転生少女は欲深い

白波ハクア

文字の大きさ
40 / 64

第38話 崩壊の時

しおりを挟む
「ぐぅ……!」

 振り下ろされた拳が、私の頬を打った。

「がっ、ぐ……けほけほ、ごほっ!」

 何度も、何度も顔を殴られ、腹を蹴られる。

 大柄の生徒によって、私の両手は塞がれている。
 何人もの生徒が周りを囲み、狭い廊下では逃げることも叶わない。

「……どうして、こんなことをするの……」

 私は、私を何度も殴る男子生徒に尋ねる。

 どうしてこうなったのか。

 決闘から三日が経ち、私は今も眠っているレティシアのお見舞いに向かう途中だった。
 彼女は私の斬撃を受け、深い眠りに入っていた。死ぬようなことはなかったが、それでも初めて戦う彼女にとっては、相当なダメージだったはずだ。そのため、余計な深手となって彼女を襲っていると、保険医の先生は教えてくれた。

 それから私は、毎日欠かさずレティシアのお見舞いに行っている。
 その途中の道で沢山の生徒に阻まれ、ちょっと用事があると言われて付いて来れば、このざまだ。

「どうしてだと? 自覚もねぇのか、この人殺し!」

 嫌な予感はあった。
 でも、いつも虐めてくるクラスメイトではなかったので、本当に何か用事があるのかと思ったら……なんだ、何も変わらないじゃないか。今までと何も変わらない。

 レティシアとの決闘は、何の意味もなかった。
 むしろ、逆効果だったらしい。私は、敵を無駄に増やしただけだった。

「殺して、ない……シアはまだ生きてる」
「うるせぇ! お前が人を何人も殺しているってことは知っているんだ! そんな奴を王女様に近づけさせるわけねぇだろ!」
「そんな……! 私は誰も殺してなんか──ぶっ!」

 否定の言葉は、振り下ろされた拳によって遮られた。

 私は人を殺したことなんて一度もない。
 野盗や盗賊に出会ったことはあっても、直接手を下したわけではない。あの状況から脱出して生き延びている可能性だってある。
 間接的に人を殺したと言われても、あれは自己防衛の範囲内だ。犯罪者扱いされる筋合いはない。

「そこを通して。私はシアのところに行くんだ!」
「行かせないって言ってんだろ!」

 怪我をさせないように振りほどいても、また別の人に両腕を掴まれる。
 そして、抵抗した罰に、暴力の嵐だ。

 痛くはない。
 なのに、なぜか痛い。

「お前、他国のスパイだろ。だからあの試合で王女様を殺そうとした。そうなんだろ!」
「違う! 私はシアのことを殺そうなんて──」
「馴れ馴れしく王女様を愛称で呼ぶんじゃねぇ! スパイが!」
「どうして!? なんで私がそんなことを言われなきゃならないの!」

 私はスパイなんかじゃない。
 それなのに、誰も信じてくれない。

 どうしてそんな噂が出たのか。

「──っ!」

 そこで私は見た。

 生徒達の隙間から、見えた。

 クラスメイト達が、男子生徒に捕らわれている私のことを、ニヤニヤと見ている姿を。

「お前らかぁ!」

 私は我慢ならなかった。

 二人の覚悟を決めた試合。お互いに本気を出した試合だった。
 本気で戦うことで、レティシアは他の生徒達にも私のことを認めさせようとしてくれた。
 でも、それは無駄になった。クラスメイト達が流した根も葉もない噂で、全てが無駄になった!

「許さない! シアの覚悟を馬鹿にしたお前らだけは、絶対に……!」
「──ひっ!」

 私の殺気を真正面から受けたクラスメイトは、短い悲鳴を上げて私の視界から逃れようとする。

「おいやめろ!」

 しかし、それは悪手だった。

 私は男子全員に押さえつけられ、完全に身動きが取れなくなる。
 ここで『魔装』を使えば、こんな拘束からは簡単に逃れることができるだろう。でも、力加減を間違えれば殺してしまう。そうすれば私は、本当の意味で犯罪者だ。

 私は悔しかった。
 こんなに頑張ったのに、誰にも認めてもらえなかった。
 私の友達がここまでしてくれたのに、私は応えることができなかった。

 どうすれば私は認めてもらえるのだろうか。

 その答えは、もうわかっていた。

 きっと私は、認めてもらえない。
 どれだけ頑張っても、私は力を認めてもらえないんだ。
 だってクラスメイトが認めていないのは、特生クラスに入る資格の実力ではなく、私自身なのだから。

 ただ彼女らは嫉妬していただけ。
 騎士隊長のエリスと知り合いで、王女様と友達になって、平民なのに特生クラスに居る私が気に入らなかった。
 それだけの理由で虐めが始まった。

 だから私がどんなに努力しても、レティシアが身を削ってくれても、何も変わらない。

「おい、暴れないようにその剣を奪え」
「それが王女様を斬った剣だ!」
「やめて! それはエリスから貰った大事な……!」

 奪われた純白の剣と、漆黒の剣。
 私が必死に取り返そうと手を伸ばしても、組み伏せられた状態では無力。

「これどうするよ」
「そんな気味の悪いもん捨てちまえ!」
「やめてったら!」
「暴れるな犯罪者!」
「きゃぁ!」
「おい、早く捨てろ!」

 二対の剣は、廊下の窓から投げられた。

「あぁ……!」

 私は魔装を発動し、強引に束縛から逃れる。

「あ、ああ……」

 窓の外には池があった。
 私の剣はそこに投げ捨てられたのだ。
 池の底へと沈んでいく二本の剣を、私は呆然と見ていることしかできなかった。


 ──アハハハ。
 ──いいざまだ。
 ──アハハハハハ。


 私の中で、何かが壊れた。
 今までどうにか保っていた理性が、音を立てて崩れ落ちた。

 これで理解した。
 痛いほどわかった。

「う、ぁああああああ!!」


 私が求めた私の居場所は──ここには無かった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

処理中です...