愛への誤ち

八つ刻

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彼女視点

中編

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あれから私はどうやって帰ってきたのか記憶にない。
震える指をなんとか抑えスマホを取り出し、SNSから慧くんに連絡した。

『ごめん。なんだか熱っぽくって。風邪かもしれないから今日は来ないで』

そしてすぐピコンと音がし、返信がきたことをスマホは告げる。画面には『大丈夫?何か持っていこうか?』とテロップが出ているけど、SNSを開くような余裕はなかった。


他の女の子とキスしてたくせに心配のふり?
私には五時限目まであると言っていたのは嘘だったの?
私はご飯を作ってくれる体のいい家政婦?

今あの女の子とどこにいるのーーーー?


頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えたくなかった。
本当はわかってた。だけど認めたくなかった。
お母さんのように見ないふりをしていれば、必ず彼は帰ってきてくれるーーそう思ってた。

でももう認めるしかなかった。

その時もう一度スマホが鳴り、ノロノロと画面を確認するとお母さんからの連絡だった。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


あの目撃から一週間、私は慧くんと会っていない。
体調が悪いからと言ってのらりくらりとかわしてる。

「高橋さん、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」

同僚が心配してくれるが、大丈夫と以外答えようがない。
実はあれから殆ど寝れてなかった。
あと二時間で今日の仕事は終わる。一人分だけを作る気力も起きず、ここ一週間はコンビニで食事も済ませていた。

「あっほら高橋さん!あのいつものイケメンですよ!久しぶりですね」

同僚がコソッと私に話しかけてきて、目線でチラリと促す。その目線を追うと慧くんが席に座っていた。
そうだ、私職場知られてたんだったーー。

「ほら、注文お願いしますね!」

同僚に悪気はないのだろう。仲が良いのをわかっているから私の背中をグイグイと押す。
行きたくない。行きたくないけど今は仕事中だ。
震える手をギュッと握り、慧くんへ近づいた。

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

お水とおしぼりを起き、にこりと笑顔で聞く。
こんな他人行儀な接客はいつぶりだろう。
きっと出会って数回くらいしかない。
慧くんは私を心配そうな顔で仰ぎみる。

「梨衣、体調悪いのに仕事して大丈夫なの?」
「お気遣いありがとうございます。大丈夫です」
「・・・・・・ねぇなんでそんな言い方するの?」
「何がでしょうか?ご注文がお決まりになりましたら、またお呼び下さい」

ぺこりと頭を下げ引き下がる。
早く彼から離れたかった。



その後は同僚に慧くんの席は任せ、私はいつも通りに接客した。

「お先に失礼します。お疲れ様でした」

着替えをし、従業員専用のドアから出る。
今日も夕飯はコンビニでいいかなと考えながら歩いていたら、店のすぐ先で慧くんが待っていた。

「梨衣、お疲れ様。なんで俺のこと避けるの?」
「・・・避けてなんかない」

慧くんはつかつかと長い足で私に近づいてくる。

「嘘だ。先週からずっと変だよ!体調悪いって言ってから連絡もなかなかつかないし・・・」
「体調が悪いからあんまりスマホいじってないだけだよ」
「じゃぁなんで今日はあんなよそよそしい態度だったの」
「・・・・・・」

答えず俯いていると慧くんは私の腕を掴み、歩き出した。

「ちょっと・・・!離して!」
「だめ。梨衣顔色ほんと悪いよ。帰ってからゆっくり話そう」

このままではだめ。このままじゃ私またーー。

「やだってば!!!離して!もう別れたいの!」

私は慧くんの腕をバッと引き剥がし、自分でもびっくりするくらいの大声をだしていた。
慧くんも驚いたのかポカンと固まっている。

「なんで・・・?」
「慧くん自身が一番わかってるんじゃないの?他に好きな人がいるんだからそっちにいけばいいでしょ!私は家政婦じゃない!バカにしないで!!」

言いながら私はボロボロと泣いた。
慧くんがどんな顔をしているかはわからないけど、きっとめんどくさい女だと呆れているだろう。
でももう無理なの。大好きだけど、見て見ぬふりは私にはできない。

手をそっと握ってきた慧くんを振り払う力は、私にはもうなかった。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


慧くんのマンションに連れて来られた私はソファでまだグズグズ泣いていた。
温かいココアをテーブルに起き、慧くんは私の隣に座って手をギュッと握る。

「・・・・・・離して」
「いやだ。梨衣、俺別れたくないんだ!」
「私は・・・ひっく別れたい」
「浮気してたのは本当にごめん!でも俺が好きなのは梨衣だけだから!」
「信じ・・・られるわけないでしょ!?」

泣きながら慧くんを睨みつけると慧くんは悲しそうな顔をする。どうしてあなたが被害者みたいな顔をするの?

「ごめん・・・本当にごめん・・・でも俺、梨衣がいないと生きていけないんだ!」
「そんなの嘘だよ。慧くんは私なんかいなくたって生きてける」
「・・・どうしたら別れないですむ?」
「・・・・・・」

そんなの私が聞きたいくらいだった。
今でも私は慧くんが好き。でも好きだから他の女の子と共有なんて無理だ。

「・・・別れるしか・・・ないと思う」

絞り出した言葉に慧くんは顔を真っ青にさせゆるゆると首を振る。

「やだ・・・いやだ!梨衣、俺から離れていかないで!」

慧くんは私の両頬を掴み、無理やり噛み付くようなキスをした。

「うっーーやめっ・・・!」

拒否をしようと慧くんの肩をバンバンと叩く。

「梨衣がいなくならないようにしなきゃーー」




私は一晩中慧くんに抱かれた。
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