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続・愛への誤ち
said 梨衣
しおりを挟む三年前、地元に戻った私は母に事情を話した。母はいい顔をしなかったけど既にお腹の中に慧介がいた事、私が生む決意が固かった事から渋々同居に応じてくれた。
「慧介~迎えに来たよぉ」
「ままぁ~!」
なんとか地元で事務の仕事を見つけ、仕事帰りそのまま保育園に慧介を迎えに来ていた。
迎えに行くなり抱き着いてくる慧介が可愛くて仕方がない。
「良い子にしてた?」
「うん!みえちゃがね、あしょびにおいでて!」
みえちゃとはこの保育園に通う同い年の美恵子ちゃんだ。
慧介は毎日誰かしら女の子から遊びにおいでと誘われる。モテモテだ。
成長するにつれて、慧介は慧くんにどんどん似てくる気がする。
それは私が慧くんに対して負い目があるからなのか、本当に似ているからなのかはわからない。
「今日は駄目だよ。ご飯食べに行くって言ったでしょう?」
「え~、ヤ!」
「や、じゃないの。優人おじさんと行くんだよ?慧介は行かないの?」
「まぁくん!?まぁくんいるならいくぅ!」
さっきまでほっぺをプクッと膨らませていたはずなのに、優人さんの名前を出した途端、慧介は両手を上げてニコニコと大喜びだ。
「じゃぁ早く帰っておじさんのお迎え待とうね」
「はぁい。まぁくん早くあいたい」
慧介が言うまぁくんとは、私が今勤めてる会社の上司、林 優人さんの事だ。確か年齢は私の二個上で、三十二歳。
眉はキリッとしてるのに垂れ目が可愛らしい所謂甘い顔タイプ。
名前の通りとっても優しいのに未だに未婚なのが不思議だ。
優人さんは仕事を教えて貰っていた時から親切だったけど、ひょんなことから私がシングルマザーだと知ってから今日のように偶に食事に誘ってくれたりする。
慧介は優人さんが大好きでよく懐いているし、優人さんも子供好きみたいで私抜きで慧介と二人だけで遊びに行ったこともあるくらいだ。
家に着き、泥の着いた慧介の服を着替えさせる。今日もたくさん遊んだらしい。
「まぁくんね、これあげるの」
慧介が持っているのはパトカーのミニカーだ。
慧介は車が大好きで、よくミニカーを強請られる。そのミニカーの中でもパトカーはかなりお気に入りだったはず。
「いいの?それ大事にしてたのに」
「いの!まぁくんにあげて、ぱぱになて言うの!」
「パパ?」
聞き捨てならない話になってきて、私は慧介と目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。
「慧介、パパ欲しいの?」
「ほちくないよ?」
私が真剣な顔をしているからなのか、慧介はキョトンとした顔をしている。
「じゃぁどうしてそんな事言ったの?」
「あのね、今日ね、あっくんが言てたの」
「何を?」
「ぱぱはままを守るんだて。だから、ままにもぱぱがいたらいーなて!」
保育園のお友達、あっくんが何を言ったのかはよくわからないけど、慧介は私の為を思って言ったらしい。
てっきり私は慧介が父親がいない事に引け目を感じているのかと思っていたから肩の力が抜ける。
「そっか・・・でもママは強いからね。パパが守ってくれなくても大丈夫なんだよ」
「そなの?」
「うん。慧介がいてくれたらママはそれだけで十分なの」
「ぼきゅもままがいたらいー!」
小さい腕を必死に延ばして抱き着いてくる慧介を抱きとめる。
「慧介、大好き」
あの日妊娠がわかった時、私は素直に嬉しいと思った。
“男の人は浮気するもの”と思っていた私は、慧くんを信じてあげる事ができなかった。
だけど、この子は慧介は違う。
私が大切に守ってあげなくてはいけない小さな存在。
慧くんに対するような信じられない愛じゃなく、私が無条件に信じ、慈しむ愛だ。
慧くんとは違う道を選んでしまったけれど、こんなに愛おしい存在を教えてくれた事に感謝しかない。
私には慧介がいればいいの。
他には何もいらない、望まないから。
だけど名前に“慧”を入れたのは私の最後の心残りだったのかもしれない。
慧介と抱き合いながら笑っていると、玄関のチャイムが鳴った。
「まぁくん!」と叫びながら慧介が玄関に向かう。
その後を慌てて追うと、玄関には既に母がいて優人さんと楽しそうに談笑していた。
慧介が優人さんの足に飛び込むように抱き着くと、優人さんはひょいと慧介を抱き上げ優しく笑った。
「こんばんは、慧介くん」
「まぁくん!あそぼ!」
「うん、ご飯食べたら遊ぼうな」
「ヤ!いま!」
「こら、慧介!」
イヤイヤ期真っ最中の慧介は、何でも否定から入る。
そんな慧介に嫌な顔ひとつせず優人さんは付き合ってくれるから、本当に頭が上がらない。
「いいのか?今日行くお店は前に慧介くんが食べたいって言ってたチョコフォンデュがあるんだぞ?」
「ちょこふぉ?」
「ほら、チョコが流れているところに苺とか、お菓子をつけるやつだよ」
「食べる!」
「ははは、じゃあちゃんとご飯も食べないとな」
「うん!」
ご機嫌になった慧介を私が抱こうとしても、慧介は優人さんにしがみついて離れようとしない。
「優人さん、いつも慧介がすみません」
「こんばんは、梨衣ちゃん。いいんだよ、慧介くんは可愛いからな」
えへへぇと笑う慧介に優しい眼差しで微笑む優人さんは、傍から見たら父子に見えるだろう。
「それよりまだ支度の途中だろ?慧介くんはいいから早く支度しておいで」
「あっ、すみません。急いで支度します!お母さん、優人さんの事よろしくね」
パタパタと廊下を走り、私はさっさと着替え化粧をし直す。
化粧といってもファンデーションとチーク、リップを塗り直す程度だ。
支度を終えた私はリビングで待っていた三人に声を掛け、優人さんの車で予約していたお店へ向かった。
「ばぁば!自分でやるー!」
「はいはい、でも手は添えさせてね」
しっかりご飯を食べた慧介は、滝のように流れるチョコフォンデュに夢中だ。
母が付き添いを申し出てくれて、私と優人さんはまだゆっくりと食事を楽しんでいる。
「そういえば今度東京に行くんだって?」
「はい、友達の家に泊まりに行くんです」
「いつ行くの?」
「来週の週末に」
新しいスマホにしてから紗栄子にはすぐ連絡を入れた。
勿論慧くんとの関係も全て話した。紗栄子は「梨衣が思うようにすればいいよ」と言ってくれて、今でも慧介の事等でよく連絡を取っている。
お互いそろそろ会いたいねという話になり、来週の週末は紗栄子の家に泊まりに行く事になった。
「そっか・・・偶には友達とゆっくりするのもいいもんな」
「紗栄子ーー友達とは付き合いが長くって。何でも話せる親友だと私は思ってるんです。だから凄く楽しみで」
紗栄子に会える嬉しさからか、つい顔が緩んでしまう。
「そういう友達は大事だもんな。うん、楽しんでおいでよ。最悪週明けの仕事は有給を使ってもいいし」
「それは駄目ですよ。仕事は仕事」
「俺なら職権乱用できるからいつでも言って?」
いたずらっ子のように笑う優人さんと笑い合いながら、この穏やかな時間がいつまでも続けばいいと私は思っていた。
(八つ刻)書いてたら優人でいんじゃね?ってなってきました・・・笑
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