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第十一話 「八人の仲間」

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「ここでは皆、住めなくなっちゃったね・・・」
ポツンと呟いた彩暉の言葉に皆が黙って頷く。

「ねぇ、歩南さん」
「んっ?」
「紫理さんにお願いしてみるのはダメかなぁ」
彩暉は浮湖荘に皆を連れて行けないかと考えた様である。

「望月家なら、確かに広さは問題ないだろうけどさ」
「浮湖荘っちゃうたら、望月家の別荘やんけ。あの女、がめついからしっかり金取りよるで」
「がめついのはアンタの方でしょ」
「うわっ! ここまで面倒見てきたった、わいをそないに言わんでもええやんかぁ~」
「ハチコーは黙ってて!」
覇智朗との話を強引に終わらせて、結那は彩暉と歩南に振り返る。

「本当に厚かましいお願いだけど、せめてこの娘達だけでもお願い出来ない?」
「結那さん!」
奈々聖・慧・栞寧が結那に駆け寄る。

「うちの事はどうでもいいから・・・。この3人だけは」
何とかして奈々聖達3人の住む所を、と言う結那の気持ちが伝わって来る。

「紫理さんは優しいから、きっと皆を住まわせてくれる。きっと、大丈夫よっ!」
彩暉は遼歌と望永を見ると、2人は黙って頷く。

「義を見て為さざるは、勇なきなり。ここは、あち等に任せな!」
歩南が進み出て、深く頭を垂れる結那の肩に手を掛け、顔を上げさせたのであった。



浮湖荘――

「あら、大歓迎よ! 賑やかになって楽しいじゃない」

結那達4人を連れて帰った彩暉達を出迎えた紫理は、無条件に受け入れたのである。

「でも1つ、問題が有るわね」
皆の視線が一カ所に集まる。

「なっ、何やねん! わいかて焼け出されて可哀相やんか!」
「まぁ、火事になったのは気の毒だと思うけど、年頃の女の子ばかりの所に男の百地が。ねぇ」
普通に考えると、紫理のいう事は最もである。

「そこを何とか・・・。神様仏様、望月様ぁ」
懇願する様な目で紫理を見つめる覇智朗。

「望月様、御恩は決して忘れません。うち等4名、これより貴女様の配下として全てを捧げます」
紫理の前に跪く結那達。

「そんな堅苦しい挨拶は抜きにして、今夜は浮湖荘自慢の展望露天風呂で親睦を深めましょ!」
「やったぁ!」
彩暉の歓声が上がり、皆もそれに倣ったのである。

「よっしゃあ! わいも!」
「アンタは別。お情け、置いてあげるけど覗きとかしたら承知しないわよっ!」
紫理の声が夜空に響いていた。

こうして、8人の妖術使いが一同に揃ったのである。


 浮湖荘・展望露天風呂――

満月の夜、満天の星空、遠くには巨大な浮湖が見渡せる。
8人の少女達と紫理が肩まで湯船に浸かっていた。

「何度見ても、でっけぇ湯舟だなぁ」
「当然、望月家の別荘ですもの」
歩南の呟きに紫理が応える。

「遠くに湖が見えるわ」
立ち上がって、背伸びする結那。

「浮湖よ。龍神が住んでいるという言い伝えがあるわ。私は見た事無いけどね」
クスクスと笑う紫理。

「この別荘の名前は確か・・・」
遼歌が人差し指を立てる。

「そう、浮湖荘。あの湖がこの別荘の名前の由来って訳」
紫理の視線が浮湖に向いた。

「望月様?」
「んっ? 何?」
「どうして、あたし達を置いてくれたのさ?」
遠慮がちだが、聞きたい事をストレートに聞く慧。

「紫理で良いわよ・・・。貴女達8人じゃないと出来ない事があるの」
慧の問いに応えた紫理の顔に真剣さが見える。

「聞いてもいい? 紫理さん?」
奈々聖が脇から口を挟んだ。

「ボクも聞きたいな」
いつの間にか、望永もすぐ横に寄って来ていた。

「そうね。貴女達には話しておいた方が良いかも知れないわね・・・」
紫理が言葉を繋ごうとしたその時――

「きゃあ~っ! 覗かれてるっ!」
彩暉が悲鳴を上げて、湯煙の先の暗闇を指差した。

「うわっ! 見つかってしもうたぁ!」
暗闇からニョッキリと顔を浮かせる覇智朗。

バシャ!
皆は慌てて、湯の中に身を隠した。

「ハチコー!」
「あんにゃろ~っ!」
「いい根性してるわね!」
「どうやって、登って来たのさ?」
「ここ、3階だよぉ~」
「呆れるねっ」
「何て奴!」
「度胸は認めるけど」
8人の少女達が覇智朗を詰る。

「うっひょ~! 絶景やでぇ! 特に彩暉ちゃんの巨乳はたわわに実っとるわぁ。心配せんでも紫理はんもなかなかのモンやでぇ!」

「覇智朗! アンタ、痛い目見ないと分からないみたいね!」
紫理が凄みを聞かせて睨むが――

「何をするにも、湯舟から出ぇへんと何も出来へんやろう! いゃぁ、この『今日から貴方も、スパイダーマン』、買うて良かったわぁ。これを発明した人に感謝したいわぁ」
どうやら覇智朗は何か垂直な壁をスイスイと昇る特殊アイテムを購入して来た様である。

「さぁて、ほんなら改めてぇ」
皆が怒り心頭なのも、ものともせず下卑た笑いを浮かべる覇智朗。

「あ~、もうっ! ウザッ!」
怒りが頂点に達した栞寧が湯舟の中で印を結んだ。

「蟷螂の健啖!」
〈蟷螂の健啖(とうろうのけんたん)とは、巨大化した蟷螂を呼び出し、敵を襲わせる妖術である。多くの場合は、その蟷螂に捕食されるのであるが・・・〉

「うわっ! 何やぁっ!」
人程の大きさで現れた蟷螂は覇智朗の両足を両方の鎌で挟むと逆さ吊りに持ち上げ・・・

カプッ!
なんとあろう事か覇智朗の臀部に嚙みついたのである。

「助けてぇ! 喰われてまうぅぅ!」
大騒ぎする覇智朗だが――

一噛みした蟷螂はペッと唾液を吐き出すと、覇智朗をポイッと投げ捨てた。

「わぁぁぁぁぁっ!」
絶叫と共に覇智朗は落下し、バサバサと音を立てて木の枝に引っかかってやっと止まった。

「おっかしいなぁ。好き嫌いする子じゃ無いんだけど、よっぽど不味かったんだぁ」
栞寧が悪戯っぽく笑った。

「覇智朗、いい気味よ。明日まで、そこで反省してなさい」
紫理の声が夜空に響いた。

「紫理さん!」
「あら、どうしたの?」
真剣な顔をして、紫理に詰め寄る奈々聖。

「アイツ、今度は湯舟に潜って覗きに来るかも知れませんよ!」
余程、覇智朗の覗きが心外だったのであろうか。





 翌朝――

「殺生石の山に住む九尾の狐。なかなか手強そうね」
「4ケ所の宝玉かぁ」
朝靄の中、紫理と覇智朗が話している。

「時間が惜しいわな。4人の守護者とやらに、同時に会うた方がええんとちゃうか?」
「そうね。守護者を警戒させない為、2人ずつ送るのが得策かも」
「まるで、この為に8人が集まったみたいやな」
「何か不思議な星の巡り合わせかも知れないわ」
紫理は上り始めた朝日を見つめていた。

果たして、8人の少女達はどの様な運命に巻き込まれていくのであろうか――



※本話は、【東京テルマエ学園】・「第1話 ようこそ、テルマエ学園へ!!」「第16話 汐音のチアダン・レッスン」「第17話 ワニが見つけた秘密の痣」と合わせてお読みいただけるとお楽しみ頂けます。
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