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心配くらいはさせてください
しおりを挟む「リル様?」
勇者が完全に眠ったのを見計らって第二王子陣営の下へと戻るとルイに声を掛けられた。
ぐいっと手を引かれ、くんくんと匂いが嗅がれる。
「…男の匂いがします。」
一応水浴びはしてきたのだがどういう嗅覚をしているのだろうか、不機嫌そうに睨まれて溜息が出る。
「…仕事。」
ぱっと手を離すとルイにも溜息を吐かれた。
「…まだ、続けてたのですね。もう辞めたとばかり思っていました。」
もう私の背丈はとっくの昔に超えて、また伸びただろうか。かなり見上げたところにルイの顔があった。
村を出た時とは違う、鍛えられた身体と以前よりも殺伐とした雰囲気に呑まれそうになる。私がどんなことをしていようが、気にしなくて良いと伝えてもルイは納得しないだろう。
振り払われた手はあんなに痛そうにするのに。
「ルイは…いつも私のペースを乱すね。」
「どういう意味ですか。それは。」
何年か前もこうだった。
二人で星空の下話したことを思い出す。あの日もルイはこうして怒っていた。
私のことを好きだと言ったルイの言葉を忘れた訳じゃない。それでも、いつか私のことを忘れて幸せになってくれたら良いと思う。
それなのに彼は中々私を諦めてくれないのだ。
「俺の方こそ子供の頃からずっと、貴女に命を救われた時からペースなんて乱されっぱなしですよ。」
彼を拾ったのは王都だった。通りがかりのパン屋の主人に殺されそうになっているのを仲裁して助けたのだ。
「そう…。」
昔を思い出して懐かしい気持ちになる。この子は大変な子だった。
「リル様。僕は貴女の邪魔にはなりたくない。困らせたい訳でもない。貴女が何か目的があってその仕事をしているのならば何も言いません。……それでも心配くらいはさせてください。」
以前なら此処で怒られたものだが、今のルイは不機嫌そうにはしているものの強引な様子はない。
そんな彼の様子に突き放すことも出来ず、そんな自分に溜息が出た。
「心配をかけてしまってごめんね。」
「…別に。リル様の無茶はいつものことですし。」
ふいっとそっぽを向かれてしまうが、その頬が少し赤くなっているのを見て苦笑いが浮かぶ。
彼にどれだけ想われても私は…。
私は誰か一人と添い遂げるような未来は無いと思っている。ミキ様のいた世界に産まれたのなら兎も角、この世界では一度娼婦となった女が誰かと婚姻関係を結ぶなど有り得ないことだった。
この国でも王族や貴族の妾になることくらいは出来るかも知れないが…。
脳裏に浮かぶ第一王子の顔を払い除ける。
私の目的は復讐だ。
心の内に浮かぶ少女だった私の声は日に日に大きくなっていくばかりで、今更止めてしまえば生きている意味すら見失ってしまうだろう。
ルイには幸せになって欲しい。
ルイだけじゃなく、私の大事な人達皆に幸せになって欲しい。
その為にも復讐を成し遂げた後、私はこの国を去ろうと思っていた。
此処まで巻き込んで何を、と思われるかも知れない。でも、綺麗事でも何でも、私がずっと関わり続けることが良いことだとは思えなかった。
「暫くお休みしてしまいましたから、今日から戦場に立ちますよ。……ルイは辛かったら休んでも良いですからね。」
彼の目の下の隈を見て、それだけ伝えた。
後ろでルイが何かを言っていた気がするが、振り返ることは無かった。
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