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第38話 崩壊の時
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「ぐぅ……!」
振り下ろされた拳が、私の頬を打った。
「がっ、ぐ……けほけほ、ごほっ!」
何度も、何度も顔を殴られ、腹を蹴られる。
大柄の生徒によって、私の両手は塞がれている。
何人もの生徒が周りを囲み、狭い廊下では逃げることも叶わない。
「……どうして、こんなことをするの……」
私は、私を何度も殴る男子生徒に尋ねる。
どうしてこうなったのか。
決闘から三日が経ち、私は今も眠っているレティシアのお見舞いに向かう途中だった。
彼女は私の斬撃を受け、深い眠りに入っていた。死ぬようなことはなかったが、それでも初めて戦う彼女にとっては、相当なダメージだったはずだ。そのため、余計な深手となって彼女を襲っていると、保険医の先生は教えてくれた。
それから私は、毎日欠かさずレティシアのお見舞いに行っている。
その途中の道で沢山の生徒に阻まれ、ちょっと用事があると言われて付いて来れば、このざまだ。
「どうしてだと? 自覚もねぇのか、この人殺し!」
嫌な予感はあった。
でも、いつも虐めてくるクラスメイトではなかったので、本当に何か用事があるのかと思ったら……なんだ、何も変わらないじゃないか。今までと何も変わらない。
レティシアとの決闘は、何の意味もなかった。
むしろ、逆効果だったらしい。私は、敵を無駄に増やしただけだった。
「殺して、ない……シアはまだ生きてる」
「うるせぇ! お前が人を何人も殺しているってことは知っているんだ! そんな奴を王女様に近づけさせるわけねぇだろ!」
「そんな……! 私は誰も殺してなんか──ぶっ!」
否定の言葉は、振り下ろされた拳によって遮られた。
私は人を殺したことなんて一度もない。
野盗や盗賊に出会ったことはあっても、直接手を下したわけではない。あの状況から脱出して生き延びている可能性だってある。
間接的に人を殺したと言われても、あれは自己防衛の範囲内だ。犯罪者扱いされる筋合いはない。
「そこを通して。私はシアのところに行くんだ!」
「行かせないって言ってんだろ!」
怪我をさせないように振りほどいても、また別の人に両腕を掴まれる。
そして、抵抗した罰に、暴力の嵐だ。
痛くはない。
なのに、なぜか痛い。
「お前、他国のスパイだろ。だからあの試合で王女様を殺そうとした。そうなんだろ!」
「違う! 私はシアのことを殺そうなんて──」
「馴れ馴れしく王女様を愛称で呼ぶんじゃねぇ! スパイが!」
「どうして!? なんで私がそんなことを言われなきゃならないの!」
私はスパイなんかじゃない。
それなのに、誰も信じてくれない。
どうしてそんな噂が出たのか。
「──っ!」
そこで私は見た。
生徒達の隙間から、見えた。
クラスメイト達が、男子生徒に捕らわれている私のことを、ニヤニヤと見ている姿を。
「お前らかぁ!」
私は我慢ならなかった。
二人の覚悟を決めた試合。お互いに本気を出した試合だった。
本気で戦うことで、レティシアは他の生徒達にも私のことを認めさせようとしてくれた。
でも、それは無駄になった。クラスメイト達が流した根も葉もない噂で、全てが無駄になった!
「許さない! シアの覚悟を馬鹿にしたお前らだけは、絶対に……!」
「──ひっ!」
私の殺気を真正面から受けたクラスメイトは、短い悲鳴を上げて私の視界から逃れようとする。
「おいやめろ!」
しかし、それは悪手だった。
私は男子全員に押さえつけられ、完全に身動きが取れなくなる。
ここで『魔装』を使えば、こんな拘束からは簡単に逃れることができるだろう。でも、力加減を間違えれば殺してしまう。そうすれば私は、本当の意味で犯罪者だ。
私は悔しかった。
こんなに頑張ったのに、誰にも認めてもらえなかった。
私の友達がここまでしてくれたのに、私は応えることができなかった。
どうすれば私は認めてもらえるのだろうか。
その答えは、もうわかっていた。
きっと私は、認めてもらえない。
どれだけ頑張っても、私は力を認めてもらえないんだ。
だってクラスメイトが認めていないのは、特生クラスに入る資格の実力ではなく、私自身なのだから。
ただ彼女らは嫉妬していただけ。
騎士隊長のエリスと知り合いで、王女様と友達になって、平民なのに特生クラスに居る私が気に入らなかった。
それだけの理由で虐めが始まった。
だから私がどんなに努力しても、レティシアが身を削ってくれても、何も変わらない。
「おい、暴れないようにその剣を奪え」
「それが王女様を斬った剣だ!」
「やめて! それはエリスから貰った大事な……!」
奪われた純白の剣と、漆黒の剣。
私が必死に取り返そうと手を伸ばしても、組み伏せられた状態では無力。
「これどうするよ」
「そんな気味の悪いもん捨てちまえ!」
「やめてったら!」
「暴れるな犯罪者!」
「きゃぁ!」
「おい、早く捨てろ!」
二対の剣は、廊下の窓から投げられた。
「あぁ……!」
私は魔装を発動し、強引に束縛から逃れる。
「あ、ああ……」
窓の外には池があった。
私の剣はそこに投げ捨てられたのだ。
池の底へと沈んでいく二本の剣を、私は呆然と見ていることしかできなかった。
──アハハハ。
──いいざまだ。
──アハハハハハ。
私の中で、何かが壊れた。
今までどうにか保っていた理性が、音を立てて崩れ落ちた。
これで理解した。
痛いほどわかった。
「う、ぁああああああ!!」
私が求めた私の居場所は──ここには無かった。
振り下ろされた拳が、私の頬を打った。
「がっ、ぐ……けほけほ、ごほっ!」
何度も、何度も顔を殴られ、腹を蹴られる。
大柄の生徒によって、私の両手は塞がれている。
何人もの生徒が周りを囲み、狭い廊下では逃げることも叶わない。
「……どうして、こんなことをするの……」
私は、私を何度も殴る男子生徒に尋ねる。
どうしてこうなったのか。
決闘から三日が経ち、私は今も眠っているレティシアのお見舞いに向かう途中だった。
彼女は私の斬撃を受け、深い眠りに入っていた。死ぬようなことはなかったが、それでも初めて戦う彼女にとっては、相当なダメージだったはずだ。そのため、余計な深手となって彼女を襲っていると、保険医の先生は教えてくれた。
それから私は、毎日欠かさずレティシアのお見舞いに行っている。
その途中の道で沢山の生徒に阻まれ、ちょっと用事があると言われて付いて来れば、このざまだ。
「どうしてだと? 自覚もねぇのか、この人殺し!」
嫌な予感はあった。
でも、いつも虐めてくるクラスメイトではなかったので、本当に何か用事があるのかと思ったら……なんだ、何も変わらないじゃないか。今までと何も変わらない。
レティシアとの決闘は、何の意味もなかった。
むしろ、逆効果だったらしい。私は、敵を無駄に増やしただけだった。
「殺して、ない……シアはまだ生きてる」
「うるせぇ! お前が人を何人も殺しているってことは知っているんだ! そんな奴を王女様に近づけさせるわけねぇだろ!」
「そんな……! 私は誰も殺してなんか──ぶっ!」
否定の言葉は、振り下ろされた拳によって遮られた。
私は人を殺したことなんて一度もない。
野盗や盗賊に出会ったことはあっても、直接手を下したわけではない。あの状況から脱出して生き延びている可能性だってある。
間接的に人を殺したと言われても、あれは自己防衛の範囲内だ。犯罪者扱いされる筋合いはない。
「そこを通して。私はシアのところに行くんだ!」
「行かせないって言ってんだろ!」
怪我をさせないように振りほどいても、また別の人に両腕を掴まれる。
そして、抵抗した罰に、暴力の嵐だ。
痛くはない。
なのに、なぜか痛い。
「お前、他国のスパイだろ。だからあの試合で王女様を殺そうとした。そうなんだろ!」
「違う! 私はシアのことを殺そうなんて──」
「馴れ馴れしく王女様を愛称で呼ぶんじゃねぇ! スパイが!」
「どうして!? なんで私がそんなことを言われなきゃならないの!」
私はスパイなんかじゃない。
それなのに、誰も信じてくれない。
どうしてそんな噂が出たのか。
「──っ!」
そこで私は見た。
生徒達の隙間から、見えた。
クラスメイト達が、男子生徒に捕らわれている私のことを、ニヤニヤと見ている姿を。
「お前らかぁ!」
私は我慢ならなかった。
二人の覚悟を決めた試合。お互いに本気を出した試合だった。
本気で戦うことで、レティシアは他の生徒達にも私のことを認めさせようとしてくれた。
でも、それは無駄になった。クラスメイト達が流した根も葉もない噂で、全てが無駄になった!
「許さない! シアの覚悟を馬鹿にしたお前らだけは、絶対に……!」
「──ひっ!」
私の殺気を真正面から受けたクラスメイトは、短い悲鳴を上げて私の視界から逃れようとする。
「おいやめろ!」
しかし、それは悪手だった。
私は男子全員に押さえつけられ、完全に身動きが取れなくなる。
ここで『魔装』を使えば、こんな拘束からは簡単に逃れることができるだろう。でも、力加減を間違えれば殺してしまう。そうすれば私は、本当の意味で犯罪者だ。
私は悔しかった。
こんなに頑張ったのに、誰にも認めてもらえなかった。
私の友達がここまでしてくれたのに、私は応えることができなかった。
どうすれば私は認めてもらえるのだろうか。
その答えは、もうわかっていた。
きっと私は、認めてもらえない。
どれだけ頑張っても、私は力を認めてもらえないんだ。
だってクラスメイトが認めていないのは、特生クラスに入る資格の実力ではなく、私自身なのだから。
ただ彼女らは嫉妬していただけ。
騎士隊長のエリスと知り合いで、王女様と友達になって、平民なのに特生クラスに居る私が気に入らなかった。
それだけの理由で虐めが始まった。
だから私がどんなに努力しても、レティシアが身を削ってくれても、何も変わらない。
「おい、暴れないようにその剣を奪え」
「それが王女様を斬った剣だ!」
「やめて! それはエリスから貰った大事な……!」
奪われた純白の剣と、漆黒の剣。
私が必死に取り返そうと手を伸ばしても、組み伏せられた状態では無力。
「これどうするよ」
「そんな気味の悪いもん捨てちまえ!」
「やめてったら!」
「暴れるな犯罪者!」
「きゃぁ!」
「おい、早く捨てろ!」
二対の剣は、廊下の窓から投げられた。
「あぁ……!」
私は魔装を発動し、強引に束縛から逃れる。
「あ、ああ……」
窓の外には池があった。
私の剣はそこに投げ捨てられたのだ。
池の底へと沈んでいく二本の剣を、私は呆然と見ていることしかできなかった。
──アハハハ。
──いいざまだ。
──アハハハハハ。
私の中で、何かが壊れた。
今までどうにか保っていた理性が、音を立てて崩れ落ちた。
これで理解した。
痛いほどわかった。
「う、ぁああああああ!!」
私が求めた私の居場所は──ここには無かった。
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