元最強騎士とスライムのよろず屋経営

白波ハクア

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プロローグ

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「──ということで、騎士辞めます」
「待って?」

 中央大陸に位置する国家、ドランヴェイル王国。
 そこに悠然とそびえ立つ、煌びやかな王城のとある一室で、密かに事件は起きていた。

 腰に優しい造りをした椅子に腰掛けるのは、長い髭を生やした初老の男性、国王ウッドマン・デル・ドランヴェイルその人だ。

 対して国王の前に立つのは、漆黒の鎧に身を包んだ騎士だった。
 一切肌を出さない全身鎧フルプレート、背中には騎士の身長と同じかそれ以上の大剣が背負われている。
 国を守る騎士にしては異様なその姿に、仲間内だけではなく、外敵、魔族や魔物達からは『暗黒騎士』という異名を付けられている。
 一人の時か、信頼出来る仲間の前以外では、決して兜を脱がないため、素性は明らかになっていない。


 そんな一人の騎士によって放たれた言葉に、ウッドマンは頭を抱えた。
 だが、国王の内心を理解していない騎士は、呑気に口を開く。

「1、2、3、4、5、ろ──」
「数えなくていい!」
「……待てって言ったではないですか」
「少し考えさせてくれって意味だ!」
「わかりました」

 口に出して数字を数えると怒られる。
 それを学んだ騎士は、心の中でゆっくりと30秒数え、再び口を開いた。

「……で、考えは纏まりました?」
「…………うん、わからん」
「私の時間返してください」
「すま──って、お前が悪いだろ!」

 一国を支える頭脳を持つ国王が脳をフル回転させても、やはり良い答えは浮かばない。
 ならば、もう直接聞いてしまおうと、目の前の騎士に真意を問いかけた。

「はぁ……理由を、聞いてもいいか?」
「疲れました。それだけです」

 ウッドマンは、適当すぎる答えに座りながらコケた。
 騎士は説明が得意な方ではない。だからって、これはあまりにも情報不足すぎる。

「……もうちょっと詳しく」
「これ以上殺しても何も変わりません。なので、この仕事に意味はないと悟りました」
「報酬があるだろう」
「一生分遊んで暮らせる以上の貯金はあります」
「…………はぁ……そう、か……」

 その者は普通の騎士ではなかった。
 元は冒険者だ。異常な強さで活躍していたところを、噂を聞きつけたウッドマンが目を付け、騎士にならないかと勧誘したのが始まりだ。

 契約の条件は、金。

 国王に忠誠を誓っていることは一切なく、物欲だけの取引だった。
 報酬は破格の金額で、騎士は何年も国王に仕えてきた。

 だが、最近になって虚無感が騎士を支配するようになった。

「……わかった。元より、お前とはそういう契約だったのだ。いつかはこうなると予想はしていた」

 国王は重々しく口を開き、再び大きな溜息を吐いた。

「これから、お前はどうするのだ?」
「そうですね…………うん。人助け、ですかね」
「ほう? 人助けとな? どうしてそれを?」
「私はずっと殺してきました。何度も返り血を浴びました。ですが、こうして私が魔族を百体殺しても、千体殺しても、困っている人は世の中に沢山居る。だったら次は、戦いのこと以外で困っている人を助けたい。そう思いました」
「ふむ……よろず屋のようなものか?」
「ああ、はい。そんな感じです」

 人助け。と言っても、それには種類がある。
 失くし物を探して欲しい。木に引っかかった風船を取って欲しい。荷物を代わりに運んで欲しい。
 世の中には困っている人は沢山いる。それを全て助けたいと思うならば、確かに国王の言ったような『よろず屋』が適しているだろう。
 そう思った騎士は、国王の言葉に肯定した。

「ならば、冒険者ギルドの協力があった方がいいだろう」
「協力、ですか?」
「ああ、よろず屋を立ち上げた。と言っても、宣伝がなければ人は来ないだろう? お前の性格上、自分から宣伝するとは思えぬ」
「うぐっ……」
「生活する以上、金は必要になる。お前は報酬で貯めた貯金があるのだろうが、それはいつか尽きる。そこでお前のよろず屋が繁盛していなければ、お前はどうするつもりだったのだ?」
「………………」
「ほら、考えていなかったな?」

 ぐうの音も出ないとは、まさにこのことだった。

 国王の言う通り、考えていなかった。
 適当に人助けをしていれば、その内訪れる人は居るだろうと安易に考えていた。

 だが、世間はそんなに甘くはないと、国王は騎士の考えを否定する。

「魔族との戦争が続く、このご時世だ。信頼出来ないところには、自分から行こうとは思わないだろう」
「……確かに、その通りです」
「だから、冒険者と協力する。悪くない手であろう?」
「ですが私の存在は、なるべく極秘とされているはずです。つまり、無名です。そんな者の協力申請など、ギルドが受け入れてくれるでしょうか?」

 冒険者を騎士に任命するというのは、例外中の例外だった。
 しかも、この見た目だ。
 そのため、暗黒騎士の存在は隠され、その本人も目立つのが好きではないため、それを受け入れていた。
 騎士の目的は報酬金のみだったので、別に不満はなかった。

 だが、まさかこんなところで足を引っ張ってくるとは想像していなかったため、どうしようと内心焦っていた。

「それくらいは儂が言っておこう。儂の信頼する者がよろず屋を始めた。何か困ったとこがあれば、そちらを頼るといい。……とまぁ、これくらいで十分だろう」
「それは、宣伝には十分だと思いますが……いいのですか?」
「構わない。その程度のことは変わらない。……それに、お前には本当に苦労をかけたと思っているからな」
「ありがとうございます」
「いや、礼を言うのはこちらの方だ。今までありがとう」

 国王ウッドマンは立ち上がる。
 そして騎士の前まで歩き、真剣な表情へと変わる。

「本日をもって、騎士シエラを解雇する。大義であった」
「ハッ!」

 暗黒騎士、シエラは兜を脱ぐ。
 ふわりと白い髪が舞い、整った顔立ちが現れる。

 暗黒騎士と恐れられていた漆黒の殺戮者。

 その正体は──可憐な女性だったのだ。

「……忘れていた。お前、女性だったのだな」
「陛下、酷いです」

 不満の表情を隠さず、シエラはそう言った。
 分厚いヘルムのせいで声が篭ってしまうのは仕方ないことだが、それでも性別くらいは覚えて欲しかった。

 シエラの同僚は、ちゃんと彼女が『女』だということを理解している。
 なのに、その上司が覚えていないとは何事か。

 そんな意思を込めた視線を、国王に向ける。

「……すまん」

 こうして暗黒騎士シエラは、騎士という役目を自ら捨て、自由に生きることを選んだ。
 王国の為に沢山殺した自分は、その手を困っている人の為に差し伸べようと、王城を後にした。


 それから数年の時が経った。
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