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ポケットの中のスマホが、震えて着信を知らせる。
その時、俺は大学で講義を受けていた。
学生の数が多い授業であるのをいいことに机の下でこっそりと画面を確認すると、アドレス帳に登録のないもののようで、固定電話であることがうかがえる数字の羅列だけが表示されていた。
(……なんだ?)
電話がかかってくるような心当たりがなく、首をかしげる。
(用があるのならまたかけてくるだろう)
そう思ってポケットにしまい込んだけれど、講義が終わるまでにもう一度着信があって、誰かが何らかの意図を持って掛けてきているのだと確信する。
三度目の着信は、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教授が退室するのとほぼ同時だった。
「悪い、電話。俺、今日午前中だけだから、また明日な」
隣に座っていた友人に片手をあげながら告げ、急いで廊下へ出る。
幸い建物の出入り口に近い教室だったので、俺は通話の表示をタップしながら外へと向かう。
「……はい」
相手が誰かわからない。そのため、向こうに聞かせる声は最小限に、警戒しながら応答した。
しかし、電話の向こうで告げられたのは想像もしていなかった言葉で、思わず聞き返してしまった。
「は……?」
……何度も俺のスマホを鳴らしていたのは、警察だった。
案内してくれた警官がドアをノックすると、すぐに中から声がして、ドアが内側へと開かれる。
小さな部屋の中には、2名の警官と、椅子に腰掛けた秋久さんの姿があった。
「文人くん……!」
俺を見るや否や立ち上がった秋久さんは、何か言いたげに口を開いたけれど、そのまま申し訳なさそうにうつむいた。
警察から説明された内容には、本当に驚いた。
パン屋で働いているものと思っていた秋久さんは、二週間ほど前に解雇になっていたのだという。
それでも彼はいつも通り、外が明るくなるかどうかという時間には部屋を出ていた。
しかし、外に出たものの行く場所もない彼は、近所の公園のベンチで暇を潰し、ある程度の時間になってから職探しをしていたそうだ。
毎日のように薄暗いうちから公園のベンチに座っている成人男性を不審に思った近所の住人が通報したというのが、コトの全容だった。
そんなわけで職務質問をされた秋久さんは、身分証明書を持っていなかったため警察署まで連れて来られ、結局俺が呼ばれたというわけだ。
とはいえ、単なる同居人の俺が来たところであまり役には立たず、あれやこれやと確認された結果、晴れて身の潔白が証明された秋久さんが解放されるまでにはずいぶんと時間がかかった。
「とりあえず、帰りましょう」
そう切り出すと、秋久さんは短く“はい”とだけ答えた。
二人でいる時に会話がないのが気になったことなんて、一度もなかった。
けれど今は居心地が悪くて、早く家に着いて欲しいと強く願った。
しかし、家に着いたあとにどう接すればよいのか見当がつかず、必死に言葉を探す。
騙されたとか裏切られたとか、そんなふうに考えるのは簡単だ。秋久さんを責め立てるのが一番楽なのだと思う。
だけど、俺のすべきことはそうではないと理性が告げる。
何も話してもらえなかったことに傷ついていないわけじゃない。その証拠に、さっきから胸のあたりが重くて不快だ。
それでも、今は持ちこたえるべきだと頭が判断する。自分で欠点だと思っている理性先行型の性格が、こんな時はありがたかった。
「何があったんですか?」
結局、あれこれ考えた末に言えたのは、そんなありふれた言葉だった。
帰宅した俺たちは、ベッドにもたれるようにして並んで座っていた。目の前のテーブルには淹れたてのコーヒー。マグカップから立ち上る湯気がふわりと揺らぐ。少しでも秋久さんの気持ちが落ち着けばと思って淹れたのだけれど、彼は手を伸ばさなかった。
「ごめんね」
正座した膝の上で両手をきつく握り、元々大きくもない体を更に縮こめるようにしたまま、秋久さんはぽつりと言った。
「色々、驚いたでしょう」
「そうですね。どこから驚いたらいいのかわからないくらい」
わざと冗談めかして答えたつもりだったが、秋久さんはにこりともせず、“ごめん”と繰り返した。
「何に対してのごめんなのかわからないけど、俺は怒ったりしてない。それより、事故に遭ったとかじゃなくてよかった。電話がかかってきて、警察です、狭山秋久さんの件でって言われたとき、血の気が引いた」
“だから、とにかく無事でよかった”
俺がそう言うと、秋久さんは顔を伏せてしまう。
(……困った)
どうしたらいいのか分からず、何も言葉が出てこない。
今までの俺だったら、真っ先に説明を求めていたと思う。
正確な情報がなければ何も判断できないからだ。
けれど今はただ、秋久さんを傷つけたくない。それが最優先事項だった。
きっと、この人はすでにひどく傷ついている。何とかして気が楽になるような言葉をかけてあげたい。
そう思うけれど、頭に浮かぶどんな言葉も、その目的を果たしてくれそうにはなかった。
だから。
そっと手を伸ばして秋久さんの肩に触れる。俺からは、遠い方の。
その途端にビクッと大きく震える体を、触れた手のひらでとんとんと子供をあやす時のようにたたく。
何度か繰り返しているうちに、体に入った力が抜けていくのを感じた。それを見計らって、体を寄せて抱きしめた。拒みたいのなら拒めるように、そっと。
別に話してくれなくてもいい。大丈夫だと伝えたかった。
大丈夫。
大丈夫なんだ。
説明なんてしなくても。
そんなに小さくならなくても。
俺はあなたを責めない。
傷つけない。
失望したりしない。
……見切りをつけて追い出したりもしないから。
思いを言葉にできないまま、俺はただ秋久さんに寄り添い続けた。
俺に抱き寄せられた彼は、顔を上げはしなかったけれど、体を離そうともしなかった。
触れた部分から微かに伝わってくる体温に、呼吸をするたび小さく揺れる体に、安心させたいと思っているはずの俺の方が安心させられる。
「あの……さ」
やがて、おずおずと秋久さんが言った。
「ちゃんと話すから、聞いてくれる?」
ようやく俺を見てくれた瞳が、不安そうに揺れている。
「……いいの?」
「文人くんに聞いてほしい。ただ、いい気分になるような話じゃない。ごめん」
「秋久さんが話してもいいと思ってくれるんだったら、どんなことでも聞くよ」
「ありがとう」
そう言って、彼は考えるように目線を上へと向けた。
「……えぇと」
何かを言おうとするけれど、躊躇って、口を閉じてしまう。
「何?」
そんな様子を見て、俺は肩を抱いたまま、もう一方の手で秋久さんの手を取った。
すると、彼は驚いたように俺を見たけれど、すぐに顔を伏せてしまう。
「なんで……」
「あ、ごめん、嫌だった?この方が安心してもらえるかと思って」
慌てて離そうとすると、きゅっと握られて今度は俺が驚く。
「嫌じゃないよ。……触れてもらうとなんだかほっとする。けど、こんな風に甘えたらダメだと思って……」
ふ、とこぼしたそれは、笑みであるはずなのに、今にも泣き出してしまいそうで、俺は握った手に力を込めた。
「この方が安心できるなら、このままでいる」
「うん」
今度こそちゃんと微笑んだ秋久さんは、するりと視線を外すと、こくりと息をのんだ。
「仕事、クビになったの、黙っててごめん」
俺は口を挟んでいいものか逡巡し、“うん”とだけ返事をした。
「その……心配を、かけたくなくて。次に生活費を渡す時までに新しい仕事が決まれば、今まで通り払うこともできる。その時に仕事を変えたって伝えるつもりだったんだ」
“なのに”と秋久さんは自嘲するように口の端を持ち上げる。
「通報なんてされて、迎えに来てもらうとか情けないにもほどがあるよね。結局知られちゃってさ。最初から正直に話していたらかけずにすんだはずの余計な心配まで、させてしまって」
「そんなことはいいよ。俺のことを気にかけて、そうしてくれたんでしょう?確かに心配はしたけど、たまたま裏目に出ただけだ」
頭ではちゃんと分かってる。けど。
「……ただ、話してほしかったとは思うけどね。気を遣われたのかと思うと、ちょっと淋しい」
「ごめん」
「責めてるわけじゃないよ。秋久さんが、どんなことでも話せるって思える人間になりたいなって、思っただけ」
「信頼してないわけじゃ……!」
秋久さんが慌てたように俺を見る。
「うん。俺が勝手に思ったんだ。変な遠慮とか、させたくないんだよ。言ったでしょう?秋久さんのままで、ここにいて欲しいって。あと、これは秋久さんが嫌だったら答えなくていい」
「え?」
「仕事をクビになった理由がどうしても分からないんだ。秋久さんが辞めさせられなきゃいけないようなことをするなんて、想像できない」
そう言葉にした途端、プツリと会話が途切れた。
(……いくらなんでも、無神経すぎただろうか)
唐突に訪れた沈黙に、不安になる。
秋久さんに、俺は全てさらけ出すことを要求している。けれどそれは感情についての話で、仕事を辞めさせられた理由を明かす義務はない。
尋ねたのは、心配だったからだ。
……だからといって、自分から話してくれるのならともかく、俺の方から踏み込んでいいことではなかった。
謝罪しようと口を開いた俺より、ほんの少し早く、秋久さんが言った。
「いつ?」
ふ、と微かな吐息を漏らし、彼はわらった。
「いつから君は、僕のことをそんなに信用してくれるようになったの?」
わらっている。
けれどそれは、俺が彼を信用していることを喜んでいるのでも、愚かだと揶揄しているのでもない。
自分など信用に値しないとでも言いたげな、己に向けた嘲笑だった。
(……あ)
その表情を見て、瞬時に悟る。
彼が、深く傷ついているのだと。
その時、俺は大学で講義を受けていた。
学生の数が多い授業であるのをいいことに机の下でこっそりと画面を確認すると、アドレス帳に登録のないもののようで、固定電話であることがうかがえる数字の羅列だけが表示されていた。
(……なんだ?)
電話がかかってくるような心当たりがなく、首をかしげる。
(用があるのならまたかけてくるだろう)
そう思ってポケットにしまい込んだけれど、講義が終わるまでにもう一度着信があって、誰かが何らかの意図を持って掛けてきているのだと確信する。
三度目の着信は、授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、教授が退室するのとほぼ同時だった。
「悪い、電話。俺、今日午前中だけだから、また明日な」
隣に座っていた友人に片手をあげながら告げ、急いで廊下へ出る。
幸い建物の出入り口に近い教室だったので、俺は通話の表示をタップしながら外へと向かう。
「……はい」
相手が誰かわからない。そのため、向こうに聞かせる声は最小限に、警戒しながら応答した。
しかし、電話の向こうで告げられたのは想像もしていなかった言葉で、思わず聞き返してしまった。
「は……?」
……何度も俺のスマホを鳴らしていたのは、警察だった。
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それでも彼はいつも通り、外が明るくなるかどうかという時間には部屋を出ていた。
しかし、外に出たものの行く場所もない彼は、近所の公園のベンチで暇を潰し、ある程度の時間になってから職探しをしていたそうだ。
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そんなわけで職務質問をされた秋久さんは、身分証明書を持っていなかったため警察署まで連れて来られ、結局俺が呼ばれたというわけだ。
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「とりあえず、帰りましょう」
そう切り出すと、秋久さんは短く“はい”とだけ答えた。
二人でいる時に会話がないのが気になったことなんて、一度もなかった。
けれど今は居心地が悪くて、早く家に着いて欲しいと強く願った。
しかし、家に着いたあとにどう接すればよいのか見当がつかず、必死に言葉を探す。
騙されたとか裏切られたとか、そんなふうに考えるのは簡単だ。秋久さんを責め立てるのが一番楽なのだと思う。
だけど、俺のすべきことはそうではないと理性が告げる。
何も話してもらえなかったことに傷ついていないわけじゃない。その証拠に、さっきから胸のあたりが重くて不快だ。
それでも、今は持ちこたえるべきだと頭が判断する。自分で欠点だと思っている理性先行型の性格が、こんな時はありがたかった。
「何があったんですか?」
結局、あれこれ考えた末に言えたのは、そんなありふれた言葉だった。
帰宅した俺たちは、ベッドにもたれるようにして並んで座っていた。目の前のテーブルには淹れたてのコーヒー。マグカップから立ち上る湯気がふわりと揺らぐ。少しでも秋久さんの気持ちが落ち着けばと思って淹れたのだけれど、彼は手を伸ばさなかった。
「ごめんね」
正座した膝の上で両手をきつく握り、元々大きくもない体を更に縮こめるようにしたまま、秋久さんはぽつりと言った。
「色々、驚いたでしょう」
「そうですね。どこから驚いたらいいのかわからないくらい」
わざと冗談めかして答えたつもりだったが、秋久さんはにこりともせず、“ごめん”と繰り返した。
「何に対してのごめんなのかわからないけど、俺は怒ったりしてない。それより、事故に遭ったとかじゃなくてよかった。電話がかかってきて、警察です、狭山秋久さんの件でって言われたとき、血の気が引いた」
“だから、とにかく無事でよかった”
俺がそう言うと、秋久さんは顔を伏せてしまう。
(……困った)
どうしたらいいのか分からず、何も言葉が出てこない。
今までの俺だったら、真っ先に説明を求めていたと思う。
正確な情報がなければ何も判断できないからだ。
けれど今はただ、秋久さんを傷つけたくない。それが最優先事項だった。
きっと、この人はすでにひどく傷ついている。何とかして気が楽になるような言葉をかけてあげたい。
そう思うけれど、頭に浮かぶどんな言葉も、その目的を果たしてくれそうにはなかった。
だから。
そっと手を伸ばして秋久さんの肩に触れる。俺からは、遠い方の。
その途端にビクッと大きく震える体を、触れた手のひらでとんとんと子供をあやす時のようにたたく。
何度か繰り返しているうちに、体に入った力が抜けていくのを感じた。それを見計らって、体を寄せて抱きしめた。拒みたいのなら拒めるように、そっと。
別に話してくれなくてもいい。大丈夫だと伝えたかった。
大丈夫。
大丈夫なんだ。
説明なんてしなくても。
そんなに小さくならなくても。
俺はあなたを責めない。
傷つけない。
失望したりしない。
……見切りをつけて追い出したりもしないから。
思いを言葉にできないまま、俺はただ秋久さんに寄り添い続けた。
俺に抱き寄せられた彼は、顔を上げはしなかったけれど、体を離そうともしなかった。
触れた部分から微かに伝わってくる体温に、呼吸をするたび小さく揺れる体に、安心させたいと思っているはずの俺の方が安心させられる。
「あの……さ」
やがて、おずおずと秋久さんが言った。
「ちゃんと話すから、聞いてくれる?」
ようやく俺を見てくれた瞳が、不安そうに揺れている。
「……いいの?」
「文人くんに聞いてほしい。ただ、いい気分になるような話じゃない。ごめん」
「秋久さんが話してもいいと思ってくれるんだったら、どんなことでも聞くよ」
「ありがとう」
そう言って、彼は考えるように目線を上へと向けた。
「……えぇと」
何かを言おうとするけれど、躊躇って、口を閉じてしまう。
「何?」
そんな様子を見て、俺は肩を抱いたまま、もう一方の手で秋久さんの手を取った。
すると、彼は驚いたように俺を見たけれど、すぐに顔を伏せてしまう。
「なんで……」
「あ、ごめん、嫌だった?この方が安心してもらえるかと思って」
慌てて離そうとすると、きゅっと握られて今度は俺が驚く。
「嫌じゃないよ。……触れてもらうとなんだかほっとする。けど、こんな風に甘えたらダメだと思って……」
ふ、とこぼしたそれは、笑みであるはずなのに、今にも泣き出してしまいそうで、俺は握った手に力を込めた。
「この方が安心できるなら、このままでいる」
「うん」
今度こそちゃんと微笑んだ秋久さんは、するりと視線を外すと、こくりと息をのんだ。
「仕事、クビになったの、黙っててごめん」
俺は口を挟んでいいものか逡巡し、“うん”とだけ返事をした。
「その……心配を、かけたくなくて。次に生活費を渡す時までに新しい仕事が決まれば、今まで通り払うこともできる。その時に仕事を変えたって伝えるつもりだったんだ」
“なのに”と秋久さんは自嘲するように口の端を持ち上げる。
「通報なんてされて、迎えに来てもらうとか情けないにもほどがあるよね。結局知られちゃってさ。最初から正直に話していたらかけずにすんだはずの余計な心配まで、させてしまって」
「そんなことはいいよ。俺のことを気にかけて、そうしてくれたんでしょう?確かに心配はしたけど、たまたま裏目に出ただけだ」
頭ではちゃんと分かってる。けど。
「……ただ、話してほしかったとは思うけどね。気を遣われたのかと思うと、ちょっと淋しい」
「ごめん」
「責めてるわけじゃないよ。秋久さんが、どんなことでも話せるって思える人間になりたいなって、思っただけ」
「信頼してないわけじゃ……!」
秋久さんが慌てたように俺を見る。
「うん。俺が勝手に思ったんだ。変な遠慮とか、させたくないんだよ。言ったでしょう?秋久さんのままで、ここにいて欲しいって。あと、これは秋久さんが嫌だったら答えなくていい」
「え?」
「仕事をクビになった理由がどうしても分からないんだ。秋久さんが辞めさせられなきゃいけないようなことをするなんて、想像できない」
そう言葉にした途端、プツリと会話が途切れた。
(……いくらなんでも、無神経すぎただろうか)
唐突に訪れた沈黙に、不安になる。
秋久さんに、俺は全てさらけ出すことを要求している。けれどそれは感情についての話で、仕事を辞めさせられた理由を明かす義務はない。
尋ねたのは、心配だったからだ。
……だからといって、自分から話してくれるのならともかく、俺の方から踏み込んでいいことではなかった。
謝罪しようと口を開いた俺より、ほんの少し早く、秋久さんが言った。
「いつ?」
ふ、と微かな吐息を漏らし、彼はわらった。
「いつから君は、僕のことをそんなに信用してくれるようになったの?」
わらっている。
けれどそれは、俺が彼を信用していることを喜んでいるのでも、愚かだと揶揄しているのでもない。
自分など信用に値しないとでも言いたげな、己に向けた嘲笑だった。
(……あ)
その表情を見て、瞬時に悟る。
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