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17話
しおりを挟む時の流れは早いのか?
それとも遅いのか?
人、環境、それぞれの環境の中で時は早くもなり遅くもなる。
時は、地球の自転ではなく、人の中で流れる。
そうやって刻まれていくのが、時、である。
程なくして、万年講師の論文が不採用であった事を知ることになる。
万年講師の落胆は酷いものであった。
何日も無口な夜を越えた。
然し、相変わらずぺペンギンはシングルモルトを飲み、窓際で煙草を燻らせ、そして「おやすみ」と言って目覚まし時計型シェルターへ潜り込む。
そんなある夜、
「死んでしまいたいか?」
ぺペンギンが声を掛けた。
「いえ、そんなこと言ったら、本気で殺すんでしょ?」
「いや、ワイは、今のお前を殺そうとは思うてへん。生かしたい、そう思うてる」
「どうしてですか?」
「聞きたいか?」
「ええ」
「分かった。ほんなら、斜に構えんと、こっちを見ろ」
万年講師はぺペンギンの前で真っ直ぐに向き直るが、目を合わせようとはしない。
「まぁ、下向いたままでもええから聞いてくれるか?」
「ええ」
「お前のその態度、見ようによっては腐ってもうて、下向いてるけど実はワイを上から見てるようにも捉えられる」
「そんなことはありません」
「そうやろ? 今、ワイが言うたんはお前がどんな思いを持ってるんか? っていう間違えたワイ目線やねん」
ぺペンギンは続ける、
「例えばや、泣いてる人がおったら、何をそんなに悲しんでるんやろ? って慰めてあげたくもなるもんやと思わへん? そいでもって声を掛けたら、実は嬉し泣きやった、ってな。人って、その姿や仕草だけでは判断はできひん。要するに、その人がどう思ってるんかは見た目だけでは決められへん。大切なことは、自分自身がその人をどう思うてるか、どう見てるんか、っていう自分の目やねん。そうしたら、その人の姿や仕草だけで判断はせえへんようになる。自分に自信がないから相手の態度、言動が気になって、終いには間違った判断をしてしまうことになる」
「でも、人は、その姿や仕草でしか判断できません」
「ええか? ほんまにお前は分からん奴やな。心理学でも、その仕草で何を思うてるかを知ることができるやろ? お前は、それを言うてることと何も変わらへん。今からワイが言うことは、そんな学問的な説明やないねん。ええか? お前が大学の講義中に寝てる生徒がおったとしよう。お前は講義中に寝るなと怒ったとしよう。その時、生徒が言い訳をしたとしよう。その時お前は、しっかりと言い訳を聞いたらなあかん。その理由は、その生徒はお前の講義が好きで、しっかり聞こうと思うて、アルバイトで疲れてても一生懸命に徹夜で予習をしてた為やからや。居眠りしてる、っていう現象だけを見て、判断はできひんやろ?」
「それと今の私の関係が分かりません」
「ほんまにお前はあかん奴やな。あのな? お前が書いた論文、作者のことばかり考えて書いたんちゃうんか? それよりも、お前がその偉大な作者をどう思うてるんか? そう思うことで、よりその人を好きになって、どんなに素晴らしい人かを説明できるんちゃうんか? それが人の気持ちを惹きつけるんちゃうんか? ワイは説教してるんちゃう。お前に足りひんもんを教えたってる訳でもない。表現とは人の心に染み入るもんやと思いたい。偉大な文学言うもんは、昔話の古典文学やない。たくさんの歴史を超えても心に刻まれ続ける、時の物語や。それを伝えたかっただけや」
「・・・・・・・・。」
「そう塞ぎ込むな、何んやったら、朝から一杯? いっとく?」
「ええ、良いシングルモルトがありますので」
「ちょっと待て! お前? そんなもん持ってたの? 初めて聞いたで! びっくりするわ」
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