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第23話 エリスの正体
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「あっはっはっ! カガミの馬鹿みたいな顔っ、やばい、思い出すだけで笑う……ぷ、ガハハ──ガ、ゲホッゲホッ!」
王様、ガイおじさんは豪快に笑う。笑い過ぎて咳き込んでいた。
その様子を見て側近の人達は呆れたように首を振った。エリスも同じような反応をしている。
──謁見はすぐに終わった。
いや、果たして本当に謁見はすぐに終わったのだろうか?
記憶がない。その間の記憶が、綺麗さっぱりなくなっていた。それだけ私は驚愕していた。
勿論、話の内容も入ってこなかった。どんなやり取りをしていたのかはわからなかったけど、確か最後は報酬の話になった気がする。それで詰まる話もあるだろうとのことで、私とエリス、王様達は別の部屋に移動した。
そして、案内してくれた騎士が立ち去った瞬間、ガイおじさんは肩を震わせて大爆笑をした。
それから数分経っても、おじさんはずっと笑い続けている。
「ガイお──王様、そろそろ笑うのはやめてくれませんか?」
「あ? 嫌だ」
──この野郎。
ここで手を出さなかった私のことを褒めてほしかった。
どんなにムカついても、この人はこの国の王様なんだ。暴力沙汰にしてしまっては、どんな処罰を受けるかわからない。
だから内心罵倒するだけで終わらそうと我慢した。
「陛下、いい加減にしてください」
「──アダッ!?」
と思ったら、エリスがガイおじさんに近寄って脳天に拳を振り下ろした。
おじさんは前のめりになるけど、コケる前になんとか踏みとどまった。その間にエリスは元の位置、私の隣に戻る。
最重要人物に拳骨したとは思えないほどの澄まし顔だ。あんなに『騎士』と言う立ち位置にこだわっていたエリスの言動とは思えない出来事に、私は彼女を凝視してしまう。
「おいエリス!? 今、俺のことを殴ったか!?」
「殴っていません。気のせいです」
「嘘つけ! おい、お前らも見たよなぁ!?」
『……………………』
「なんで誰も反応しねぇんだ!」
ガイおじさんはソファに座りながら地団駄を踏んだ。とても憤慨しているように見えるけど、残念ながらこの場に味方はいないようだった。
ざまぁ、と誰かが言った。私は何も聞いていないことにした。
「ったく、なぁカガミ」
「っ……な、なんで、しょうか……?」
「ここには俺の側近しかいない。無理して敬語を使わなくていいぞ。というかお前の敬語気持ち悪りぃな」
折角丁寧に話してやろうと思ったのに、その言葉は酷くないか?
私の中の感情が急激に冷めていく感覚がする。
「くそおやじが……」
思わず本音が出てしまった。
ガイおじさんは立ち上がり、私を指差す。
「おい!? 流石にそれは傷付くぞ!」
「──ちっ」
「舌打ちやめて!?」
なんだよ。こんな凄い国の王様だって言うから、きっとカッコよくて尊敬できるような人だと思っていたのに……これが現実か。
「……なぁ、カガミ? お前今、何を考えている」
「儚い夢だったなぁ、と……」
「……泣いてもいいか?」
「ダメ。うざい」
「うん、泣くわ」
ハンカチを取り出して泣いたふりをする。
それがめちゃくちゃウザくて、もう帰りたくなってきた。
後ろで待機している側近の人達も、そんなガイおじさんに冷ややかな視線を向けている。
「──ちっ」
「おいカガミぃ! 二回目は酷くないか!」
「え、私じゃない……」
一回目は確かに私が舌打ちをした。でも、さっきのは私じゃなくて、側近の誰かがやったんだろう。
私の困った表情を見て本当にやっていないとわかったガイおじさんは、拳を強く握って側近達を睨みつける。
「誰だコラァ! 今すぐ名乗れお前ら。減給してやる!」
ガイおじさんは立ち上がって怒鳴り散らした。でも、本気で怒っている様子はない。
……なんか、思っていたのと違う。
もっと緊張して、居るだけで寿命が縮まる空間だと思っていた。それなのに、ここはとても居心地がいい。それは王様と側近達がこんなに親しく話しているからだろう。
「ねぇ、エリス」
「ん、どうした?」
「エリスは、これを知っていたの?」
「……カガミと陛下が知り合いだというのは初めて知ったな。だが、陛下はいつもこんな感じだぞ。……外ではちゃんと威厳のあるお方なのだがな。信頼する部下の前では、ただのうるさい親バカだ」
ガイおじさんが何か文句を言いたげにこちらを見ている。エリスは紅茶を飲んで完全無視を決め込む。
「……ガイおじさんは側近じゃない人にも、こんな感じなんだね」
「……あ? どういう……おいエリス。まさか言っていなかったのか?」
と、ガイおじさん。
言っていなかった? どういうことだろう。そう思ってエリスを見ると、少し困ったような顔をしていた。
「エリスは騎士でしょ?」
「ああ、そう、なんだが……」
途端に歯切れが悪くなるエリス。
視線も左右に泳いでいて、私と目が合わない。
「俺の側近は七星騎士って呼ばれているんだ」
「──陛下っ!」
エリスは慌てたように声を荒げる。
七星ということは、数字の通り側近の数は七人なのだろう。
でも、ガイおじさんの後ろに控えているのは、六人だ。一人足りない。
「まさか……」
「……はぁ、これは隠しておきたかったんだがな」
エリスは諦めたようにそう言い、私に向き直った。
真剣な表情。伊達にエリスと何日も一緒にいるだけあって、私はエリスの考えていることがわかった。
これは──彼女が決意を固めた時の顔だ。
「改めて名乗ろう。私はエリス・ヴァーミリオン。王国騎士隊、隊長及び七星騎士の一人だ」
思考が停止するというのは、こういう時のことを言うんだろう。
私は、呆けた顔をしているのだと思う。王都の重要人物達にアホ面を晒しているとわかっていても、それを直す気力はない。それだけ私は混乱していた。
考えることを放棄した私は、それでも反応だけはしようと絞り出した言葉は────
「ワーオ」
幾度となく続いたストレスのせいで疲れているんだろうな。と、私は他人事のように思ったのだった。
王様、ガイおじさんは豪快に笑う。笑い過ぎて咳き込んでいた。
その様子を見て側近の人達は呆れたように首を振った。エリスも同じような反応をしている。
──謁見はすぐに終わった。
いや、果たして本当に謁見はすぐに終わったのだろうか?
記憶がない。その間の記憶が、綺麗さっぱりなくなっていた。それだけ私は驚愕していた。
勿論、話の内容も入ってこなかった。どんなやり取りをしていたのかはわからなかったけど、確か最後は報酬の話になった気がする。それで詰まる話もあるだろうとのことで、私とエリス、王様達は別の部屋に移動した。
そして、案内してくれた騎士が立ち去った瞬間、ガイおじさんは肩を震わせて大爆笑をした。
それから数分経っても、おじさんはずっと笑い続けている。
「ガイお──王様、そろそろ笑うのはやめてくれませんか?」
「あ? 嫌だ」
──この野郎。
ここで手を出さなかった私のことを褒めてほしかった。
どんなにムカついても、この人はこの国の王様なんだ。暴力沙汰にしてしまっては、どんな処罰を受けるかわからない。
だから内心罵倒するだけで終わらそうと我慢した。
「陛下、いい加減にしてください」
「──アダッ!?」
と思ったら、エリスがガイおじさんに近寄って脳天に拳を振り下ろした。
おじさんは前のめりになるけど、コケる前になんとか踏みとどまった。その間にエリスは元の位置、私の隣に戻る。
最重要人物に拳骨したとは思えないほどの澄まし顔だ。あんなに『騎士』と言う立ち位置にこだわっていたエリスの言動とは思えない出来事に、私は彼女を凝視してしまう。
「おいエリス!? 今、俺のことを殴ったか!?」
「殴っていません。気のせいです」
「嘘つけ! おい、お前らも見たよなぁ!?」
『……………………』
「なんで誰も反応しねぇんだ!」
ガイおじさんはソファに座りながら地団駄を踏んだ。とても憤慨しているように見えるけど、残念ながらこの場に味方はいないようだった。
ざまぁ、と誰かが言った。私は何も聞いていないことにした。
「ったく、なぁカガミ」
「っ……な、なんで、しょうか……?」
「ここには俺の側近しかいない。無理して敬語を使わなくていいぞ。というかお前の敬語気持ち悪りぃな」
折角丁寧に話してやろうと思ったのに、その言葉は酷くないか?
私の中の感情が急激に冷めていく感覚がする。
「くそおやじが……」
思わず本音が出てしまった。
ガイおじさんは立ち上がり、私を指差す。
「おい!? 流石にそれは傷付くぞ!」
「──ちっ」
「舌打ちやめて!?」
なんだよ。こんな凄い国の王様だって言うから、きっとカッコよくて尊敬できるような人だと思っていたのに……これが現実か。
「……なぁ、カガミ? お前今、何を考えている」
「儚い夢だったなぁ、と……」
「……泣いてもいいか?」
「ダメ。うざい」
「うん、泣くわ」
ハンカチを取り出して泣いたふりをする。
それがめちゃくちゃウザくて、もう帰りたくなってきた。
後ろで待機している側近の人達も、そんなガイおじさんに冷ややかな視線を向けている。
「──ちっ」
「おいカガミぃ! 二回目は酷くないか!」
「え、私じゃない……」
一回目は確かに私が舌打ちをした。でも、さっきのは私じゃなくて、側近の誰かがやったんだろう。
私の困った表情を見て本当にやっていないとわかったガイおじさんは、拳を強く握って側近達を睨みつける。
「誰だコラァ! 今すぐ名乗れお前ら。減給してやる!」
ガイおじさんは立ち上がって怒鳴り散らした。でも、本気で怒っている様子はない。
……なんか、思っていたのと違う。
もっと緊張して、居るだけで寿命が縮まる空間だと思っていた。それなのに、ここはとても居心地がいい。それは王様と側近達がこんなに親しく話しているからだろう。
「ねぇ、エリス」
「ん、どうした?」
「エリスは、これを知っていたの?」
「……カガミと陛下が知り合いだというのは初めて知ったな。だが、陛下はいつもこんな感じだぞ。……外ではちゃんと威厳のあるお方なのだがな。信頼する部下の前では、ただのうるさい親バカだ」
ガイおじさんが何か文句を言いたげにこちらを見ている。エリスは紅茶を飲んで完全無視を決め込む。
「……ガイおじさんは側近じゃない人にも、こんな感じなんだね」
「……あ? どういう……おいエリス。まさか言っていなかったのか?」
と、ガイおじさん。
言っていなかった? どういうことだろう。そう思ってエリスを見ると、少し困ったような顔をしていた。
「エリスは騎士でしょ?」
「ああ、そう、なんだが……」
途端に歯切れが悪くなるエリス。
視線も左右に泳いでいて、私と目が合わない。
「俺の側近は七星騎士って呼ばれているんだ」
「──陛下っ!」
エリスは慌てたように声を荒げる。
七星ということは、数字の通り側近の数は七人なのだろう。
でも、ガイおじさんの後ろに控えているのは、六人だ。一人足りない。
「まさか……」
「……はぁ、これは隠しておきたかったんだがな」
エリスは諦めたようにそう言い、私に向き直った。
真剣な表情。伊達にエリスと何日も一緒にいるだけあって、私はエリスの考えていることがわかった。
これは──彼女が決意を固めた時の顔だ。
「改めて名乗ろう。私はエリス・ヴァーミリオン。王国騎士隊、隊長及び七星騎士の一人だ」
思考が停止するというのは、こういう時のことを言うんだろう。
私は、呆けた顔をしているのだと思う。王都の重要人物達にアホ面を晒しているとわかっていても、それを直す気力はない。それだけ私は混乱していた。
考えることを放棄した私は、それでも反応だけはしようと絞り出した言葉は────
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