転生少女は欲深い

白波ハクア

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第34話 決意を新たに

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 あの日から私への虐めは続いた。
 何かがあるごとに私にちょっかいを出し、わざと聞こえるように悪口を言う。
 実技訓練では大人数で私を囲い、魔法の的にされた。

 誰かをそういう虐めの的にするのは慣れているのか、先生にはバレないようにしていた。
 先生が何かを指導している時は、ただ私を変な目で見つめ、ヒソヒソと陰口を言う。
 先生が目を離したか、別の場所に行った時を狙って、非情な暴力や暴言を吐いてくる。

 クラスメイトは傍観していた。虐めの首謀者達は貴族の中でも上の立場なのか、それとも注意して自分が的になるのが怖いのか、私が虐めを受けているのをただ遠くから見つめるだけだった。

 それでもレティシアだけは注意してくれようとしていた。
 でも、彼女に迷惑をかける訳にはいかないので、私が止めていた。

 ミコ先生は何かを察している様子だった。
 虐めに気が付いているような言葉を、意味有り気に言っていた。クラスメイト達はそれに気が付いていない。
 でもそれだけで、虐めを注意しようとはしない。

 多分、自分のことは自分でやれ。ってことなんだと思う。

「──はい、じゃあ今日の講義は終わり。みんなまた明日ねー」

 今日の講義が終わった。

 私は素早く荷物を纏めて、教室を出る。

「あのカガミ……?」

 声を掛けられた。
 振り向くと、心配そうに私を見つめるレティシアがいた。

「今日、私の友人と学園内の施設に遊びに行くのですが……カガミもどうですか?」

 明らかに私を気遣ったような言葉。

「いや、私はいいよ。行っても迷惑だろうし」
「迷惑だなんて、そんな……」
「とにかく、私はもう寮に戻るよ。じゃあ、また明日」
「……ええ、また、明日」

 私は笑顔で挨拶し、その場を後にする。

 途中、いつもの人達が私を探しているのを見かけたけど、気配を殺して寮までたどり着いた。
 ……こうして隠れるために、強くなったんじゃないのに……あのことがあってから私は、精神的にダメになってしまっていた。

 お父さんはここに居ない。居る訳が無い。
 それなのに、どこかで私を見ているんじゃないか。こうして怯えている私を見て、ニヤニヤと粘つくような笑みを浮かべているのではないか。

 そんな気がするたびに、私は恐怖でおかしくなりそうになる。

「はぁ……」

 ベッドに横になる。

 最近、溜め息ばかりをついているな……。

 溜め息を一つ吐くと、幸せが一つ逃げていく。
 そんな言葉を誰かが言った。

 でも私は思う。
 幸せが無いから、私は溜め息を吐いているんだ。
 失うものなんて、もう無い。

「って、どうでも良いか」

 私が不幸か幸せかなんて、どうでも良い。

 今は、この現状をどうすれば良いかを考えるだけだ。
 ……と言っても、良い方法なんてそう簡単に思い浮かばない。
 一度、しっかりと嫌だよ伝えようかと思った。でも、その時になって父親の顔を思い浮かべてしまい、何も出来ないまま情けなく逃げることを繰り返していた。

 気絶することはなくなったけど、心臓は今すぐにでも爆発しそうなくらい、ドクドクと鼓動が早くなる。
 嫌な汗もびっしょりで、全力で走った後のようになっていた。

「……そうだ。エリスからの手紙が来ているんだった」

 寮に入る時、私宛てにと寮母さんが渡してくれた手紙だ。
 裏には『エリス・ヴァーミリオン』と書かれていた。

 封を切り、中の手紙を取り出す。


『学校が始まって一週間。もう寮の生活には慣れただろうか?

 私はお前が心配で、夜も十分に眠れない。カガミは優しい子だ。誰よりも辛い思いをしているのに、それでも誰かに迷惑をかけないようにと気を使う。そんな子だ。その性格のせいで、今も何かに巻き込まれているのではないかと心配している。

 私はお前を守ると誓った。何か困ったことがあれば、遠慮なく言って欲しい。陛下の護衛をすぐに放り投げ、学園に駆けつけてやる。……と言っても、お前は遠慮するのだろうな。

 だから一つだけ忠告しておく。
 気にするな。何かに邪魔されても、誰かに何かを言われても、カガミは自分のしたいことをやれ。お前はまだ子供だ。他人のことを考えるのは、後でで良い。大丈夫だ。何かをやらかしても、私が陛下を脅し──説得して何とかしてやる。だからお前は、好きにやれ。壁にぶち当たったら、深く考えず、無理をせず、自分に出来ることをやれ。

 ……少し、うるさく言ってしまったが、お前はこれくらい言わないと変に自分を塞ぎ込んでしまうのは、理解している。

 私は何があってもお前の味方だ。それだけは知っておいてくれ。

 長くなってしまったが、カガミが有意義な学園生活を送れるよう、祈っているよ』


「──ふふっ、エリスらしいや」

 私はいつの間にか、笑顔になっていた。
 人を安心させようと思って作っている笑顔ではない。
 心から笑って、楽しんでいた。

「あぁ……エリスに会いたいなぁ」

 こうして手紙でやり取りをしていると、余計にエリスと会いたくなってしまう。

「エリスは、すごいなぁ……」

 偶然なのかもしれないけど、私が困っているのをちゃんと予想していた。

 ──気にするな。カガミは自分のしたいことをやれ。

「私の、したいことか……」

 虐めてくるクラスメイト。
 父親の幻影。

 怖い。
 思い出しただけで、体の震えが止まらない。
 でも、このままビクビクと震えて足踏みをしているだけでは、私がここに来た理由がない。

「わかったよエリス。……まだ時間は掛かるけど、頑張ってみる」



          ◆◇◆



 後日、私はいつも通り教室に来ていた。
 まだ朝早いせいで、クラスメイトは疎らだ。

「おはようございます、カガミ」
「ああ、おはよう。シア」

 レティシアが教室に入って来た。
 いつもは眠そうな顔をしているのに、今日はなんかキリッとしている。
 まるで、何かを決意したような顔だ。

「……カガミ、私、昨日の夜に考えました」
「うん? 何を?」
「一つ、私のわがままを聞いていただけないでしょうか?」

 レティシアは真っ直ぐに私を見つめる。

「私、レティシア・エル・オードヴェルンは、カガミに──決闘を申し込みます」

「…………は?」
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