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説得
しおりを挟む私は私で事情を説明する。
私達に求められてるのは勇者の相手のみで、他の者に要求されたら断っても大丈夫だと、グロイスター公から言われていた。
それを伝えると、
「…つまり?リリスは私たちに勇者の相手をさせようっていうの?」
と余計にルーナが怒った。
「私は絶対に嫌よ!勇者なんて肩書に騙されたりなんてしないわ!あんなの、どこの馬の骨とも分からない子どもじゃないの!」
「…ごめんなさい。私もすぐには承服しかねるわ。勇者様が特別な方達だって言うことは分かるのだけど…。この年になると若い子の相手は少し辛いものがあるの。」
年を取ったようには見えないが、気にしているらしいノルンが困ったわ、と頬に手を添えて言った。
「リリスとラダで相手するのはどうなの。二人なら戦場にいたって転移魔法ですぐ逃げられるじゃない。」
やっぱり、そういう話になったと思わず溜息が出る。
ノルン葉こちらの出方を伺うようにこちらを目を細めて見つめていた。
「私達もずっと勇者様の相手をしているわけにも行きませんから。…実は魔法が使えるからと上の命令で参戦しておりまして。」
冒険者をしていることは伏せて伝える。
同じ公娼とはいっても、もう何年もやり取りをしてない。この人達がどこの誰と繋がっているのかも分からないので、こちらの情報はなるべく出さないようにしたかった。
参戦している、という話に二人は目を丸くした。
「そんな危険なこと!!」
ダンッとルーナがテーブルを叩いた。
「…怪我は?」
ノルンは心配そうに聞いてきた。
「…私は治癒魔法が使えますから。」
事実、多少の怪我はしているがいずれも魔法で事なきを得ていた。
「そう…。それなら…。」
ほっとルーナが息を吐いた。
「女の子なんだから、怪我なんてしたら駄目よ。それに貴女の身体は本来、国王陛下のものなのだから。」
公娼とはかつての国王の為に出来たものだった。孤独な王が息抜きの場を作れるようにと。身分の低い女を愛人にする方法でもあったという。
それがどうして他の貴族に分け与えられるようになったのかは不明だ。
「国王陛下には呼ばれたことはありませんがね。」
「それは私達も同じよ。」
はあ、と皆でため息を吐く。
「とにかく、貴女の事情は分かったわ。」
少し考えさせて。とノルンに言われ、ルーナも即答できないとのことだったのでその日はノルンの娼館に部屋を借りて泊まることとなった。
ーーーーーーーー
「リリス。」
「…ルーナ。どうしました?」
一人、部屋の中にいるとノックが聞こえそれに答えるとルーナが入ってきた。
先程より気持ちが落ち着いたのか、もう怒ってはいなかった。
「本当に戦場に行くの?」
「そうですね。ラダも待っていますし。」
「…貴女達は強いから。」
ふっと自嘲したような笑みに、私は問いかける。
「貴女も魔力自体はあるでしょう?」
「…そうね。」
ルーナからは、魔法を使ったことが無い魔力持ち特有の、不安定な魔力を感じた。
「私の父親は先王陛下だもの。多少の魔力はあるわ。」
自分が先王の子どもだと言うのは、彼女の昔からの口癖だった。
自分は公娼の娘なのだから、国王の子どもなのだとそれが彼女の言い分だ。
彼女の母親は一度だけ先王に呼ばれたことがあるという。しかし彼女が産まれたのとは10年ほど時期がズレていた。
自分の価値を上げるために、自分のことを王の落胤だと言う娼婦というのは一定数存在している。
ルーナは父親が不詳らしく、自分の中でそういうこととして納得させているようだった。
「魔法を使いたいと思ったことはありませんか?」
「…貴女達を見て、羨ましくないかと言われれば嘘になるけど、私は早く借金を返して自由になりたいの。魔導書って高いでしょ?」
魔法使いにとって、魔導書は必須だった。
師匠がいればいらなくなったものを引き受けることも出来るが、そうでなければ自分で買わないといけない。
ルーナ…彼女に掛けられた借金は公娼の中でも莫大だ。彼女が母親の分の負債まで被っているのだから仕方ない。
自分を曲げてまでは嫌いな客を取りたくはないが、自由になるために金は欲しい。
彼女の気持ちはよく分かる。
「…確かにそうですね。」
「だから、いいの。私は。」
悪かったわね、とポツリと呟く彼女を見つめた。
「私だって馬鹿じゃないわ。今回の命令が断れるものじゃないことも分かってる。…それでも私達を物のように使うことに腹が立ったのよ。それに勇者には嘘をついて、相手が魔王軍だと思わせているんでしょう?一般市民の中でもそれを懐疑的に思う人は沢山いるの。それに利用されるのが許せなかった。」
だけど、と彼女が続ける。
「貴女とラダだけ危険な目に遭わせるわけにはいかないものね。嫌なことを人に押し付けるのも違うと思うし。……もし、何かあったら、リリスかラダが転移魔法で逃がしてくれるのなら、それを約束してくれるのなら、私は行くわ。ノルンはお客様も殆ど王都に残ってるし、店があるから難しいかもしれないけど。」
そう言うだけ言って、じゃあと彼女は出ていく。
夜が明けて、再び三人で集まり、結論を出すとノルンは矢張り王都に残るそうだ。彼女の客は前線を退いてはいるものの力のある貴族が多い。
悪いようにはされないだろう。そしてルーナは同行することとなった。
「あの行列はどうするのよ。」
ノルンがからかうように言う行列とは、ルーナが旅に引き連れている伴達のことだ。
総勢20人ほどおり、ある程度腕の立つものや薬を扱える者、商人、踊り子など様々な者が集まっている。
彼女が旅をする中で、彼女に惹かれ、共にあることを望んだ人々だと言う。
「…追いかけてこないように伝えるわ。」
危険だもの、とルーナが言った。
「…そう。それなら、彼らが王都にいる間は、私が面倒を見るわ。あの子達の為にも、無事で帰ってくるのよ。」
「ノルン、ありがと。」
そして心配そうなノルンに見送られ、私達は戦場へと向かうのだった。
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