14 / 38
13 希望
しおりを挟む私は、ぺペンギンさんが何を言いたいのか分からなくなり、尋ねてみた。
「そろそろって、何がですか?」
「うん、せやね。このままでもええねんで。でもさ、欲しい物とかないん?」
「ありませんよ、このまま、生きていければ、それだけで十分です」
「ええことやと思うよ。何も望まず、現実を受け入れて、文句は言わず、淡々と生きて行く。素晴らしいな」
「ですよね」
「で、お前さ、いつ頃、出家するつもりなん?」
「え?」
「うん、その素晴らしい生き方で、このまま入山して、悩める人々を救う、ええね。お前のこと見直したわ」
「え、あの、誰が出家するんですか?」
「え、お前ちゃうの? 出家するんやろ?」
「誰が、そんなこと言いました?」
「嘘やん? 出家するからこそ、そないな生き方してはるんちゃうかったんですか?」
「いったい誰の話をしているのか分かりませんけど」
「あら? おかしいな? 人は誰かの為に生きてるもんやとばかり思うてたけど? うん? 違うか?」
「あの、それ、誰の話ですか? 出家するとか、人のために生きるとか?」
「ああー、せやね、お前は今、自分のためだけに生きてるんやもんね。それでええねんで、子供達が喜ぶようなお菓子を箱に詰める。これって子供達のためにもなるしな」
「あのー、そんなつもりなんて毛頭ありませんが?」
「ええ! そんなつもりもなしにお菓子を箱に突っ込んでたん? びっくりしたわ」
「ええーとですね、何を仰りたいんですか?」
「なぁ、人って何歳まで生きる? お前の年齢やったら後五十年は生きて行くと思うねん。喩えばやで、箱の中にお菓子の入った袋を詰めて行く作業、これを誰かがやらんと出荷することがでけへんようになる。それはそれで素晴らしい仕事や、間違いないと思うよ。でも、その作業をしている周りの人を見てみ? ほぼ全員が定年退職したおじさんや、家計を少しでも助けようとしてる主婦やないか? みんな、理由があって、その仕事をしてると思うねん。退職金だけでは、この先不安があるとか、少しでも家計に余裕のある生活をしたいとかな? で、お前はどうよ? みんな自分のために生きてる。当たり前のことや。でもね、その向こう側には、家族があって、その家族のことを思うて働いてる場合が殆どちゃうかな、って思うのよ。で、もう一回言うけど、お前、出家する?」
「・・・・・・。」
「今の落ち着いたお前の生活に水を刺そうなんて思うてないで。お前はどうよ? って聞きたいだけなんや」
「このまま生きていければって思ってます」
「うん、ワイ、さっき出家するつもりか?って聞いたよな? 人は誰もが自分のために生きてる。否定しようと思てるわけやないねん。でも、それだけで、ええんやろか? 疑問に思うたことない? 多分あると思うねん。でないと、医学部目指したり、受験に失敗したらしたで看護大学に目標を変えて、病院で働いた時期はなかったんやないかと思うねんけど、どう?」
「それは・・・」
「うん、黙って聞いてな。今のお前は、傷つくことを恐れているだけにしか見えへんのよ。せやからこそ、言うてるねん」
「・・・・・・。」
「なぁ、挑戦せよ、って言うてるんちゃうねん。恐れるな、って言いたいねん。ワイが相談に乗ったった奴で市木清田いう奴がおるねん」
「それって、小説家の?」
「そうや、芥川賞を取った奴や。どうしようもない奴やってんで。予備校卒業してからも、アルバイトばっかりして一文字も書かれへんのに原稿に向かって、ああでもないこうでもない、言うてるばっかりやってん。ある日、結婚してな、そりゃーもう可愛い子でな、気も良うてな。ただ、子供の頃は、お前と同じように親から虐待を受けてたような子やってんけどな。それでもよう頑張ったと思うよ。で、清田の話やねんけどな、結婚したら、それは家族を持つ言うことやろ? あいつ真面目な奴やったから頑張りよってん。でもな、頑張ったんはええねんけど、頑張りすぎて潰れよったんや。それを助けたんが、あいつの奥さん美咲っていう子や。自由に生きてみろってな。そして、今がある。其処に辿り着くまでには、ようさんの苦労があったと思うねんで。それでも頑張りよった。けど、もしかしたら才能もないのに頑張ってたら、どん底に落ちてたかもしらん。それはワイにも分からんことや。でも、あいつやったら、小説で失敗しても別の何かを求めて動き出してたと思うねん。それを、希望、って人は言うんちゃうかな?」
「・・・・・・。」
「ええか? 恐れるな、それだけを言いたかっただけやねん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる