パパに側室なんて許さない!

灰羽アリス

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21 すべてはおじさまの手の上

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「君のおかげで、良い取り引きができたよ。ありがとう、トリー」

 おじさまは事のてんまつを語り終え、爽やかな笑顔で言った。

 …………ちょっと、あたしも混乱してるけど、説明するとこういうこと。

 龍の国には大きな湖がある。水の都と呼ばれるほど、龍の国は豊富な水量をほこる土地なのだ。だけど、周辺国はなぜか砂漠並みに干上がっている。そこで、パパたちは龍の国の湖に水路を作り、水不足に悩む周辺国に水を供給しようと考えた。

 だけど、龍の国の王様は、例の湖は宗教的に重要な意味があって人の手が触れていいものではない!と猛反対。どうしてもというなら龍姫を魔王の側室にしろと欲をかきだす始末。交渉は難航した。

 ───っとそこへ、魔王城へ大使として出向いている彼の娘、龍姫について、おじさまがある報告をする。報告を受けた龍の国の王様は、もう真っ青。態度をころっと変更し、二つ返事で治水工事を了承したという。それだけでなく、工事全般を龍の国が担ってくれることになった、と。結果、こちらには何の負担もなく、周辺国の水不足問題は解決。

 おじさまが報告したのは、"龍姫が犯した罪"について。その罪とは、魔王の子どもたちの殺害未遂。
 ───うん、すぐにでも戦争に突入ね。魔王領VS龍の国。だけど実際は、魔王が出向いて爆発の魔法をお見舞いして終了。戦いにもならない。龍の国の王様が真っ青になるわけだ。

 あたしが以前、おじさまに出した手紙があったでしょう? 龍姫の仕打ちを書き連ねて、その暴挙の証拠やレポートまで同封したやつ。あれを、おじさまはそのまま龍の国の王様への交渉おどしに使ったんだって。『ありがとう』はそのお礼というわけ。

 あたしとトニーは顔を見合わせた。

 龍姫へのイタズラを邪魔してたのは、きっと、おじさまだ。

 あたしたちが龍姫を害してしまったら、どっちも悪いんだから痛み分けってことになって、龍姫の暴挙を交渉おどしに使えなくなるもんね。あくまで、悪いのは龍姫だけにしておきたかったってわけ。
 ただし、おじさまは忙しいから、あたしたちを常に監視することはできない。たぶん、その辺の魔法使いでも雇って、あたしたちを見張らせていたのだと思う。

 6歳の子どもたちの危機を放っておいて、あまつさえ、それを利用するなんて。

「さすがおじさま。最高にえげつないわ!」

「お褒めにあずかり光栄だよ、我が姫」

 ちゅ、と手の甲にキスしてくれる。最低な内面を覆い隠す優雅な仕草。ああ、だからおじさまは素敵なの。

「急に交渉がスムーズになったと思ったら、そういうことだったのか、フェルナンデス」

 パパが顎に手を添え、納得顔で言う。

「ヴィ、感心してる場合じゃないでしょ。お兄様、子どもたちを危ないことに巻き込むのはやめてって言ったでしょ」

 ママは呆れてる。ママはいつもそうだ。あたしがおじさまと、魔法や科学について色々な研究をするのも、危ないからって止める。ぜんぜん、平気なのに。

「危険な場面はちゃんと見極めて巻き込んでいるから大丈夫だよ」

「そういう問題じゃないのだけど」

 そうそう、おじさまの言うとおり。
 この前は爆破魔法の応用実験で、"爆弾"とかいうのができちゃって、丸くて黒いそれを素手で掴んで大惨事に………危うく腕が一本になるところだったけど、まぁ生きてるし大丈夫。(怪我はラミにこっそり治してもらった)

 ところで、とおじさま。

「龍姫の姿が見えないようだが。どちらへ?」

「それが……」
 と、ママが言い淀む。

「何かあったのかい?」

「数日前、お部屋に手紙を残して、突然いなくなってしまったの」

 ママがおじさまに手紙を手渡す。

「《真実の愛に目覚めました。心配はいりません。探さないでください》?」

 おじさまが片眉を上げてあたしとトニーを見た。

「真実の愛、素敵ね」

 そう言って、微笑んでみせる。証拠隠滅は完璧だし、龍姫の失踪にあたしたちが関与してることはバレっこない。たとえ疑われたって、証拠がないんじゃ責められないし?

「パパの側室になろうとするからだよ」

 ちょっと、トニー?

 あたしが睨むと、トニーは「あっ」と両手で口をかくした。
 トニーはおじさまに弱い。あの茶色い双眼で見つめられたら、ぜんぶ喋らないとっていう強迫観念に襲われるんだって。
 トニーの反応を、おじさまは見逃さない。こうなったら、洗いざらい白状させられてしまう。
 お説教を覚悟したそのとき、

「側室? なんのことだ?」

 そう、パパが口を挟んだ。
 なによ、とぼけた顔しちゃって。
 龍姫と仲良く手を組んで歩くパパの姿を思い出して、怒りがこみ上げてくる。

「龍姫はパパの側室の座を狙ってた。パパも、龍姫にデレデレしちゃって、乗り気だったでしょ!」

「俺が、デレデレ?」

 声を上げて、パパは笑う。

「あり得ないな」

「でも、彼女に優しかった!」

「それは、政治的な理由で無下にできなかったから、仕方なくだ」
  
 仕方なく……仕方なく……

 嘘をついてるようには見えない。

「でも、でも、放ったらかしにされて、ママ、悲しんでた」

 パパは罪を犯したのだ。ママを、ひどく傷つけた。あたしのことも……いまさら無実だとは言わせない。

「パパ……」

 悲しげなトニーのすすり泣きが、すぐとなりから聞こえてきてびっくりする。

「ママが悲しいと、ぼくも悲しいよ」

 トニーったら、本当に泣いてる。やめてよ、あたしまで泣きたくなってくるじゃない。

 パパは目をぱちぱちさせて、あたしとトニーを交互に見た。それから、ママを見る。何を読み取ったのか、パパは衝撃を受けたように固まった。

「───そうだな。トリーとトニーが正しい。すまない、俺が悪かった」

 ぎゅっと、パパはあたしとトニーを抱きしめた。

「ごめんな、トリー」

 あたしの耳元でパパがささやく。

「別に……」

 なんだか恥ずかしくなってきた。唇をすぼめて、ぷいと顔をそむける。

「これじゃ『大嫌い』と言われても仕方がないな」

「………あれは、うそ。ちゃんと大好きよ、パパ」
  
「ありがとう」

 満面の笑みを浮かべるパパは本当に格好良くて。龍姫や他の女の人たちがイチコロになるのも仕方ない気がした。ある意味、彼女たちは被害者なのかも。……だからって、側室=悪・即・斬☆のスタンスは変えないけど。

 パパはソファに座るママの前に跪いた。それから、ママの手をにぎる。

「フィオリア……寂しい思いをさせてすまなかった」

 ママは瞳をうるませ、だけどまっすぐパパを見た。

「側室を取りたいなら、いいのよ。貴方は魔王だし、それが許されるわ」

「必要ない」

「覚悟はできてるの。愛だけじゃ、どうにもならない問題があるって、ちゃんとわかってる。我慢できるわ」

「──なぁ、フィオリア。俺が欲しいのはお前だけだ。……それでも、重鎮たちが他の女をあてがおうとするなら、俺は今すぐ魔王なんてやめて家族と逃げる」

「ヴィ……だめよ、逃げるなんて。貴方の居場所はここだもの」

 眉を寄せてかたい表情を崩さないママに、パパはため息をついた。ぐっと瞳に力を入れて、ママに顔を近づけていく。ママがこの眼差しに弱いことを、パパは熟知してるのだ。ちょっとずるい気がするけど、こうでもしてママを"ぼんやり"させないと、頑固なママは永遠に納得しないもんね。

「まっまく、俺にはお前だけだって、何度もその身に教え込んできたはずなんだが。まだ足りないようだ。そうだな、じっくり、たっぷり時間をかけて、嫌というほどわからせてやることにしよう。──さっそく、今夜にでも」

 ぽっと頬を染め、とたんにおろおろしだすママ。こうなったら、パパの勝ちだ。

 やがてママは細い声で応えた。

「私も貴方だけよ、ヴィ」

 愛してる、そう言ってパパとママは抱き合った。熱烈なキスまで。まったく、かんべんしてほしい。いいよなー、なんて言いながら、ロキはぼんやりパパたちを見てるし。俺もいつか……って呟きながらあたしを見てきた時には心底ぞっとした。

 落ち着いた頃、パパが改めて龍姫との件を否定した。

「たしかに龍の国から彼女を側室にとの打診はあった。だが、ずいぶん前に正式に断りを入れている」

「じゃあ、龍姫は……」

「もちろん、側室にする予定なんかない。最初からな」

 …………………………


「ねぇ、ねぇ、トリー」

「なに、トニー」

「ぼくたち、ちょっと龍姫にかわいそうなことしちゃった?」

「………うーん、ちょっとだけ?」

 あはは、とあたしとトニーは笑いあった。でも、パパに色目を使った龍姫も悪いよねー。だよねー、と。

「子どもたち」

 呼ばれ、びくっと振り向く。

「後始末はきちんとしようね」

 フェルナンデスおじさまの笑顔の圧力に、あたしとトニーは縮こまって何度も頷いた。

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