金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

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ラダの出自

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第二王子の言葉を聞いた皇帝がふっと笑った。




「口約束が信用出来ないか…人間らしい言葉だな。」




エルフやドワーフなど、人間よりも長寿の種族というのは認知機能の衰えが来るまでも数百年…数千年かかることが多いらしく、口約束と言えども大事なことは忘れないものらしい。そして約束というのは必ず守るのだと言う。


反して人間というのは認知機能を保つことが出来るのはせいぜい数十年。またその時の都合で言うことを変えたり、約束を反故にすることもある。


人の中で育った第二王子や私達が口約束を信じられないと言うのはそういった生育環境によるところも多いだろう。




「ならば、契約書を作成しお互いの国で保管すると言うのはどうだろうか。」




妥当だと、そういうことになった。


すぐに皇帝が書記官を用意する。




「これから私とヨウラドウ公とで話し合い、内容を詰めていく。他の者達は外に出ていろ。」




とのことだったので私はマスター達と共に外に出た。用意して貰った空いている天幕の中で待機することとなった。

マスター達は固い雰囲気に当てられたのか、かなり疲れている。




「こんなことなら向こうに残って待ってれば良かったな~踊り子ぴょんは疲れてなさそうだね。」



「お姉様はお姉様ですから。」



何故かラダが自慢気に答えた。




「また君はそんな事を言って…。」




ロア君に呆れたように言われて、ラダがふんっと首を背けた。そんなやり取りをしている時だ。




「失礼する。」




天幕の中に、先程ラダを見て『私達の子供』と言ったのダークエルフの男が入ってきた。

着ている服や鎧の質が良く、かなり裕福な様子が伺える。帝国の中でもかなり上の身分の者のように思えた。




「あっ…。」




ラダが彼を見て戸惑ったように声を上げた。




「彼女と、少し話をさせて頂いてもよろしいだろうか。」



ラダを見ると頷いた。

退出して欲しそうな男を無視して私達も同席し聞き耳を立てる。ラダをこの男とだけにするのは少し心配だった。



「名前は…何という?」



「………ラフィですわ。」




少し考えた後、彼女は偽名を答えた。

マスターやロア君の前ではその名前で通っていたし、公娼であることは未だ内緒にしていた。


すっかりその名前にも慣れたと言っていた彼女は、公娼としての仕事をする以外はその名前を名乗っているようだった。




「ラフィか。良い名前だ。」




目元を和ませた男がそう言った。


良い名前と言われ、ラダもふっと嬉しそうに微笑んだ。ラフィと名付けたのは私だ。私が褒められたようで嬉しかったのだろう。




「お前の母親は誰だ?どこにいる?」


「母の名前は、ミューゼと呼ばれていたように記憶していますが、本当の名前なのか、今はどこにいるのかは分かりませんわ。わたくしは隣国から帝国に売られてきましたの。そちらの国でも王国と同じようにエルフが奴隷として売られていましたわ。わたくしの母は、娼婦として働いていましたわ。」


「そうか…。大変だったな。」



落胆したように見えたのは、気の所為ではないだろう。エルフというのは仲間意識がかなり強い種族のようだ。彼女の母親も救い出したかったに違いないが手がかりが無いのでは仕方ない。



「彼女が来たのは、王国から西の海を超えた先…センクックという名前の国だったと記憶しています。」



私がそう言うと、男が視線を私に向けじっと見つめた。



「お姉様、どうしてそんなことをご存知なのですか?」



ラダが首を傾げる。




「私は…それなりに教養を受けて育ちましたから。貴女と会った日もよく覚えています。」


「あれ?ラフィちゃんって、踊り子ぴょんの妹じゃなかったっけ?」


「血は繋がっていませんが…妹のように思っているので嘘ではないです。」




マスターの言葉にそう答える。


混乱してきた~とマスターが力なく言った。彼女には後で説明しよう。





「有難う。情報提供、感謝する。」




男は私に向かい頭を下げた。

私は公爵令嬢だったので、隣国の情報もそれなりに学んでいた。それ故にラダを連れてきた商人達の服装や言葉の訛から分かっただけだ。


礼を言われる程のものでもない。




「前皇帝の時代…帝国は弱体化し、子供達が誘拐されてしまうのを止めることが出来なかった。私も、仲間もそれを後悔している。ラフィ、そなたは私達の家族だ。今後国同士が敵となっても力になる。いつでも頼って来なさい。」




そう言う彼に、ラダは頭を下げた。

天涯孤独の身だった彼女にとって、その言葉は嬉しいものだったのだろう。少し涙目になっていた。




「疲れたろうから、今日はゆっくり休みなさい。また、会いに来ても良いだろうか。」


「是非来てください。戦況が落ち着いたら他のお仲間達も。」




ありがとう、そう言って出ていった彼の背中を見送った。

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