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修行
しおりを挟む夜が明けた。
薄明かるくなった中、ぼーっと景色を見ていた。油断しているとまた魔物が来るかもと警戒していたが、今のところその気配がない。
女は深夜になるとグーグーと寝息を立てて寝てしまった。この警戒心の無さはどうかと思う。
お嬢様育ちの長かった私は、外で寝ることが苦手だ。数時間仮眠を取ったのみで、かなり眠い。
いつもは転移魔法で依頼が終った後はすぐに帰るし、ダンジョンに潜ったときは寝てる暇なんて早々無かった。早くベッドに入りたい。お風呂に入りたい。
「起きるの早い。」
ふぁーと欠伸をしながら起きる女がこちらを見て言った。
服が乱れて艶かしい肌が見え、際どいことになっている。私が男だったら彼女は襲われていただろう。
本人は全く気にしてないのが逆に気になる。
「こんな所でゆっくり寝られる訳ありません。」
「私がいるから魔物なら来ないのに。」
ぐっと伸びをしながらそんなことを言う彼女に首を傾げた。
私がいるからってどういうことだ、と。
「皆私のこと、怖がって逃げていく。昨日の鴉も夕飯にしようとしたら逃げられた。貴女の方に行ってしまったのは申し訳ない。」
「ノワールコルヴォを食用に.....?」
中々狩れる人がいない為か、食べられるとは聞いたことがない。
Sランクの魔物なので素材は高く売れるだろうが......。美味しいのだろうか。
聞いてみると、
「かなり美味。昨日捕まえたのあるから後で食べよう。」
と返ってきた。
表情の変化を読み取りにくいが、心なしか嬉しそうだ。
「私は貴女の師匠になるから、美味しいご飯をご馳走する。」
そんなこと私は一言も言っていない。
「いえ、まだそうと決まったわけでは。」
慌てて否定しようとするも、被せ気味に止められる。
「私の中の決定事項。弟子は逆らえない。」
彼女の中では何故か既に決定事項になったようだ。
否定するのも面倒臭そうなので、取り敢えずそういうことにしておく。
私は忙しいのでと後で断れば良いだろう。
マジックボックスから出したと思われる解体されたノワールコルヴォの肉を女が調理し始めた。
魔法を使えるというのは嘘ではなかったようだ。
「そういえば名前、聞いてなかった。」
今更なことを言われる。
「.......リルと言います。」
ピクリ、と女の身体が動く。
「.......そう。私はカーラ。よろしく。」
手の平から火種を出して肉を焼きながらカーラが言った。美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
そういえば、昨日から何も食べていないことを思い出した。
「これ。もう焼けたから。」
串に刺して焼けた肉を渡された。
恐る恐る匂いを嗅いでみる。少し癖のある鶏肉の香りだ。
そっと口に運ぶと、口の中で脂が広がる。
空腹だったのを身体が思い出して無言で食べてしまう。
その様子を見たカーラがふふんと自慢気にこちらを見てきていた。
「どう?」
「.......おいしいです。」
「でしょ。師匠の言うこと正しい。」
食べ終った後には夜営をした後を二人で片付ける。
それが終わり、じゃあ。と去ろうとしたところをがっしりと掴まれた。
「私の魔法、見せるって言った。」
逃げようとするも力が強く逃げられない。
そのまま引き摺られていくしかなかった。
『वर्षावर्षा』
聞いたこともないない言葉を彼女が呟いた後、空に向かって大きな魔力が放たれ、そして長い長い雨が降った。
瞬間的に一時的に雨を降らせることはもしかしたら私にも可能かもしれないが、数日の間降らせることは不可能だ。魔力が持たない。
しかしそれをどういう魔法構築をしたのか分からないが彼女は可能にしていた。
そして、彼女の魔法を見た私は、彼女を師と呼ぶことに決めたのだった。
それ程に彼女の技術は素晴らしく、そしてこれ程の高みへ登ることが出来れば、もし復讐が実力行使になっても達成出来るのではないか。
そう思ったのだ。
今まで通り仕事は仕事できちんとこなした。勿論冒険者の活動も続けている。
そして、空いた時間にカーラ師の所に行って剣や魔術を教わることになった。
カーラ師はアルムブルクから三日ほど歩いた所にある、魔物の多い森の中で暮らしていた。
成る程、確かにこのような環境にいたら強くもなるだろうとは思う。真似したくはないが。
修行はかなりスパルタだった。
体力を付けるために身体強化無しで走ったり、崖を登らされたりした。
体力のない私はすぐにバテそうになるが、それを堪えて何とか訓練を続行させる。
体力強化メニューが終った後は剣術の練習。カーラ師の作った戦闘用ゴーレムとの戦闘訓練。
そして日が暮れた後にはひたすら魔力を巡らせたり、魔力を使って小指ほどの大きさの氷像を作り魔力をコントロールする練習をさせられた。
強くなりたかった。
戦争に参加することになるだろう第二王子の役に立ちたい。
村の皆を守りたい。
その一心で辛い修行に耐えた。
あっという間に一年の月日が経つ。
その知らせが来たのは突然だった。
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