魂選塔

中釡 あゆむ

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包丁

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「鬼って……?」


あどけない声だった。少年はこれまで共に逃げてきたから、もうわかっているはずなのだ。嘘をついた良心が痛んできてしまう。


「そういえば、おねーちゃん……なんでおれたち逃げてんだっけ」


急に話を振られ、私はそれでも彼を見ることが出来なかった。リスリもついに目を逸らしてしまう。


「おねーちゃん、おれと一緒だって言ってくれたよね」


視界はただ壁を映しているのに、魂ごと彼に集中していた。少年の言葉、声音、見ていないからこそ敏感にそれらの変化を感じ取れてしまう。彼の声は、震えていた。空間が張り詰め、苦しくなってしまう。


「ごめんっ……」


無言の圧力に耐えきれなくなって絞り出した。少年の動き出す気配、消される……恐怖で身構えたが、しかし少年は扉を開けて走り出してしまう。
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