金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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撤退

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師が消えた後を呆然と見つめ、慌ててマスター達を確認する。


カーラ師との戦闘はギリギリだった。


マスター達を気にする余裕は無い。最低限の身体強化を掛けてはいたがどうなっているやら。


砂埃の多い中、目を凝らして見ると返り血を浴びて着ている鎧が血に染まっている。


しかし大きな怪我はなさそうだ。


他の二人も多少の怪我はしているものの、似たり寄ったりな感じである。



「マスター!」



腰を抜かした男に、無表情で斧を振り落とそうとしているマスターを呼び止めた。




「踊り子ぴょん?どうした?」




先程までの無表情はどうしたのか、ニカッと笑ってこちらを見た。




「第二王子から救援要請です。急ぎ戻ります。」


「了解。止めは?」


「放っておきましょう。」




ふーん、と言って興味なさそうに振り返るマスターだが、どこかほっとしたような顔をしていた。


見逃された男は慌てて逃げていく。


ロア君と炎翼の導き手にも声を掛けて、急ぎ第二王子のいる場所に向かう。


第二王子のいる場所は魔力を探れば分かる。


こういうときだけあの人が身体を交えた相手で良かったと思う。









本隊のいる場所に向かえば、味方がかなり押されているのが見てとれた。


どうやって合流したのかは知らないが、敵軍は二倍ほどいるのではないだろうか。


『皇帝陛下の勝ち。』とは、こういうことだったのだ。


こちらは偽の情報を掴まされ、その間に援軍が合流。そういうことだろう。



第二王子は声を張り上げ、一生懸命に味方を鼓舞している。


自ら馬に乗り、従えた魔獣を使って剣も握り応戦していた。


飛んでいた私は慌てて地に飛び降りる。





「殿下!ご無事ですか。」


「リル。よく戻ってきた。頼めるか。」





頷いて、周囲に倒れているまだ息のある兵を範囲回復で回復させる。

個別での回復の方が効果は高いが仕方ない。


それでも何とか戦線の維持を出来るほどまでになった。ついでにと、掛けられるだけの強化魔法も掛けておく。


この数の差では時間の問題だ。


元より普通の人間で構成されるこちらの軍より、エルフなど亜人と呼ばれる人々も混ざる帝国軍の方が個々の力が強い。


それを何とか騙し騙しでも今まで何とか出来ていたのは、第二王子の手腕に他ならない。


味方がいる以上、私も大規模な魔法は使えない。


剣を握り、一人一人と対峙していく。


時折、遠くから味方を狙う弓兵を魔法で撃退する。


殺しても、殺しても、殺しても。


敵軍の勢いは止まらず、こちらも疲弊していく。


砂埃の中、馬に跨がり来たのはティーザー侯だった。





「殿下。撤退を!殿はこの老いぼれが務めます!」


「分かった。撤退しよう。ティーザー侯、頼んだ。」





お前達も、と言われ私は首を振った。




「マスター。ベン様。殿下を宜しくお願いいたします。」




おい!と声を荒げる王子を、ベンが無理矢理引っ張っていく。



「貴女は行かなくて良いのか。」




ちらり、と侯爵がこちらを見るが瞳の奥が少し揺れていた。




「助太刀します。貴方に死なれては困りますから。」




はっと息を呑み、彼が私を凝視している。




「後で話したい。」


「そうですね。生きて此処を切り抜けることが出来たら、いくらでもお付き合いします。」


「ふっ...楽しみにしている。」




おおよその味方が撤退したのを見送ってから、特級魔法を無詠唱で放つ。


固い音を立てて相手の足元を凍らせることに成功した。


ティーザー侯爵は戦場に千人程の手勢を連れてきたと聞いていたが、今はそれよりも少ないような気もする。


対して相手は4000。


単純な数の差で殿として命を散らす可能性が高い。




「余り前に出ないでくださいね。」



迫りくる大群の前に、足がすくみそうになる。


下腹に力を入れて気合いを入れた。




उदकम्ウダカ




魔力が流れ出て、現れた水が濁流となって敵軍を呑み込む。



「ティーザー侯爵様。此処を離れましょう。」



敵軍が押し流されているのを見送るや否や、後退を告げる。


侯爵は戸惑いつつも、頷き自分の部下たちに合図をして馬を走らせる。


私もその後ろを飛んで追いかける。

稀に濁流から抜け出した魔法使いらしき人間を打ち落としてはただ真っ直ぐ、第二王子たちと合流するために逃げる。


まともにあの軍団とぶつかってはいくらなんでも勝ち目はない。


卑怯と言われようが、まずは逃げることが先決だった。



暫く進むと、本隊と合流できた。



私の顔を見て、第二王子がほっとしたような顔をし、その日は国境まで下がり陣営を組み直すこととなった。






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