この青く美しい空の下で

しんた

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大切な"仲間"に報告を

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 どれ位振りだろうか、"管理世界ここ"に戻って来たのは。
 美しい白い廊下を歩くと、こつこつと心地よい音が響いていく。
 まるで宮殿のように広く天井が高い。

 少し歩くと目の前に重厚で豪奢な扉が見えてきた。
 傍には濃い茶色の髪でがっしりした体系で2メートルを越える男性がいる。
 その男性はポワルが近くまで来ると話しかけていく。

「戻ったか、ポワルティーネ」
「ガエウェグフォル、皆は?」
「既に集まっている。後は我々だけだ」

 歩みを止めずに会話をし、ポワルは手をかざす事なく力で大きな扉を開いていく。
 重々しい音と共に徐々に開いていき、徐々に見えてきたその中は、とても広く白い空間となっている。
 その広い空間の中央には円卓がぽつんとあり、そこにはこの世界の全ての神が既に座っていた。

 この世界"リヒュジエール"には十三柱の神々が存在する。
 九柱は持てる力を封じて、世界にある九つの街にそれぞれ一柱ずつ顕現し、
 残りの四柱は天上と呼んでいる"管理世界"で世界の人々を見守り、世界に起こる不具合の調整をしていた。

 ポワルを含めた神々の為すべき事は、この世界リヒュジエールの人々を心から愛し、慈しみ、大切に見守っていくというものだ。今は遠い、"はじまりの時"に全員で決めた事だ。

 ポワルはある想いから、別次元に存在していた者達に声をかけ、自身が想い描く"楽園"を創る仲間を探していた。
 彼女の想い描く世界を、鼻で笑う者も少なくは無かった。だが、並々ならぬ想いから、ひとり、またひとりと次第に増えていく仲間が、現在ここにいる十三柱の神々として、この世界リヒュジエールを見守っている。

 ポワルはそんな仲間達へ待たせてごめんなさいねと言いながら、空いている上座に座る。彼女を正面から見て左側にガエウェグフォルが座った。そしてポワルの右に座っている男性が彼女に話しかける。

「おかえり、ポワルティーネ。現状は聞いたよ。大変だったね」
「大丈夫、もう大分落ち着いたわ。ありがとう、リヒュリジエル」

 見た目は二十代前半、白髪長身で美しい顔立ちの男神が穏やかな表情でポワルに語るが、目の奥は全く笑っていない。
 いや、彼だけではない。この場にいる全ての者がそうなのだ。あんな事をされて赦す筈がない。絶対に。

「私から報告があるわ」

 緑色で美しいグラデーションがきらめく腰の下まで届く長い髪。明るい碧の瞳の女神レティジィルブールが言葉を放つ。
 レテュレジウェリルと、もう一柱であるレテズレリルグルーヌと共に三女神と呼ばれ、天上で世界の管理をしている三柱のうちの一柱だ。

「イリスさんを襲った敵は、この世界に影響なく入り込める様に、力を最小限にして浸入し襲撃。彼女の身体に呪詛を放ち自滅した。これは我々に回収をさせず、敵の情報を解析させない為と思われる。
 だが既にその世界を特定し、今現在は敵の戦力と呪詛の対応策を検討中。問題はイリスさんに撃ち込まれた呪詛にある」
「どういう事ですか? 世界に影響をもたらした方が都合が良いのでは? 
 それにあれは魂を穢し、転生させない為の物で――」

 怪訝そうにポワルは聞き返したが、直ぐに思い改める。

 いえ、待って。あの時、あれ・・は私を狙っていた? どうなったかは理解出来ていないが、私はイリスちゃんと場所が入れ替わっていたように思える。私が狙われたって事はつまり……。

「そう。あれ・・は、女神である貴女を狙ったもの。そしてあの呪詛は、神をも消滅させ得る力を持っていた"神殺しの呪詛"。つまり――」

あれ・・を送り込んだ敵は、貴女を殺そうとした』と言いかけてポワルに遮られた。
 恐ろしく冷たく、鋭く、重い怒りの声で。

「つまりあれ・・は、神をも殺せるモノを、あの可愛い子に撃ち込んだ訳ね――」

 一瞬で世界が凍り付いた様な空気へと変わり、凄まじい力の奔流がポワルから溢れ出していた。出した訳ではない、自然と出てしまっていた。こんなに腹立たしい事が未だかつてあっただろうか。
 一拍、二拍と、時間は過ぎていき、自然と溢れ出していた力に気づき、ごめんなさいと言わんばかりに瞳を閉じる。

 ポワルが落ち着きを若干取り戻したと確認して、リヒュリジエルは口を開く。

「ふむ。それで、あの子の力はなんだい? 
 記録を見た限りでは、どうやらポワルと場所が入れ替わったかの様に見えたが」

 その問いに、三女神最後の一柱であるレテズレリルグルーヌが説明していった。

「それに関しては、わたくしから報告させて頂きますわ。
 あの力は"願いを力"に転換させたものと推測されますわ。あの時のイリスさんはポワルティーネを救いたいと心から願ったのです。どうにかして救いたい、自分が代わってあげたいという、とても強い願いが力になったと思われますわ。
 ですが、これ程までに強い力を普通の人、まして少女であるイリスさんが使えたとも思えませんの。ですので私はこう結論付けましたわ。"祝福された子"であるが故に使えたかもしれない、と。曖昧ではありますし、確実な答えも出ないでしょう。それ程"祝福された子"の存在を我々も把握しておりません。
 恐らく限定的に使えた能力と考えられますの。その条件は"祝福された子"であること、ポワルティーネを心から大切に思った"想いの力"などに加え、自分よりも大切な存在を守りたい、身代わりになってでも助けたい、という様々な要素がとても強い"願いを力"として顕現させた事だと推測されます。
 我々の良く似た力で言うのなら"互換転移"といった所の現象を体現した。正確には、これに似た性能の力なのでしょうが、神であるポワルティーネを移動させるまでの強大な力として顕現させた。これはつまり――」
「奇跡を体現させたのね」

 今まで穏やかに聞いていた、クディエリルジュールが初めて口を開く。
 ピンクゴールドの髪をハーフアップにした、少々垂れ目で薄い桃色の優しい眼差しの瞳に穏やかな顔立ちの、とても美しく、穏やかな性格の女神だ。

「だと思われますの」

 短く語るレテズレリルグルーヌ。神々は顔を難しい表情をしていた。

「人の身でありながら、それ程の奇跡を体現させたのか。なんて無茶を……。
 失敗していれば、魂ごとバラバラになっていたぞ。……いや、それだけの力を行使して無事でいた事の方が奇跡か」

 ガエウェグフォルが呆れた顔で話していた。

 本来、地上に降りる神は、世界に影響が出ない様に力を制限してから地上へと降りていく。だがそれは、あくまで抑えているのであって、自身が持っている力を天上の"管理世界"へ置いて来た訳ではない。
 抑えているだけの力であるのだから、使おうと思えば地上でも強大な力を行使する事は可能だ。イリスはそんなポワルを、自身の力で場所を入れ替えたという。

 それは、人では決して辿り着けない領域の力を持つ神を、力で強引に移動させた事と同義である。力の無い者が同じような事をしても、移動させるどころか、神の着ている服を揺らす事ですら出来ないだろう。
 それをあの少女は強引な力で、ポワルを自身のいる場所へ強制的に置き換えた。
 これはつまりあの一瞬だけとはいえ、神と同等の力を行使した事に他ならない。

 ポワルは決して力の弱い神ではない。単純な腕力という意味では最高の存在とは言えないが、それでも十三柱の中で、確実に最上位から揺らぐ事が無い程の実力者だ。
 本人が力をひけらかさない事と、とても穏やかな気性の為にあまり力を表に出す事は無いが、十三柱の中では間違いなく最高の実力者だと神々は理解していた。
 幾ら思想が素晴らしくとも、幾らそれを実現できる能力があったとしても、
 自身の力よりも弱い者に連れ添おうなどという存在はあまりいない。

 "リヒュジエール"を創造したリヒュリジエルのように、彼女の思想に惹かれた者達が此処には多いが、それでもポワルにそれなりの力が無ければ、相手にもされなかったかもしれない。

 何もない場所に太陽と月と星を創ったリヒュリジエルは、
 そのあまりの膨大な力の消失に意識を失い、眠りに落ちてしまったが、
 彼の変わりにポワルが残りの大地、空、海を創った経緯があった。

 言葉にすれば簡単な事のように聞こえるが、言うほど軽々と出来る事では決して無い。恐らく他に創造する力を顕現出来るのは、十三柱の中でもリヒュリジエルの他はポワルだけだろう。
 他の神と比べても、圧倒的とも言えるほどの膨大な力の総量と、とても繊細な力の扱い方に長けた神。だが決して力を振り回すことも、仲間に命令したりする事もしない、穏やかな気性で神々の中で誰よりも世界の人を愛する優しき女神。
 それがポワルティーネだ。

 ……楽しい事が大好きで、その自由奔放な性格が災いして、
 よく振り回される神々がいるのは、愛嬌と言った所だろうか。

 誰もがイリスの無謀とも呼べる力の体現に言葉を詰まらせる中、
 レテズレリルグルーヌは話を続けていく。

「それだけポワルティーネへの"想い"が途方もなく強かった、という事で――って、泣かないで下さいます?」

 半目になり呆れた表情のレテズレリルグルーヌは、涙を止めなく流しているポワルに話を中断させられてしまい、言いくるめるように話しかけた。
 尚も涙を止める事が出来ないポワルは、鼻声で彼女に言葉を返していく。
 その言い方はとても子供のような表現をしていた。

「だって、そんなに想われてたって知ったら……。凄く、嬉しくなって……」

 ぐすっと鼻を鳴らすポワルへ、さりげなくリヒュリジエルが白いハンカチをポワルに差し出し、それを受け取ったポワルが『ありがと』と軽く言いながら涙を拭い、ちーんと鼻をかんだ。
 何とも言えない微妙な空気が周囲に漂っていく。

 神々が息をつきながら一拍を置いた後、レテズレリルグルーヌは話を戻していった。事はそう単純な話ではないのだ。イリスがそれ程の力を行使したという事実そのものが問題となる。

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