金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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血なまぐさい風

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開戦した戦争だが、王国軍は派閥によってばらばらで、連携なんて取れたものではなかった。


戦果を争うばかりで互いが互いに足を引っ張り合うような、果たしてやる気はあるのか、と何とも呆れる状況が続いている。


勇者様達はまだ出ていない。というよりもまたそこまでの大規模な戦闘は開始していないという方が正しいだろうと思う。


私達…第二王子派はというと、最前線に送られていた。



「まあ、知り合いに会うかもとびくびくしながら過ごすよりはこちらの方が良いのですが。」



「踊り子ぴょん、なんか言った?」



巨大な斧をブンッと振り回したマスターが、返り血を浴びながら言った。マスターの相手はというと綺麗に切られ絶命していた。



「何でもありません。」 



「あそっ!」



マスターがもう一閃、迫ってきた相手に斧を振るう。


彼女の周りには既に、屍が積み重なっていた。


その隣でロイ君も剣を振るい、次々と敵を倒していた。



「な、なんだあいつらは!」


「化け物か!」



私はというとマスターと背中合わせになり、二人の死角になるところから狙われるのを防ぐ。


今回は奇襲戦ではない。大規模な攻撃魔法を使うまでも無かった。


子ども達はまだ連れてきていない。


彼らは不満そうにしていたが、いつか出るにせよ、なるべく先延ばしにしたいというのが私の意見だ。


せめて第二王子の命令があるまではと留めている。


勇者であるミキ様も同様だ。


そして第一王子派の゙元にいる勇者達もまだ戦果らしい戦果を上げたという話は聞いていない。


向こうの考えは私には良く分からない。



「くそっ!この化け物共が!」



迫る敵に剣を振るい、返り血を浴びる。


不快な匂いと、怨嗟の声で満ちる戦場に、戻ってきてしまったと嫌な思いがする。


化け物…か。


累々と積み上げられた屍に、確かにとも思ってしまう。





――――――――



野営地に戻ると、サヨが笑顔で迎えてくれた。


私達の姿を見て、他の面々はビクッとする。



「リル様!」



ルイは血まみれの私を見て、怪我をしたのかと心配してくれたが…。



「大丈夫ですよ。全部返り血ですから。」



「…先生達が素晴らしい戦果を上げているという話は聞きました。噂ではその戦果すら第一王子派やグロイスター派のものとして報告されているらしいですが。」



「どうしてですの!お姉様の功績を奪うなんて許せませんわ!」



怒りを露わにするラダを宥める。

この国がおかしいのは元からだ。今更言っても詮無いことを



「お姉様…お姉様はどうして国に従うのですか!」


「…大事なものがありますから。貴女だって同じでしょう。」



ぐっと言葉に詰まるラダの頭をそっと撫でる。



「マスターもロアさんもお疲れ様です。夜が明ければまた戦場です。ゆっくりは出来ませんが…少し眠らせてください。」



子ども達に背を向け、私達はテントで眠ったのだった。



人の気配を感じて目が覚めると、そこには花しぐれがいた。

マスターとロア君は疲れているのだろう、ぐっすりと眠っている。



「ちょっとこっちに来てくれんか。」



行くことにする。


二人を起こさないようにそっと起き出して少し離れた所に移動する。




「戦とは…いつの世でも嫌なものじゃな。」




ふいに吹き抜けた生ぬるい風が、どこか血なまぐさいような気がして気持ち悪くなる。



「どうかしましたか。」



「東の方から敵軍の気配を感じる。…そろそろミキの同郷の者達が出るのではないかと思ってな。」



東の方…第1王子派が陣営を組んでいる辺だ。



「何故、そんなことが分かるのですか?」


「我は精霊じゃ。精霊とはどこにでも行くことが出来、どこにでもいるもの。限られた戦場で起こることを知るのは容易い。…ミキが同郷の者を心配しておる。大丈夫だろうとは伝えているが…。」



第一王子派の貴族は内政…というより宮廷で王に媚びるのが趣味のような貴族が多い。

戦に出た経験は乏しく、それは第一王子も同じだ。

立場上指揮官なんてしているが、帝国軍に叩かれれば逃げるので精一杯…になると思う。




「…いつ頃敵軍が到着しますか。」



「奇襲のようだ。あと数刻であちらの陣営は叩かれるだろう。止めてはいるが…ミキ派行くつもりのようだ。」



ミキ様が行こうとしている、というのは少し問題だ。しかし、止めたからといって彼女が大人しく言うことを聞くとは思わない。


正直かなり迷う。

行くべきか放っておくべきか。


私は現在、第二王子の指揮する騎士団に所属する騎士だ。

勝手に行くことはできない。


けれど…。


第一王子の顔が脳裏にちらついた。



「ミキ様を呼んでください。」



花しぐれにそう言って急ぎ第二王子のいる天幕へと向かった。




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