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彼氏視点
前編
しおりを挟む女なんかみんな同じだと思ってた。
俺が生まれた家は小さいながら会社の社長をやってる父親と母親、姉の四人家族。
父親は毎日忙しそうで、家族を顧みない人だった。
そんな旦那に淋しさを感じたのか、母親は金があることをいいことに遊び呆けていた。
母親は息子の俺がいうのもなんだが無駄に顔がいい。
とても二人の子供がいるようには見えない若さと体型でたくさんの男を連れ込んでいた。
そんな母親に気付きながら興味を示さない父親、母親似の姉も容姿の良さを鼻にかけ、男をアクセサリーとでも思っているのか取っかえ引っ変えだった。
要するにクソ家族ってわけだ。
こんな家庭で育った俺は女に優しくすることなんてできなかった。
俺の顔と親が会社をやってると言えば尻尾振って纏わりついてくる女たち。見た目に自信があるのかちょっと笑えばまるで自分の天下のように周りに言いふらす。
どうせお前も俺のことアクセサリーか何かだと思ってるんだろ?
そうとしか思えなかった。
俺は一生独身でいい。結婚なんてしない。と、梨衣に出会うまでは思っていた。
俺は大学進学と共に家を出て、自由気ままな一人暮らしを満喫していた。
そんな時梨衣と出会ったのは大学の最寄り駅だった。
「あの、落としましたよ」
後ろから声をかけられ振り向くと、そこには平凡な二十代半ばくらいの女が定期を持っている。
咄嗟に定期が入っていたバッグを漁ると無い。わざわざ拾ってくれたらしい。
「あ・・・ありがとうございます」
「いいえ。では」
ぺこりと頭を下げすぐに去っていく女を見て、俺は呆然とした。いつも俺に話しかけてくる女は皆、目を合わせると顔を赤らめる。だけど今の女は俺の顔に興味がないとでも言わんばかりの態度だった。
あんな女もいるんだなーー最初はその程度の印象しかなかった。
だけどその後ちょこちょこその女を見かけた。
お年寄りの荷物持ちを手伝ったり、エレベーターではボタンを押し他の人を先に行かせたりといつも何かしら人助けをしている。
それも嫌な顔せず優しそうな笑顔で。
見かける度に俺は目で追うようになっていた。
その日はなんだかやる気が出なかった。大学の課題をやらねばならないけど、パソコンが入ったバッグは重く、途中目に入った喫茶店に偶々入ることにしただけだった。
まさか彼女が働いているとは。
相変わらず優しそうな笑顔で注文を聞いてくる。
定期を拾ったことは全く覚えていないらしかった。
働いている姿を横目で確認すると、どの客にも同じ接客だった。
あんな笑顔見せさせられたら勘違いする男が大勢いるだろうに。本人は全くわかっていないようだったが。
それから何となくその喫茶店に何度も足を運んだ。
今思えばもう彼女に惚れていたんだろう。
「おねぇさんここの社員?」
水とおしぼりを持ってきた彼女に何気なく話しかけてみる。自分から声をかけたことなんて初めてだったから内心バクバクだった。
「え?は・・・はい」
キョトンとした顔も可愛いな。
「来る度にいるからさ。ここのコーヒー美味しいよね」
「いつもありがとうございます!」
笑った彼女の笑顔はいつものような優しそうな笑顔ではなく、花が綻ぶような笑顔だった。
それからも足繁く通い、何とか普通に会話できる間柄になった。連絡先を交換できた日は叫びたくなるほど嬉しかった。
連絡先を手に入れてからはイベント事に誘ったり、優しい彼女が好きそうな動物園や水族館等中学生かよと思うような場所にも喜んで連れてった。
告白し、受けてくれた時の俺の顔はきっと締りがなかったことだろう。
「最近慧、機嫌いいよね~」
同じ大学のこの女ーー水上麗華は会う度にベタベタしてくる。数回寝ただけで彼女気取りだ。
胸は確かに大きいし、顔も整っているんだろう。だけどそんな女ごまんといるし、俺は梨衣以外の女に興味もない。
まぁ大学では他の女への牽制になっているみたいだから好きなようにさせていた。
「あ~俺彼女できたから」
梨衣を思い浮かべ、つい目尻が下がってしまう。
「え!?慧が彼女!?うっそー誰?だれ?大学の子?」
「いや年上」
「えーいがぁ~い」
意外でも何でもいい。わかったら近づくなと言うと
「でもさぁ?大学では彼女の目もないし自由じゃん?それに~私と慧、身体の相性いいし!」
「いや俺別にお前と寝なくていいし」
「なんでぇ?バレなければ良くない?」
この時もっとしっかり拒否してればーー
ただの言い訳に過ぎないが。
梨衣は昔嫌な思い出があるとかで、セックス自体が得意ではないようだった。
俺は別にセックスがしたくて梨衣と付き合ったわけではないから何の不満もなかった。
梨衣といれば癒されて、顔とか家とかではなく俺自身を愛されていると実感できたから。
だけど溜まるものは溜まる。
梨衣に無理やりする気もないし自己処理でもいいかな、と思っていた時水上が誘ってきた。
「あたし別に慧の彼女になりたいわけじゃないし。お互い解消できればよくない?」
俺はその言葉に簡単に乗っかり、梨衣に嘘をついた。
本当は三時限目までしか出ないのに五時限と言ったり、週末は友達と出かけると言って水上と楽しんでいた。
特に罪悪感はなかった。
梨衣は苦手だと言っていたし、水上はそれ以上のことを望んでいない。
ただ水上と会って身体はスッキリしても虚しさしか残らなかった。水上と会った日ほど梨衣に会いたくなり、甘えた。
今思えば嘘をついた時点で後ろめたかったんだ。
梨衣がどう思うかなんて全く考えていなかった。
そんな馬鹿な俺は罰を受けた。
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