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第九章
揺れる手と胸の温度
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夜の帳が静かに街を包んでいた。
霧弥は店の明かりを落とさないまま、まだ火にかけた手羽中の鍋をじっと見つめている。
カウンターでは龍二が腰掛け、彼の背中を黙って見守っていた。
「霧弥、今日は妙に黙ってるな」
「……別に」
「嘘つけ。さっきから考え事してただろ」
霧弥は肩を小さくすくめ、立ちのぼる湯気に顔を隠した。
胸の奥で、さざ波のようなざわめきがひっそりと揺れている。
――さっき触れた手の、あのぬくもりが、まだ残ってる。
思わず自分の手を見下ろした。
あの瞬間、拒めなかった。けれど、心のどこかではまだ迷いが渦を巻いている。
「……龍二」
「ん?」
「手……繋ぐくらいなら、いいかも」
一瞬、龍二の目に光が宿る。
「……そっか」
「……ほんの少しだけだからな」
霧弥は視線をそらしたまま、ずっと見つめていた鍋へそっと手を伸ばした。
迷いをごまかすように、お玉ですくった煮汁をひと口だけ唇に運んだ。
距離はまだ遠い。
だけど、ほんの少しだけ近づいた――その事実が、胸の奥をじんわりと熱くする。
――俺って……誰かに触れられるだけで、こんなに動揺するのか。
霧弥はゆっくり息を整え、湯気の匂いを静かに吸い込んだ。
龍二がそっと立ち上がり、霧弥の横に並ぶ。
肩が触れた。霧弥は瞬間ぴくりと固まるが、今度は逃げなかった。
「……霧弥」
「……なんだよ」
「こうしてるだけで、なんか、ほっとするんだ」
その声は驚くほどやわらかく、霧弥の心の奥まで染み込むようだった。
霧弥は小さく頷く。
言葉にするのはまだ怖い。でも、今はその優しさを素直に受け止めている。
沈黙の中で、二人の間にゆっくりと温度が満ちていった。
ほんの少しだけれど、確かに心が触れ合った――そんな瞬間だった。
霧弥は店の明かりを落とさないまま、まだ火にかけた手羽中の鍋をじっと見つめている。
カウンターでは龍二が腰掛け、彼の背中を黙って見守っていた。
「霧弥、今日は妙に黙ってるな」
「……別に」
「嘘つけ。さっきから考え事してただろ」
霧弥は肩を小さくすくめ、立ちのぼる湯気に顔を隠した。
胸の奥で、さざ波のようなざわめきがひっそりと揺れている。
――さっき触れた手の、あのぬくもりが、まだ残ってる。
思わず自分の手を見下ろした。
あの瞬間、拒めなかった。けれど、心のどこかではまだ迷いが渦を巻いている。
「……龍二」
「ん?」
「手……繋ぐくらいなら、いいかも」
一瞬、龍二の目に光が宿る。
「……そっか」
「……ほんの少しだけだからな」
霧弥は視線をそらしたまま、ずっと見つめていた鍋へそっと手を伸ばした。
迷いをごまかすように、お玉ですくった煮汁をひと口だけ唇に運んだ。
距離はまだ遠い。
だけど、ほんの少しだけ近づいた――その事実が、胸の奥をじんわりと熱くする。
――俺って……誰かに触れられるだけで、こんなに動揺するのか。
霧弥はゆっくり息を整え、湯気の匂いを静かに吸い込んだ。
龍二がそっと立ち上がり、霧弥の横に並ぶ。
肩が触れた。霧弥は瞬間ぴくりと固まるが、今度は逃げなかった。
「……霧弥」
「……なんだよ」
「こうしてるだけで、なんか、ほっとするんだ」
その声は驚くほどやわらかく、霧弥の心の奥まで染み込むようだった。
霧弥は小さく頷く。
言葉にするのはまだ怖い。でも、今はその優しさを素直に受け止めている。
沈黙の中で、二人の間にゆっくりと温度が満ちていった。
ほんの少しだけれど、確かに心が触れ合った――そんな瞬間だった。
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