このたび、片思い相手の王弟殿下とじれじれ政略結婚いたしまして

むつき紫乃

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過保護と言われまして②

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 二人がダンスを終えて人の輪に戻ると、待っていたかのように声をかけてくる人物がいた。

「エミリオ、来い。少し話がある」

 王弟であるエミリオをぞんざいな指の動きで呼びつけるのはクロードである。彼が広間の出口に足を向けるのを目にしたエミリオは、セレナを一度チラリと見ると、誰かの姿を探すように広間をぐるりと見回した。

「アリス、ちょっと来てくれないか」

 彼が呼びかけた先に視線を向けると、セレナたちからさほど離れていない場所に、小柄な王妹の姿を見つける。彼女もダンスを終えたばかりらしく、相手の男性に手を振って別れると、ちょこちょこと小動物を思わせる足取りでやってきた。

「なあに、お兄様?」
「私は少し席を外すから、代わりに彼女のそばにいてやってくれないか」
「分かったわ」

 それからエミリオはセレナに向き直ると、親指でそっと妻の頬を撫でた。

「すまないが、少しだけ待っていてくれ」

 優しい声音でそう言い置いた彼は、すぐに陛下のあとを追う。「過保護だな」とクロードが呆れたように呟く声が聞こえた。

 セレナがなにも言えずに二人の背中を見送っていると、傍らから「ふふふふふ」という、淑女にはやや相応しくない含み笑いが耳に届く。隣に立つアリスがにんまりと目を細めて笑っていた。

「お兄様ったら……! ほんの少しの時間も、セレナを一人にするのが心配なのね!」
「一人では置いていけないくらいに、わたくしが頼りなく思われているということでしょうか……」

 年下のアリスのほうが信頼されているらしいという事実にセレナは少なからずショックを受けていた。クロードが呟いた内容も地味に刺さる。
 アリスが一瞬ぽかんとした顔になり、それから吹き出した。

「やだ、違うわよ。社交ならセレナのほうが私よりずっとそつなくこなすに決まってるわ。そんなことはお兄様たちも分かってるわよ」
「それなら、過保護というのは一体……?」

 セレナが首を傾げると、アリスは目と口を三日月のように歪めてまたあの含み笑いをする。

「アリス様、人の多く集まる場でそういう笑い方は控えたほうがよろしいですよ」

 お目付け役として一応注意しておくが、アリスは声こそ抑えたもののニヤついた表情はこらえきれないらしい。澄ました顔を取り繕おうとして力んだ結果、さらにひどい有り様になってしまったので、セレナは苦笑して彼女を人々の間から連れ出した。

 人のいないバルコニーを見つけて足を踏み入れると、アリスはそこで我慢が限界に達したらしく、柵に駆け寄ってしがみついたかと思うと、肩を震わせて笑いはじめた。セレナはなにがおかしいのか不思議で仕方がない。

「先ほどからなにを笑ってらっしゃるのですか?」
「だって……っ、エミリオお兄様が私にセレナを任せたのって、自分の目の届かない場所でセレナがほかの殿方と二人で話すのがいやだったからでしょう? あの冷静な顔でしれっとそんなことをお願いしていくのが、おかしくって」
「ええ……?」

 セレナはぱちぱちと瞳をまたたき、困惑の声を漏らす。

「それはない、と思うのですが……?」

 あの穏やかなエミリオとそういった類の狭量さは全く結びつきそうにない。そもそも彼とセレナの関係は、人目もはばからずそんな独占欲を発揮してもらえるほどには深まっていないと思う。
 しかしアリスは己の考えに絶対の確信を持っているらしい。

「ううん、絶対にそうよ! モニエ侯爵と話してたときだって、セレナを妻にできたことは人生で最上の幸運だー、って言って、大事そうに抱き寄せてたじゃない」

 そのときのことを思い出して、セレナは顔を赤らめた。引き寄せられた逞しい身体の感触がよみがえり、肌がひとりでに熱を帯びる。あのときは周りの注目を集めてしまったから、アリスにもばっちり目撃されたのだろう。
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