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許されない罪
しおりを挟む彼を哀れに思う反面、許せないという思いが、あの頃の、公爵令嬢だった頃の私が泣き叫ぶ。
殺してやる!
殺してやる!!
早く、早くこの男を殺せ!
濁流のように流れてくるその思いを抑え、私は彼を見つめた。
まだ、聞き出さなければならないことがある。
「公爵様、私を…アドラーをどのようにして貶めたのですか。」
「…………第一王子派と手を組んだ。兄上を唆し第二王子を戦場へと向かわせ民衆を操って意図的に小さな反乱を起こした。簡単だったさ。アドラー領は豊かな土地だが、貧しい民がいない訳では無い。………そして公爵をおびき寄せ、事故に見せかけて殺したと聞いている。」
「…実行犯は、バルド伯爵でしょうか。」
「そうだ。」
「…第一王子も関与していましたか。」
ピクリ、と彼の肩が動いた。
「ああ。」
ガツンと頭を殴られたような気持ちがした。バルド伯爵が関わっていた、ということは分かっていた。そして、彼が…………第一王子が関わっていたことも。
やっぱりそうか。
―私は、彼がそんなことをする人ではないと信じたかったのだろうか。動揺する自分に驚いた。
覚悟が足りなかったのだろうか。それとも…深く関わり過ぎたのだろうか、彼のことを憎いと思えなかった。
バルド伯爵への恨みは更に募るというのに、どうして第一王子…クロウ様のことは憎むことも恨むことも出来ないのだろう。許しはできないが、複雑な思いがする。
「貴方は…許されたいですか?」
「あぁ、シャーロット、私を許してくれ…。お前があんなにも兄上には気を付けろと言っていたのに私はお前を信じずに愚かな道へと進んでしまった。」
私の腕を摑んだグロイスター公が力無く呟いた。
いきなり国王陛下の名前が出てきて混乱する。
「陛下が…どうされたのですか。」
「お前も覚えているだろう。兄上がお前に対して、異様な程の執着を見せていたことを。」
そうだったのか、と思う。
陛下には王妃様も…沢山の夫人もいる。どうして母に執着するようなことがあったのだろう。
「兄上は…昔からお前を独占しようとしていた。それがアドラー公に取られたものだから激怒していた。…いくら兄上と言えど、アドラーは簡単には手出し出来るような男では無かったがな。」
父は、宮廷でもかなりの発言力と求心力があったようだ。確かに、父に会いに来る貴族は多かった。
私は女だからと余り会うことは無かったが…弟はよく貴族達に会っているようだった。
「シャーロット…すまなかった。お前の愛しい子供達さえも、私は殺してしまった。そんなつもりは無かったというのに。止めようとした時には…既に全てが終わった後だったのだ。」
「許されたいですか?」
自分が思っているよりも甘い、優しい声が出てぞっとした。特上の、ローゼお姉さんのような特上の娼婦の声だ。
黒い感情が私を支配していた。
それは憎しみ故の激情のようでも、歓喜のようでもあって甘く痺れた。
王族と貴族の身勝手な横恋慕と権力への執着心で、私は家族を全て失った。
妹と母は惨たらしく殺され、尊厳さえ奪われた。
到底、到底許されることでは無い。
かといって、これから私がしようとしてることも許されることでは無かった。
天国や地獄というものがあれば、きっと私は地獄に堕ちる。
死後の世界でさえ、家族とは会えないだろう。
そう思うのに、それでも良いとさえ思う。
「それなら…。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
自分のものとも思えない甲高い悲鳴を上げる。
兵達が慌てて入ってくるのを、ただ眺めていた。
兵達と私の静止呼び掛けも間に合わず、グロイスター公が自分の胸に短剣を突き立てた。
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