金になるなら何でも売ってやるー元公爵令嬢、娼婦になって復讐しますー

だんだん

文字の大きさ
101 / 136

砂埃の中で

しおりを挟む






砂埃の立つ中、私は王国軍と対峙していた。


第一王子は此処にはいない。どうやら、バルド伯爵の指揮する軍のようだ。伯爵の魔力を感じることが出来る。




「踊り子ぴょん…間違えた。アドラー公爵様。」



私のことをいつものように呼んだ後、呼び直したのはマスターだ。



「マスター、いつも通りで構いませんよ。」



二人きりの時は、と付け足すと彼女は困ったように微笑んだ。




「そんな訳にはいきませんよ~。貴女はお姫様に戻ったんですから。」



「お姫様だなんて、そんな柄じゃないですよ。マスターに他人行儀に振る舞われる方が淋しいです。」



「うーん…そこまで言うなら。」



と彼女はいつもの態度に戻った。



「踊り子ぴょん、私ね決めたの。」



ふわり、と音も無く跪く彼女に私は慌ててしまう。




「マスター?」



「貴女にこの身を捧げます。貴女の騎士として、生涯、貴女と共にあることを誓います。」



まるでお伽噺の騎士のようだ。

そう思った。


お伽噺の騎士は素敵な男の人だったが、彼女は美しい女の人だ。


まさか、彼女がこんなことをするなんて。




「マスター!お願いですから頭を上げてください。」



顔を挙げた彼女は…悪戯な笑みを浮かべていた。




「驚いた?」



「ええ…とても。」



いつもの様子に肩の力が抜けた。




「でも本当に決めたことだから、踊り子ぴょんが拒否したって勝手に付いていくから!殿下には了承済みだし~。」




いつの間に彼女はそんなことをしていたのだろうか。




「どうして…?」



「だって、踊り子ぴょん、一人にしたら死んじゃいそうだもん。」




あっけらかんと言われて戸惑った。


死にそう…?私が…?


少なくとも、以前より強くなった。確かにマスターよりは弱いかも知れないが…戸惑ってマスターを見詰めると、マスターが慌てた様子で両手を振った。



「踊り子ぴょんが弱いって話じゃないよ?精神的にさ、踊り子ぴょんって不安定なところあるじゃん?だから誰かが側にいないとって思って。踊り子ぴょんが甘えられる人も少ないから私が適任かな~なんて思って。」



馬鹿な私なりに考えたんだよ~そう言う彼女に私は小さく礼を言った。

確かに私が頼れる人は少ない。精神的な面でもマスターが側にいてくれるのは有り難かった。


いつも通り、何だかんだ人のことを良く見ているなと思う。


しかし彼女は蒼蘭のマスターだ。戦が終わればギルドに戻らねばならない。戦争のため、Sランク冒険者が軒並み外に出ている。依頼もかなり溜まっているだろう。


私はもう、金色の踊り子としてギルドに行くことは難しいかも知れない。


この戦で勝ったら、公爵としてアドラー領を治めなければならない。…かつて私の家族を殺し、私を殺そうとした領民達だ。背後にグロイスター公がいたとはいえかなり複雑な気持ちになるものの、領主にるかもしれないのだからやらない訳にはいかない。


そして万が一、この戦争に負ければ…私は処刑される。

第2王子も然りだ。


国を裏切ったのだ。処刑されて当然だと思われるだろう。


色々なことが頭に浮かんでは消えていく。


彼女に対する返事も出来ないまま、第二王子からの合図が届く。


遠くから上がったその火花を見て、私は前に一歩踏み出した。



「行きます。」



振り返り、帝国から借りてきた兵達に出陣の合図をした。


馬に跨り、駆ける。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

金髪女騎士の♥♥♥な舞台裏

AIに♥♥♥な質問
ファンタジー
高貴な金髪女騎士、身体強化魔法、ふたなり化。何も起きないはずがなく…。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

【完結】愛する夫の務めとは

Ringo
恋愛
アンダーソン侯爵家のひとり娘レイチェルと結婚し婿入りした第二王子セドリック。 政略結婚ながら確かな愛情を育んだふたりは仲睦まじく過ごし、跡継ぎも生まれて順風満帆。 しかし突然王家から呼び出しを受けたセドリックは“伝統”の遂行を命じられ、断れば妻子の命はないと脅され受け入れることに。 その後…… 城に滞在するセドリックは妻ではない女性を何度も抱いて子種を注いでいた。 ※完結予約済み ※全6話+おまけ2話 ※ご都合主義の創作ファンタジー ※ヒーローがヒロイン以外と致す描写がございます ※ヒーローは変態です ※セカンドヒーロー、途中まで空気です

隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響
恋愛
平和だったカヴァニス王国が、隣国イザイアの突然の侵攻により一夜にして滅亡した。 カヴァニスの王女アリーチェは、逃げ遅れたところを何者かに助けられるが、意識を失ってしまう。 目覚めたアリーチェの前に現れたのは、祖国を滅ぼしたイザイアの『隻眼の騎士王』ルドヴィクだった。 憎しみと侮蔑を感情のままにルドヴィクを罵倒するが、ルドヴィクは何も言わずにアリーチェに治療を施し、傷が癒えた後も城に留まらせる。 ルドヴィクに対して憎しみを募らせるアリーチェだが、時折彼の見せる悲しげな表情に別の感情が芽生え始めるのに気がついたアリーチェの心は揺れるが………。 ※内容の一部に残酷描写が含まれます。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

処理中です...