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第3章
お披露目です
しおりを挟む「私の男装姿、ですか」
「ああ、妾もその姿には慣れておきたいし、故郷に戻る時にはすでに男装してもらっている必要がある。それに、着慣れておくのも大切じゃろう?」
うぐぅ、どれも正論で言い訳できない……。
「わ、わかりました。……でも、流石に着替えているところを見られるのは恥ずかしいので、目を閉じていてもらえますか?」
知り合いが見ている中、男装するとか何の罰ゲームだ……って感じです。
ウンディーネには一度見られているから、もう大丈夫なのですが、それでもお二人にまじまじと見られながら着替えるのは嫌です。
「わかった。準備ができたら声を掛けてくれ。ほれ、ミリアも」
「……むぅ、本当は見たかったが、仕方ない」
二人は素直に目を瞑り、私は溜め息を一回。いそいそと着替え始めます。
人の街で買ってきたのは、タキシードと晒しです。
アカネさんのご両親に挨拶するのですし、ちょっと値は張りましたが、礼儀服専門店で最高級の物を購入してきました。
私の胸はそれなりにあるので、布で押し当てていないとすぐに女性だとバレてしまうので、ついでに晒しも購入。抜かりはありません。
『それじゃ、リーフィア……いくよ!』
「ぐ、ふっ……」
布はウンディーネに手伝ってもらいます。
これは一人ではできませんし、誰かに遠慮なくやってもらった方が確実です。
……でも、この胸を締め付けられる感覚に慣れるのは、少し厳しいかもしれません。
コルセットを着用する貴婦人の苦労が窺えます。
それがあるだけで絶対に貴族になりたくねぇと切に思います。
『リーフィア、大丈夫?』
「大丈夫、ではありませんが……そのままお願いします」
『うんっ! わかった!』
「げふぅ……!」
ウンディーネは純粋な子です。
私が「全力で」と言えば、その通りにやってくれます。
真面目に協力してくれるのは嬉しいのですが、ちょっと純粋すぎて容赦が無さす、っ────あ、今一瞬だけ意識が飛びそうになりました。
「…………なんか、大変そうだな」
「今リーフィアは、ミリアには縁の無い体験をしているのじゃよ」
「…………どうしてだろう。とても馬鹿にされた気がするぞ」
「気のせいじゃ」
「…………そうか」
私がこうして苦しんでいる間、二人は呑気にお話に興じていました。
でも、確かにミリアさんには永遠に縁の無いことですね。
……だって、抑える胸が無いのですから。
「なんか、リーフィアにも馬鹿にされた気がするぞ」
「……気のせ、がはっ……」
『リーフィア頑張って! もう少しだよ!』
「い、いや、もう十ぶ──ん゛っ!」
ちょっと容赦無さ過ぎませんかねぇ……!
◆◇◆
その後、死にそうになりながらも、どうにか着替えを終わらせた私は、最後の手直しの段階に入っていました。
ウンディーネに鏡を持ってもらいながら簡単に化粧を施し、紐で髪を大きく一つに縛って完成です。
『リーフィア、かっこいい……!』
「念のために聞きますが、おかしなところはありませんか?」
『うん! 今まで見た誰よりもかっこいいよ!』
「ありがとうございます。……でも、ディアスさんの前ではそれを言ってあげないでくださいね」
私の顔は超絶美少女というわけではなく、どちらかと言えば中性寄りです。
なので、ちょっと化粧をすれば、男性っぽく見せることも可能でした。
いつもは化粧をする必要がなく、今回になって久しぶりに化粧をしたのでちょっと不安でしたが、ウンディーネが大丈夫と言うのであれば安心して自信を持てます。……恥ずかしいですけどね。
「お二人とも、お待たせしました。目を開けてください」
「ようやくか。もう少しで寝そうになっ、────」
「思ったよりも長く掛かっていたが大丈、────」
最後まで言葉を紡ぐことなく、二人は固まってしまいました。
それはもう目と口を大きく開けて、石になってしまったかと心配するくらいにピクリとも動きません。
「…………何か、おかしいでしょうか?」
ウンディーネは褒めてくれましたが、やっぱり男装は似合わなかったかな。
そう思い、困ったように苦笑すると、二人は『ハッ!?』と我に返ったように動き出しました。
こほんっ、とわざとらしく咳払いしたのは、アカネさんです。
「…………い、いや、その……とても似合っている、ぞ」
褒めてくれている割には、全くこちらを見てくれません。
お世辞として褒めてくれるのは嬉しいのですが、ちょっと残念な気持ちになります。
「やっぱり、私が男装するのは無理が」
「──自信を持て! この妾が見惚れてしまうほどに、今のリーフィアは似合っている!」
バッ、とアカネさんは私の手を取り、強く肯定してくれました。
茶化さない真剣な眼差しから、彼女の熱意が伝わり、私は更に恥ずかしくなります。
「あ、あの、アカネさん……? えっと、お世辞はもう結構です、ので……」
「なんでじゃ? 妾は嘘を言わぬ。本気で魅力的だと思ったから、こうしてリーフィアを褒めているのじゃ。妾の婚約者に相応しい……いや、それ以上に美しい。……これは、妾も負けていられぬな」
──リーフィアに相応しい妻になるぞ! と意気込むアカネさん。
私はもう限界が訪れて、顔を上げることができなくなっていました。
早くこの地獄が終わってくれと、切に願うばかりです。
『リーフィア……照れてる。可愛い』
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