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それぞれの気持ち
しおりを挟む私は皆には全てを話した。
私がリリスだと言うことも、アドラー家の令嬢だったことも全部。
話し終えた後、重たい空気が流れた。
皆が私をじっと見つめていた。
もう、顔も隠さない。
そうすることの意味がもう無くなる。私はもう、覚悟を決めたのだ。
こそこそと生きるのは辞め、復讐をしなければならない。
「お姉様…お辛かったですわね。」
ラダが自分の顔のベールを剥がし、私に抱きついてきた。喉の痛みが少し増した気がした。
ラダも言うのだろうか。
彼女も覚悟を決めて、実はと話始めた。自分がラダだということを。彼女も国には思うところがあり、出来るならば復讐をしたいと。
そしてまた部屋に沈黙が落ちる。
マスターは何かを考えているようだった。
「…そっか。じゃあ、ロア君、君はさ、アルムブルクに帰ろうか。」
いきなり、そんなことを言い出した。それに反応したのは当の本人だ。
「どうしてですか!」
「話し聞いたでしょ?この戦争はごく私的な復讐の場になりかけているんだよ。関係者が全員国の偉い人だから戦争なんてものになっているけどさ。」
「つまり、僕は部外者だから去れと?それを言うならマスターだって!!!」
「…私はさ、もうこの際言うけど、バルド伯爵の私生子なんだ。」
激昂するロア君に、彼女は淡々と語る。バルド伯爵の名前が出てきた瞬間、驚いた顔をしたのは第二王子とラダだった。
全く似てないのだから驚くのも当然だ。
「母が死んだのは、バルド伯爵のせいだと思ってる。…出来る事なら殺してやりたいとずっと、ずっと思ってた。それがこんな形で叶うのならば、私は戦争だろうとなんだろうと利用するよ。殿下も踊り子ぴょんもラダも私も、そしてあの子達も。皆みんな戦争に参加する理由があるんだ。でも君は…そんなものないでしょう?」
マスターが続けようとするのをロア君が遮った。
「だけど、僕は騎士で…!!」
「それは国王陛下のでしょ。私達は陛下を裏切るんだ。騎士だろうと何だろうと、もう関係ないんだよ。もし騎士になったのにアルムブルクに帰ると角が立つなら、かかってきなよ。怪我でもさせてあげるから、裏切り者を捕らえようとして怪我を負わされたとでも言えば良いよ。」
殺気が部屋を包んだ。マスターのものだ。竦むほどの殺気に鳥肌が立った。
圧倒的な力。
彼女は確かに世界最強の一角だ。
しかし、それはロア君も同じこと。
彼は怯む様子もなく、マスターの殺気を受け止めていた。
「僕がそれを受け入れると?」
「受け入れてよ。」
「絶対に嫌です!」
激昂する二人の間に入る。
「二人共、辞めて下さい。」
二人を睨み付けると、少し落ち着いた。
「踊り子ぴょん…。」
マスターの考えは分かる。大事な仲間をこれ以上巻き込みたくない気持も。けれど、強引が過ぎるような気もした。
「マスター、落ち着いてください。ロア君、マスターの気持も分かってください。私だって、貴方をこれ以上巻き込みたくはない。」
彼は心優しい少年だ。
本当は戦争なんて似合わない。敵を殺す度に心を痛めているのは知っていた。
「…お二人共、勝手です!!僕はもうどうしようもないくらいに巻き込まれています。それに僕は……皆が大事なんです。僕のいない所で誰かが死ぬのは嫌です。」
「帰りなさいとお姉様とマスターに言われても帰りませんの?貴方は関係ないのですから大人しく帰りなさいな!!!」
それまで黙っていたラダまでが参加し始めた。
どころか、ロア君に掴みかかる。
揺さぶりながら帰れと叫んだ。
「嫌です!」
「どうしてそんな聞き分けのない!!!」
「貴方が好きなんです!!!!……あっ…。」
え?
私もマスターも第二王子もお互いに顔を見合わせた。
ラダも何故か顔を赤くしているしいつの間に?
「貴方、さっきの話を聞いていましたの…わたくし、娼婦ですのよ。」
「そんなことで、ラフィさんの何かが変わるわけではありませんから。だから僕に貴女を守らせてください。」
何故か甘い空気になり、困惑する。
こんな話をしていたかしら。
「んー、なんかもういいや。踊り子ぴょん、殿下、出よー?」
マスターがそう言うのに頷いて、私達は二人を残し天幕を出たのだった。
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