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リリスとしての仕事 第二王子の場合
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ヨウラドウは大河の付近にある街で、古くは都のあった地である。
国内における物流の要となる都市であり王族の直轄地として、現在は第二王子が駐在し街を治めていた。
古い都市特有のどこか気取ったような雰囲気に、数百年も前に造られたような町並みが排他的な気質を醸し出している。
木造建築やレンガ造りの家が多いからだろうか。茶色いな、といつ来ても思う街だ。
良く言えば歴史を感じる、悪く言えば足場の悪いゴツゴツとしたレンガ造りの道を、転ばないように気を付けながら歩く。
気を抜くと躓きそうになるので本当に注意が必要だ。
町の中心にある城に向かう。
かつて王が住んでいた城で第二王子は王族としての勤めを果たしていた。
城の前には大きな城門があった。
いかにも真面目そうな門衛に、懐中時計を見せると簡単に通してもらえる。
中に入ると見事な庭園がある。
こちらは一般市民も入ることが可能だ。季節の花が咲き乱れ、中央には大きなドラゴンの石像が鎮座している。その口からはどのような仕掛けなのか炎が吹き出していた。
かつての勇者がドラゴンを倒した時の逸話が元になっているという、歴史ある石像だ。その口から漏れる炎は尽きたことはないという。
付属する大聖堂を横切り、城の入り口へと向かう。
そこにも衛兵が並んでいるが、もう通達がいっているのか止められることはなかった。
中に入ればこの城の執事を勤める男が、頭を垂れて待っていた。
「お待ちしておりました。リリス様。」
娼婦に頭を垂れる男など多くはない。しかし彼は、客人としてもてなすように第二王子から伝えられれば職務としてそれを果たす。
「殿下がお待ちです。」
こちらへ、と言われて執務室に案内される。
以前来たときよりも調度品が質素になっているだろうか。余り派手な物や贅沢を好まない第二王子らしい。
「殿下。リリス様がお見えです。」
ゆっくりと扉が開かれ、その中に入る。
第二王子は仕事中なのだろう。書類に目を通している最中であった。
「早かったな。」
そう言って此方を見ようともしない。
第二王子の光の加減によって色の変わる灰色の髪が、窓から差し込む日の光によってキラキラと輝いて見えた。
何を考えているか分からない冷たいコバルトブルーの瞳に長い睫毛が落ちていた。
「下がって良い。」
執事に向けてそう言うと、部屋には二人きりになった。
第一王子とは歳の離れたこの国の末の王子様。今年24歳になった彼は、精悍な顔つきといった言葉が似合う顔立ちをしている。
三十を超えても愛嬌のある顔立ちをしている第一王子とは余り似ていない。
第二王子は母君に似ている。
「お久し振りです。殿下。」
カーテシーを取るが
「ああ。」
と見向きもされない。
至急来てくれと言ったのはどこの誰だったか。
急ぎ甲斐ないことだ。
仕方がないので王子の仕事が終わるまで待つことにした。
勝手に座ったり物を触ったりも出来ないので立ったままだ。特にやることもないので、横にズラリと並んだ本棚にある本のタイトルでしりとりをして時間を潰した。
どのくらい経っただろうか。
足が痛くなって来たところで王子がやっと顔を上げた。
「待たせたな。」
私はその言葉を首を振って否定した。
冷たい声。
会いたい、と言われて来たが彼は他の客とは違う。
私の実家。アドラー公爵家は王位継承争いに於いて、第二王子の陣営を支えていた。
母親同士に交流があり、婚約者となる可能性が高かった為、私と彼とは小さな頃から面識があった。会うのは数ヵ月に一度程度ではあるが幼馴染みという奴である。
年齢が十を超えてからは余り会わなくなっていたが、手紙のやり取りくらいはしていた。
公爵令嬢だった頃の私の事を知る、数少ない人。
もしかしたら私が結婚するかも知れなかった人。
お父様が生きていればあのまま婚約し、今頃結婚して子供の一人くらいいただろう。
けれど、お互い別に好きあっていたわけではない。政略結婚という言葉でお互い割り切っていた。
国内における物流の要となる都市であり王族の直轄地として、現在は第二王子が駐在し街を治めていた。
古い都市特有のどこか気取ったような雰囲気に、数百年も前に造られたような町並みが排他的な気質を醸し出している。
木造建築やレンガ造りの家が多いからだろうか。茶色いな、といつ来ても思う街だ。
良く言えば歴史を感じる、悪く言えば足場の悪いゴツゴツとしたレンガ造りの道を、転ばないように気を付けながら歩く。
気を抜くと躓きそうになるので本当に注意が必要だ。
町の中心にある城に向かう。
かつて王が住んでいた城で第二王子は王族としての勤めを果たしていた。
城の前には大きな城門があった。
いかにも真面目そうな門衛に、懐中時計を見せると簡単に通してもらえる。
中に入ると見事な庭園がある。
こちらは一般市民も入ることが可能だ。季節の花が咲き乱れ、中央には大きなドラゴンの石像が鎮座している。その口からはどのような仕掛けなのか炎が吹き出していた。
かつての勇者がドラゴンを倒した時の逸話が元になっているという、歴史ある石像だ。その口から漏れる炎は尽きたことはないという。
付属する大聖堂を横切り、城の入り口へと向かう。
そこにも衛兵が並んでいるが、もう通達がいっているのか止められることはなかった。
中に入ればこの城の執事を勤める男が、頭を垂れて待っていた。
「お待ちしておりました。リリス様。」
娼婦に頭を垂れる男など多くはない。しかし彼は、客人としてもてなすように第二王子から伝えられれば職務としてそれを果たす。
「殿下がお待ちです。」
こちらへ、と言われて執務室に案内される。
以前来たときよりも調度品が質素になっているだろうか。余り派手な物や贅沢を好まない第二王子らしい。
「殿下。リリス様がお見えです。」
ゆっくりと扉が開かれ、その中に入る。
第二王子は仕事中なのだろう。書類に目を通している最中であった。
「早かったな。」
そう言って此方を見ようともしない。
第二王子の光の加減によって色の変わる灰色の髪が、窓から差し込む日の光によってキラキラと輝いて見えた。
何を考えているか分からない冷たいコバルトブルーの瞳に長い睫毛が落ちていた。
「下がって良い。」
執事に向けてそう言うと、部屋には二人きりになった。
第一王子とは歳の離れたこの国の末の王子様。今年24歳になった彼は、精悍な顔つきといった言葉が似合う顔立ちをしている。
三十を超えても愛嬌のある顔立ちをしている第一王子とは余り似ていない。
第二王子は母君に似ている。
「お久し振りです。殿下。」
カーテシーを取るが
「ああ。」
と見向きもされない。
至急来てくれと言ったのはどこの誰だったか。
急ぎ甲斐ないことだ。
仕方がないので王子の仕事が終わるまで待つことにした。
勝手に座ったり物を触ったりも出来ないので立ったままだ。特にやることもないので、横にズラリと並んだ本棚にある本のタイトルでしりとりをして時間を潰した。
どのくらい経っただろうか。
足が痛くなって来たところで王子がやっと顔を上げた。
「待たせたな。」
私はその言葉を首を振って否定した。
冷たい声。
会いたい、と言われて来たが彼は他の客とは違う。
私の実家。アドラー公爵家は王位継承争いに於いて、第二王子の陣営を支えていた。
母親同士に交流があり、婚約者となる可能性が高かった為、私と彼とは小さな頃から面識があった。会うのは数ヵ月に一度程度ではあるが幼馴染みという奴である。
年齢が十を超えてからは余り会わなくなっていたが、手紙のやり取りくらいはしていた。
公爵令嬢だった頃の私の事を知る、数少ない人。
もしかしたら私が結婚するかも知れなかった人。
お父様が生きていればあのまま婚約し、今頃結婚して子供の一人くらいいただろう。
けれど、お互い別に好きあっていたわけではない。政略結婚という言葉でお互い割り切っていた。
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