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第三十ニ章
言葉にしない朝
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頭は少し重いが、昨日ほどではない。
視線を下げると、空になった酒瓶が二本が無言で転がっていた。
「……やっぱ飲みすぎたな」
「だと思った」
龍二は小さく笑う。責めるでも、呆れるでもない声音だった。
しばらく、二人とも何も言わずに座っていた。
朝の光が、ゆっくりと部屋を満たしていく。
「……何時だ」
掠れた声でそう言うと、龍二は横に置いてあったスマホで時間を確認する。
「七時半だよ」
霧弥は少し安心したように息をつき、視線を下げる。
「……ブランケット」ぽつりと言う。
「それ、俺のだろ」
「うん。昨夜、霧弥が俺に掛けてくれたやつ」
龍二はそう言って、腕に抱えていたブランケットを少しだけ持ち上げた。「そのまま寝ちゃってた」
霧弥は一瞬、言葉に詰まったように口を閉じ、それから視線を逸らす。
「……寒そうだったからだ」
「ありがとう」
短い言葉だったが、妙に胸に残った。
霧弥は立ち上がり、窓を少し開ける。
冷たい朝の空気が流れ込み、部屋の酒の匂いを少しずつ押し流していく。
「……コーヒー、淹れるか」
「うん」
台所に向かう霧弥の背中を、龍二は黙って見ていた。
その背中は、昨日よりも、旅に出る前よりも、少しだけ柔らかく見えた。
コーヒーが落ちる音が、静かな部屋に響く。
「なぁ、龍二」カップを手にしながら、霧弥が言った。
「昨日さ……」言いかけて、言葉を切る。「……いや、いい」
龍二はそれ以上、聞かなかった。
ただ、霧弥の横に並び、同じようにコーヒーを口に運ぶ。
「言いたくなったらでいいよ」
霧弥は一瞬だけ龍二を見る。
それから、鼻で小さく息を吐いた。
「……そうだな」
二人の距離は、近い。でも、触れない。
無理に縮める必要も、広げる必要もない。
言葉にしないまま、同じ朝を迎えられたこと。それだけで、十分だった。
窓の外では、商店街がゆっくりと目を覚まし始めている。
霧弥はカップを置き、静かに言った。
「……店、開けるか」
「うん。手伝うよ」
当たり前のような返事。
だがその当たり前が、今の霧弥には少しだけ特別に感じられた。
二人の間に、言葉にならない余白が残る。
けれどその余白は、不安ではなく、静かな温度を帯びていた。
朝は、もう完全に始まっている。
視線を下げると、空になった酒瓶が二本が無言で転がっていた。
「……やっぱ飲みすぎたな」
「だと思った」
龍二は小さく笑う。責めるでも、呆れるでもない声音だった。
しばらく、二人とも何も言わずに座っていた。
朝の光が、ゆっくりと部屋を満たしていく。
「……何時だ」
掠れた声でそう言うと、龍二は横に置いてあったスマホで時間を確認する。
「七時半だよ」
霧弥は少し安心したように息をつき、視線を下げる。
「……ブランケット」ぽつりと言う。
「それ、俺のだろ」
「うん。昨夜、霧弥が俺に掛けてくれたやつ」
龍二はそう言って、腕に抱えていたブランケットを少しだけ持ち上げた。「そのまま寝ちゃってた」
霧弥は一瞬、言葉に詰まったように口を閉じ、それから視線を逸らす。
「……寒そうだったからだ」
「ありがとう」
短い言葉だったが、妙に胸に残った。
霧弥は立ち上がり、窓を少し開ける。
冷たい朝の空気が流れ込み、部屋の酒の匂いを少しずつ押し流していく。
「……コーヒー、淹れるか」
「うん」
台所に向かう霧弥の背中を、龍二は黙って見ていた。
その背中は、昨日よりも、旅に出る前よりも、少しだけ柔らかく見えた。
コーヒーが落ちる音が、静かな部屋に響く。
「なぁ、龍二」カップを手にしながら、霧弥が言った。
「昨日さ……」言いかけて、言葉を切る。「……いや、いい」
龍二はそれ以上、聞かなかった。
ただ、霧弥の横に並び、同じようにコーヒーを口に運ぶ。
「言いたくなったらでいいよ」
霧弥は一瞬だけ龍二を見る。
それから、鼻で小さく息を吐いた。
「……そうだな」
二人の距離は、近い。でも、触れない。
無理に縮める必要も、広げる必要もない。
言葉にしないまま、同じ朝を迎えられたこと。それだけで、十分だった。
窓の外では、商店街がゆっくりと目を覚まし始めている。
霧弥はカップを置き、静かに言った。
「……店、開けるか」
「うん。手伝うよ」
当たり前のような返事。
だがその当たり前が、今の霧弥には少しだけ特別に感じられた。
二人の間に、言葉にならない余白が残る。
けれどその余白は、不安ではなく、静かな温度を帯びていた。
朝は、もう完全に始まっている。
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