魔王討伐の勇者は国を追い出され、行く当てもない旅に出る ~最強最悪の呪いで全てを奪われた勇者が、大切なものを見つけて呪いを解くまで~

紗沙

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第2章 呪いを治す聖女

第39話 墓参りと凶獣

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 日もすっかり登りきった時間帯に、リベラとシェラの2人は馬車に揺られてカマリの街の外に移動していた。
 午前中に子供達に朝食を作り勉強を教えた後、予定通り2人はシェラの父の墓参りに向かった。

 彼女達が乗る馬車は3頭の馬によって囲まれ、それらには屈強な冒険者が跨っている。
 シェラの父の墓はカマリの街の北にある集合墓地にある。
 そこに行くには馬車を使えば一日もかからないが、それでもやや遠い。

 道すがら魔物に襲われることもあり、毎年シェラは墓参りの際に冒険者に頼っていた。
 今年もそれは同じで、孤児院での仕事を終えた後にリベラと二人で冒険者組合に顔を出し、護衛の冒険者を紹介してもらったのだ。

 馬車の中には、外を眺めるシェラと、どこか居づらそうなリベラの2人。
 とくにリベラは冒険者組合に向かっている間も、そして今も真実を話せずにいる。
 2人きりの場面はいくらでもあったし、今だってそうだ。
 けれど、まだ心の準備ができていない。

(……シェラのお父さんのお墓参りの後に、そこで話そう。
 せっかくレオさんとアリエスさんが背中を押してくれたんだ。
 このチャンスを、逃すわけにはいかない)

 恐怖が無いかと言えば嘘になる。
 けれどこの状況と、背中を押してくれた金髪の男と銀髪の少女を思い、リベラは決意を固める。
 必ず、墓参り後に幼馴染にあの日の真相を話すと。

 その結果彼女がどう思うかは分からないけれど、どんな結末でもそれを受け入れようと思った。

 やがて馬車は止まり、目的地へと着いたことを教えてくれる。
 カマリの街よりも北に位置する集合墓地だ。
 シェラが扉を開け、馬車から降りていく。それに続いて下りれば、強い日差しがリベラを照り付けた。

「……ここが、集合墓地」

 リベラはここに来るのは初めてだった。
 彼女の両親は幼いときに亡くなっているが、その遺体は見つかっていない。
 だから、この集合墓地にリベラの関係者の墓は一つしかない。

「うん、ちょっと丘を登った先にあるの」

 シェラの言う通り、目の前は坂になっていて、少し登ったところまで墓地は続いていた。
 おじさんの墓は、その先にあるのだろう。そんなことを思った。

「シェラさん、俺達はここで待機しています。もし何かあれば呼んでください」

「はい、ありがとうございました」

 護衛を引き受けてくれた冒険者に礼を告げ、シェラは歩き出す。
 リベラは慌ててそれについていき、周りを見渡した。
 自分たち以外に、人の気配はない。

「誰も……居ないんだね」

「お墓が沢山あるけど、皆訪れるのはきっと一年に一回だけ。
 だから、他の人に会うことはほとんどないの」

 話をしながら坂を上りきり、右手にある墓地の前でシェラが立ち止まる。
 墓石には、「ガゼル・ロズウェル」の文字が刻まれている。
 隣に立つシェラの父の名だ。

「……リベラ、先にお願い」

「……うん、ありがとう」

 シェラに礼を言い、リベラは墓に近づく。
 膝をつき、手を組み、毎年あの森で行っていたように祈りを捧げる。
 これまでは意味があるのか分からず、行っても罪悪感が増す一方だった祈り。

 けれど今回の祈りはリベラの心に少しの不安も、罪悪感も起こさなかった。
 祈ったことは、シェラの父が安らかに死後の世界を過ごしているようにという願い。
 そして、もう一つ。

(おじさん、私、これが終わったらシェラに話すよ。遅くなってごめんね)

 目を開けば、決意の火の灯った瞳が墓石を捉えた。
 立ち上がり、入れ替わるようにシェラが墓石に近づき、膝をつく。
 これが終われば、自分はシェラに告白する。過去の自分の罪を。

 ぐっと胸を押さえ、祈りを捧げるシェラを見続ける。

「……?」

 ふとその時、「左から」視線を感じた。
 二人が来た方向ですらない、誰も居ない筈の北の方角。
 そちらに目を向け、そして決意の籠った目が、恐怖に揺れた。

 黒い獣が、こちらにゆっくりと歩いてきていた。
 リベラをしっかりと捉える赤い相貌の上には、禍々しい黒の一本角。
 見たことがあるわけではない。けれど、本能が訴えている。

 ――あれが、私達の大切を壊したモノだと

「っ! シェラ!」

 リベラの叫び声にシェラが反応し、振り返る。
 そしてすぐにリベラの向いている方を向き、目を見開いた。
 彼女もまた、自分の人生を狂わせたモノを認識した。

「皆さん! 魔物です! 助けてください!」

 すぐにシェラが助けを呼び、冒険者たちが坂を上ってくる。
 三人の屈強な男性は間を置かずに2人の元に駆け付け、北の方角を見て目を見開いた。
 草原をゆっくりと歩いてくる獣がなんなのか、理解したからだ。

「い、一本角の魔物!?」

「じ、実在したのか!?」

「前に目撃されたときには10人以上が殺されたんだぞ! 3人じゃ無理だ! シェラさん、逃げろ!」

 彼らは何年も冒険者をやってきたベテランである。
 だからこそ事前に得ていた情報から状況が圧倒的に不利であることを悟り、撤退を進言した。
 その判断は正しく、事実正面から戦えば彼らの敗北は必死だった。

 けれど間違えたのは、相手をただの獣と侮ったことだろう。
 彼らは撤退を小声で話すべきだった。決して獣の耳に入れてはいけなかった。

 逃げろと叫んだ瞬間に、黒い獣は地面を抉るほどの勢いで蹴り、駆けた。

 刹那、黒い獣はまるで放たれた矢のように一直線に前に出た剣士の冒険者に肉薄する。
 頭頂の一本角はまるで矢じりのように、剣士の胸を狙う。

「くっ!」

 その角を剣で防いだのは、流石の反応と褒めるべきだろう。
 だが次の瞬間には衝撃を殺しきれずに、剣士は後ろへと弾き飛ばされ、地面を転がった。
 リベラは唖然とした表情で振り返る。

 自分の体で土ぼこりを起こした剣士は坂を転がり落ち、そしてぴくりとも動かなくなった。
 黒い獣の大きさは大型犬のそれを優に上回る。
 それの高速での突進など、身一つで大砲の砲丸を受けるようなもので、人間に耐えられる衝撃ではない。

「くそっ!」

「おい、よせっ!」

 仲間がやられたのを見て、一人の槍使いの男性が切っ先を獣に向ける。
 恐怖で震えながら、彼は突撃した。してしまった。
 それを止めたのは三人の中でも経験豊富な冒険者だったが、もう遅い。

 獣は超スピードで槍の刺突を潜り抜け、右の前足を横なぎに振るう。
 いや、振るったのだろう、次の瞬間には槍使いの男性はわき腹を深く斬り裂かれていた。
 血が噴き出し、流れ落ちる赤が地面を染めていく。

 立っていられるような傷ではないのは明らかで、槍を落とし、悲鳴を上げながら地面へと倒れ込んだ。

「なん……で……」

 シェラがわなわなと震えながら言葉を口にする。
 その声は痛々しい程震えていて、そして弱々しかった。
 気持ちが痛いほど分かる。

 リベラから見ても今回同行してくれた3人の護衛は強く、魔物相手ならば決して後れを取らない筈だった。
 特に一番経験豊富な男性は、カマリの街でも一二を争うだろう。
 そんな彼が、冷や汗をかきながら対峙するのが異常な魔物でなければ、何の問題もなかったはずなのに。

「くそっ、おい、逃げろ! そして街に戻って救援を要請してくれ!」

 そんなこと出来るはずがないのは、きっと彼自身も分かっているはずだ。
 それでも言うしかなかったのだろう。絶望の黒い影は、もう飛び上がっていたのだから。

 獣としても驚異的な跳躍を行い、太陽を自身の影で隠しながら黒い獣はナイフを抜き放った男性に襲い掛かる。
 上空から降ってくる絶望に対し、その胴体を狙って正確に男はナイフを振るったはずだった。
 けれど絶望は左前脚の爪でそれを弾き、返す動きでそれを男の右肩にめり込ませる。

 肉が裂け、骨が折れる嫌な音が響くと同時。

「ぐあああああああああぁぁ!」

 続けざまに男の左肩に獣が嚙みついた。
 地面にあおむけで倒れ、自分よりもはるかに重いであろう黒い獣に押しつぶされそうになる。
 必死に抵抗し、ナイフを振るうものの、それは掠るばかりで致命傷を浴びせることはできない。

 否、致命傷を負っているのは男の方で、そんな彼の力では獣を何とかすることなどできるはずもなかった。
 獣は全身に力を入れて男の体の骨を板のように軽々と折り、牙をさらに突き立てて顔を返り血に染めた。

 男の抵抗が段々と小さくなる。叫び声も何もかも小さくなり、そして完全に動かなくなった時。

 噛みついたままの状態で黒い獣はリベラを見た。

 血と同じ赤い眼。口元を流れるおびただしい量の血。
 牙が噛み千切ろうとしている男の肉。
 それに目を奪われてしまっていたからこそ、いや例え来ると分かっていたとしても。

 リベラは黒い獣の角から放たれた漆黒の光を避けることなど出来なかっただろう。

(あっ……)

 先ほどまで目にも負えない速度で熟練の冒険者たちが倒されてきたのに、その光景だけは何故か止まったかのようにゆっくりと目に映った。
 これは走馬灯のような一種なのだろうか。
 答えは分からないけれど、リベラの目には確かに黒い光が映っていた。

 ――ああ、これがおじさんを殺した光だ

 本能が理解する。
 動くことのできない自分に迫る、死という明確な光。
 見ただけで分かる。そうした祝福を、自分は持っているから。

 リベラの体は、その黒光に内包された呪いを受ければ確実に死ぬと警報を発し続けていた。
 けれど、避けることはできない。
 どれだけ見ていても、どれだけ捉えられていても、それはまるで定められているかのように。

 リベラを突き飛ばしたシェラの胸に、突き刺さった。

「……え?」

 どさりという音を立てて地面に倒れるリベラ。
 その間も、目線だけは彼女から離さなかった。
 胸に黒い光を受けた彼女は……大切な幼馴染、シェラ・ロズウェルは、地面に倒れた。
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