、時々ケーキを買いに行ってたお店なんだけど、その洋菓子屋さんの奥さんと仲良くなってね。世間話とかするうちに、お客さんが居ない時なんかにね、其のお店の喫茶コーナーとかで、両親のお話も聞いてくれるようになったの。まぁ、相談してたようなものよね。だったらうちで働きなさいって、言ってくださってね。親のことは大丈夫、給料は手渡し、時給を安い事にして、給料の少しだけを手渡せばいいのよ、それでも駄目なら、うちに住み込みで働きなさいって。それでカウンターで売り子さんになったんだけどね、今思い出しても可笑しいわ。そんな時にあなたが訪ねてきてね、ケーキくださいって。で選ぶケーキが全部チョコレートケーキばっかり。しかも何か違和感があるの。それはね、あなたは気付く筈がないけど。ザッハトルテをザットハルレって言うし、それも真剣に悩みながら言うのよ。私、笑いを堪えるのに大変だったんだから。他にも思い出したら、いくつかあるわ。ほんとおかしな人だったんだから。それでね、ある時お友達とお話ししながらあなたがお店にやってきたの。其の時の言葉、私。忘れられなかった。死んだら何が残る?って言うお話をしてのたよ。其の時に言ったあなたの言葉が真面目すぎて面白かったんだけど、何んか、私、自分の人生と重ね合わせてたみたいだったのよね。でね、其の洋菓子屋さんが旦那さんの実家へ移転しなくっちゃならなくなったの。其の時に私は再就職。そこで、まさかのあなたに会ったの」
「それは必然だね、で、喫茶コーナーでの、その時の私の言葉を覚えてる?」
「うん、ちゃんと覚えてるわ」
「それは、教えてくれないのかい」
「うん、秘密」
「えー」
「うそよ。教えてあげる。それはね、死んだら何が残る?それであなたはこう言ったの。花が残る、其の花を咲かせたのは私だ、生きることは炎の中にいるが如し、私は燃え尽きて灰になり、その灰が肥料となり世界で一番美しい花を咲かすのだ、って」
「そんな恥ずかしいことを言ったのか」
「ええ、私、お腹が痛くなるくらいに笑ったわ!って嘘。辛かったあの時、私、笑えなかった。
私が死んでも、一生懸命生きた私の体が栄養になって花を咲かせるんだ。それなら死ぬ事も悪くないなってね、真剣に思っちゃたよ。それが今は、あなたに会えて、こんなに幸せになれたの。あなた、ありがとう。それなのに・・・・。」
「いいんだよ、そんなこと」
私は涙が流れそうになった。が、美咲は急に嗚咽しながら、辛うじて音になるような弱い声で言った。
「私、死にたくないよ。あなたと一緒に生きていたいよ」
3
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
まほカン
jukaito
ファンタジー
ごく普通の女子中学生だった結城かなみはある日両親から借金を押し付けられた黒服の男にさらわれてしまう。一億もの借金を返済するためにかなみが選ばされた道は、魔法少女となって会社で働いていくことだった。
今日もかなみは愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミとなって悪の秘密結社と戦うのであった!新感覚マジカルアクションノベル!
※基本1話完結なのでアニメを見る感覚で読めると思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる