ペンギン仕掛けの目覚まし時計 7 北海道編

織風 羊

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34話

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 故郷
遠い故郷
芳しい花の香り
緑に輝く草原の中
一人で横になれば
必ず挨拶をしに来てくれるトンボ達
さよならも言わないで去った私を
また迎えてくれるのか。

「ほな、帰るわ」

「そうですか、今回のプロジェクトもごお疲れ様でした」

「いやぁ、お互いさんや、ご苦労さん」

「ちょっと待ってくださいませんでしょうか」

「うわぁ、リン、何で此処におるの?」

 早朝の時の酒屋の前である。

「このままお帰りになる? 本当じゃございません、ですよね?」

「え、いや、まぁ、何とか最後の仕上げもできたし・・・。」

「へぇ、そうなのですね? 統括教授ともあろうお方が? 何かの勘違いでございますよね?」

「ええー、いやね、その、勘違いには間違いないねんけど、その間違いが何処でどうなっているのでしょうか? 分かっちゃいるけど、思い出せない、言うか・・・。」

「まさか! 統括教授ともあろうお方がですか? 私は間違いなく書類を用意させていただきましたよ?」

「え? あ、そうそう、それね、書類ね」

「なるほど、忘れていたふりをされていたのですね? ではサインをお願いしますね」

 そう言いながらリンは、キラキラひかる宇宙便箋とペンをマルセリーノに渡す。

「あーこれね、これこれ、でと、何でしたかいな? そうそう、サインね、えーっと、えっ?」

「サインをお願いしますわ、統・括・教・授。」

「これ、宇宙後見人申請書やん?」

「あら、私、間違えていたでしょうか? メグちゃんの後見人になられるのですよね? 最後の最後まで宇宙の何処にいても見守る、それが宇宙後見人申請書の約束事項でしたが、私、何か間違いをしておりましたでしょうか?」

「いや、えっと、そうそう、それな、間違えてないよ。うん、間違いないわ。そうかぁ・・・。リン・・・、いや、うん、言うた通りやっといてくれてありがとな。ご苦労さんやで」

「確かに書類は超光速宇宙便で宇宙連邦評議会に送付させていただきます」

「そうかぁ、ご苦労さん、やで。 さて、これでほんまに、試合終了や。二人とも、ありがとさんやで」

「マルセリーノ統括教授、お疲れ様でした」

「ありがとう、タッタリア」

「マルセリーノ統括教授」

「うわぁ、何よ! リン? ワイ、なんか、他に、忘れ物ある?」

「いいえ、お疲れ様でした」

「お前に名前呼ばれたらびっくりする癖ついてもうたわ。ま、そう言うことで、ほな、さいなら、やで」

 上空からは無色透明に近い階段が降りて来つつある。
そこへ、最近、朝のジョギングを始めたコミネとサエがやって来る。

「あ、統括教授、お伝えするのを忘れておりましたが、ちょうどこの時間、コミネさんとサエさんが健康のためにとジョギングする時間でした」

「こら、お前はアホか、そう言うことは事前に言うとかなあかんやろが」

「え、マルちゃん」

 最初に見つけたのはサエである。
続いてコミネが言う。

「マルセリーノさん、どうしてここに?」

 マルセリーノは、さらにスピードを上げて走り寄って来た二人に捕まれる。

「マルちゃん・・・。どうして?」

 サエは目に涙を溜めている。

「地球にいたのですか? どうしてどうして言ってくれなかったのですか」

 コミネはまさに怒鳴っているような勢いである。
まさに今、酒屋の前は人生劇場の修羅場と化している。

」いや、あのな、ちょと、用事ができていうか「

 文字までが修羅場と化している。

「マルセリーノ統括教授、時間がありません」

 とリンが言う。

「マルちゃん、マルちゃんが私達二人を・・・出逢・・・。」

 とマルセリーノに抱きつきながらサエが言う。

「そうやないねんけど、そうかもしらんし、とりあえず、ご結婚前のお嬢様ですし、世間体、言うのもありますから、ワイを抱いてるその手ぇ離してくれはりませんやろか?」

 降りてきた無色透明に近い階段が、今度は上昇を始め出した。

「統括教授」

 リンがいつもより大きな声で言う。

「分かってるよ! でも、どうもならへんやんかー」

「分かりました。仕方がありません」

 そう言うと、リンはコミネとサエの間に割って入り、マルセリーノの翼を掴んだかと思うと、

「そうりゃー!」

 と天空の宇宙船に向かって投げ飛ばした。

「マルちゃーん、結婚式は来月なのー、必ず出席してねー、マルちゃん・・・、必ず、だよ・・・。」

 と涙ながらにサエの叫ぶ声が、最後は小さな涙声になり、空高く飛んだマルセリーノには聞こえない。

「然しですね、リンさん、統括教授の飛行方向が少しズレてるように思えるのですが、故意にでしょうか?」

 タッタリアの質問に答えてリンが言う、

「そんなことございませんわ、ただ、このままだと、あのクトネベツ川の向こう側に落下するでしょうね。そうなると必然的にサエさんとコミネさんの結婚式に出席する時間ができてしまいますわ」

 その言葉を聞いて、

「リンさん」

 と涙顔のサエがリンに振り返る。
リンは優しく笑うと静かに頷く。

 下界の会話など既に聞こえなくなっている遥か上空で一匹のぺペンギンの声だけが雲の間を過ぎ去っていく。

「何でやねーん、宇宙船の方向からズレて飛んでるやんかー、ワイは何処へ飛んで行くのー、誰か教えてー」
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