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彼氏視点
後編
しおりを挟む梨衣に別れを告げられた時、世界が真っ黒になった。
こんなに好きなのに梨衣には伝わっていないのか?
こんなに好きなのにどうして別れなければならない?
こんなに好きなのにーーー
そして俺と水上の関係を知っていることを知った。
泣く梨衣をマンションに連れ帰り、泣き続ける梨衣を何とか説得しようとしたが「別れる」の一点張り。この時俺の何かが切れた気がした。
嫌がる梨衣を組み敷き、何度も何度も抱いた。
大学は辞めたっていい。どうせ父親の後を継がされるんだ。それが数年早くなるだけ。
だから俺は梨衣に許可も得ず避妊しなかった。
子供ができれば梨衣はずっと一緒にいてくれると思ったから。
梨衣を抱いて思った。
あの虚しさは梨衣以外を抱いたからだった。
もっと早くこうしてれば良かったと。
数日後、梨衣を何とか引き止めることに成功し俺は大学へ向かった。
「おい水上話がある」
「で?」
「俺もうお前と寝ない。だからもう二度と俺に話しかけるな」
「はぁ?急になんなのよ!」
「急にじゃない。元々お前と寝たいとは思ってない」
「なっ・・・!!なんて失礼な人なの!」
「そんな失礼な奴はほっといてくれ。話は終わりだ」
過去は変えられないけど未来は変えられる。
今俺が梨衣にできることは誠実であることだけだ。
俺は水上を置いて踵を返す。
「まっ・・・待ってよ!!!」
最後だと思い振り返ると水上は目に涙を溜めて、スカートをギュッと握っていた。
「私・・・慧が好きなの!だから・・・!」
「・・・ごめん。俺が好きなのは梨衣だけだから」
水上にまさかそんなことを言われるとは思わず、正直動揺したが優しい言葉をかけたって何もならない。
自分のした仕打ちがどんなに残酷だったかを、叩きつけられながら水上に頭を下げた。
それから俺は以前にも増して連絡をこまめに取るようにした。
嘘もつかず、寄ってくる女は蹴散らし、信じてもらいたい一心でその場の写メと一緒にSNSで連絡を取った。
梨衣本人は気づいてないが、梨衣は男から人気があるタイプだ。帰りが遅くなる時は迎えに行って、部屋に上がらずそのまま帰った。
そんな生活が一ヶ月ほど続いたある日、梨衣が実家に帰ると言った。
なぜ?
正直それしか浮かばなかった。
なぜ梨衣は俺から離れようとする?
偶にしか会えなくて梨衣は淋しくないの?
そう言おうとした時「私も一緒にいたい」と言った梨衣に、梨衣も同じ気持ちなんだ、親のために仕方なくなんだと自分を言い聞かせ渋々納得した。
梨衣の実家の住所を教えてもらう約束をし、あと何回会えるだろうかとぼんやりと考えた。
なのに。
梨衣と連絡がつかない。
電話をしても使われていないというアナウンスが聞こえるだけで繋がらない。
喫茶店に行ったら辞めたという。
何が、一体、どうなっているんだ!?
パニックになりながら梨衣の家へ行くと電気はついておらず、何度チャイムを鳴らしても応答がない。
ドアを叩き梨衣を呼ぶ。いつもみたいに笑って出迎えてくれるはずだーーそう信じるしかなく叩き続けた。
知らず知らずのうちに怒鳴っていたのだろう、隣の部屋の人がドアから顔を出した。
「高橋さんなら先日引っ越されましたよ?」
怪訝な顔をした隣人は確かにそう言った。
「引っ越し・・・た・・・?」
足元から何かが崩れる音がした。
あぁ梨衣は俺を騙したんだーー
梨衣を、水上を悲しませた罰がこれか・・・?
ようやく理解した俺はふらつく足で梨衣のマンションを後にした。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
あれから三年が経った。
俺は無事大学を卒業し、父親の会社へ入社した。
今まで父親の仕事に興味なんてなかったからいくら息子といえど平からだ。
覚えることばかりで毎日目まぐるしく過ぎていく。
女のことなんて二の次三の次だ。
今は仕事に打ち込むことで何とか自分を奮い立たせている。
梨衣がいなくなってから俺の生活はボロボロだった。
何もする気がなく、勉強も手につかない。
そんな俺に手を差し伸べてくれたのが父親だった。
梨衣からの連絡はいまだにない。
その日俺は岐阜へ出張に行った。
駅前で取り引き先と別れ、少し時間もあるからゆっくりお茶でもしようかと周りに目をやる。
平日の夕方は学生や主婦が多くなんだか家庭を思わせる光景で、梨衣との家庭をつい想像してしまう。
いつになったら忘れられるのか、自分でも呆れるなと自嘲してると耳に聞き慣れた声が飛び込んできた。
「え~じゃぁその時慧介はどうしたのー?」
「んとね~あっくにめ!ってしたの!」
「あっくん泣かなかった?」
「おちょこのこだも~」
「そうだね、慧介もあっくんも男の子だもんね~泣かなくて偉いね」
懐かしいその声は今も変わらず可愛らしくて。
少しふっくらした輪郭は元々持ってる梨衣のふんわりした感じを更に強調しているようだった。
その手に繋いでる小さな男の子。
「けーちゅけえらい?」
「うん。かっこいいよ~ママ慧介大好き」
「ぼきゅもママだいちゅきぃ~!」
梨衣は小さな男の子を抱きぎゅーっと抱きしめていた。
「さっ帰ってご飯の支度しようね~」
「はぁ~い」
二人は再び手を握り、俺に気付くことなく仲良く歩いていく。その後ろ姿を見送ることしかできなかった。
「結婚・・・したのか?」
俺じゃない人と結婚し
俺じゃない人との子供を生み、育て
俺じゃない人に笑ってるのか?
残酷な現実を目の当たりにして乾いた笑いが込み上げてくる。
それなのにーー梨衣への思いはまだ消えない。
だけど、これは俺が悪いから
俺の誤ちが招いたことだから
俺の手で幸せにしてあげたかった
「梨衣、幸せになれよ」
頬に流れた涙を俺は止めることができなかった。
【後書き】
元サヤ編も考えましたが、長くなりそうだったのでやめましたw
ここまで読んで下さってありがとうございました♡
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