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番外編
執事業は辛いよ
しおりを挟む長年ガードン公爵家の執事として生きてきた父親。
最近体調が良くないらしい。
「おい、いい加減無理するなって。親父は引退してゆっくりしろよ」
「何を言うか。私がいないと旦那様が困るだろう」
相変わらず二言目には“旦那様”。あんな頭空っぽの強欲公爵になぜここまで仕えるのか不思議でならない。
執事に忠誠心は必須だが、その忠誠を誓う相手は個人の自由にしてもらいたい。
ガードン公爵は顔立ちはいいが、不摂生だからか動かないからかわからないが体型が丸い。よくそこまで腹出るな、何食ったらそうなるのか是非聞きたい。
義理の息子も似たようなものだ。これが人の上に立つ人物だとは。お先真っ暗。
そんなガードン公爵家に忠誠を誓うのは真っ平御免だ。
「なぁ母さん、俺そろそろ親父の跡を継ごうかと思ってるんだけど」
「まぁ一体どうしたの?あんなに嫌がってたのに」
俺の母さんはガードン公爵家の侍女長だ。
夫婦揃ってガードン公爵家に仕えてるなんて溜息しかでない。
「最近親父体調悪いだろ?家務ばっかで疲れが溜まってるんだと思う。母さんもいい歳だし二人で空気のいいところででもゆっくりしろよ」
「あんたからそんな親孝行みたいな言葉が聞ける日がくるなんてねぇ・・・」
おい、聞き捨てならねぇぞ。
「心配しなくても子供の頃から叩き込まれてっから仕事は嫌でもできるし。次期侍女長のあの子も随分成長したんだろ?そろそろ自分のために生きろよ」
母さんは俺の言葉に感動したのか、ありがとうと言いながら何度も頷いていた。
その日の夜には家族で話し合い、俺がガードン公爵家の執事を継ぐことに親父を渋々納得させた。
善は急げと公爵に許可を願い出て、親父たちには遠く離れた土地に俺が買った家をプレゼントしてやった。
まぁ最近ちょっと臨時収入があってな。なかなかの家を二人にあげられて俺は満足だ。
それからの毎日は忙しいどころの話ではなかった。クズ公爵・・・いやガードン公爵が無能なお陰でやることが山のようにあった。処理しても処理しても終わらない書類にぶっちゃけ泣きそうになった。
これを今まで親父が全部やっていたのかと思うと、不調になるのは当たり前だと納得した。
俺だけが忙しい日々を送っていたある日、王宮からの使者が屋敷にやってきた。
何やら内密な話らしい。
使者とクz・・・ガードン公爵を応接室へ案内し、俺は家務の続きをした。
半刻ほど経ったころ、使者は王宮へ帰っていき俺は公爵に呼ばれた。顔色が悪い。
「旦那様、如何なされましたか?」
「あ・・・あぁ。実はな・・・今使者殿から教えてもらったのだが・・・クロエはどうやら妊娠できない身体らしい・・・」
クロエ・・・クロエ・・・あ~あの夢見がちなお嬢様ね。
興味ないから名前なんてすっかり忘れてたわ。
「なんと・・・。では王太子殿下とはその・・・離縁に?」
「いや、そこまでは仰っていないようだ。ただ跡継ぎは望めないと。まだ陛下には知られていないが時間の問題だと仰られた」
ふむふむ。跡継ぎは側室に任せてお嬢様はお飾りの王太子妃にするかもよってことか。
ん~この様子じゃこのクズ、納得していないみたいだな。
「跡継ぎがクロエの子でないなら・・・王家に嫁いだ意味がないではないか・・・!おい、何かいい案はないのか!?」
いい案て。子供できないならしゃーないでしょうに。
「あるにはありますが・・・少し・・・いやかなり人道的に反することかと・・・」
「何でもいい!とりえず言ってみろ!!」
それが人に頼む態度かね。はぁ。
「はい。クロエお嬢様には産まれた時に生き別れた双子の姉君がおりますよね?確か名前はリリアンヌ様と・・・」
「・・・・・・おぉ!おぉ!そうだ、確かにいる!」
「いらぬ世話だと思いましたが、実は以前からリリアンヌ様のことは調べておりました。こちら現在のリリアンヌ様でございます」
俺はリリアンヌ様の姿絵をクズに差し出す。
確かにリリアンヌ様はクロエ様とよく似てらした。
「なんと!クロエにそっくりではないか!いける・・・これはいけるぞ。よし、今すぐリリアンヌの元に使いを送れ」
「畏まりました」
リリアンヌ様への使いの指示を出した後、上機嫌のクズは放っておいて俺は一時、自室へと戻った。
鳥籠を開けて認めた文を鳥に咥えさせる。
「よろしくな」
その言葉を合図に鳥は大空へ羽ばたいていった。
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クズとリリアンヌ様の話し合いはすんなり纏まったようだった。おそらくクズがリリアンヌ様を脅したんだろうなと推測する。まじでクズ。
無事リリアンヌ様はクロエ様として王宮で生活しているようで何よりだ。
最近懐妊したと発表があり国全体が盛り上がっている。
俺も遊びたい。
そして偶に送られてくる本物のクロエ様からの文。
執事が家主の許可なく勝手に見るのは禁じられているが、まぁ俺の忠誠心はあのクズにはないしあいつもそろそろ終わりだろうから気にしなくてもいいだろう。
今回の文も「王太子はいつ迎えにきてくれるのか」「入れ替わるのはいつか」といつもと似たような文章が並んでいる。
夢見がちなお嬢様?そのいつは一生きませんよ?
俺はその文を人知れず処分し、今日もある物を持って料理長へ指示を出す。
真っ白な粉のようなもの。
味は塩と一緒だ。
だがただの塩じゃない。
普通の塩の何倍もの塩分が含まれている。その塩モドキでクズとクズ息子の料理は作られている。長年の不摂生で元々内蔵はボロボロだろう。これをあとどのくらい続けたら俺は解放されるのか。
いつか訪れるであろうその日を夢見て、俺は今日も家務を必死にこなしている。
✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
コンコンと窓を啄く音がする。
振り返り窓を確認すると、あいつの鳥が文を咥えていた。
その文を開き、読み進める。
「・・・やっとここまで来たか」
ガードン公爵は心臓を患い寝たきりになり、嫡男も肺を患い入院してしまったそうだ。
「あともう一押し・・・だな」
あいつには何か褒美を用意してやらねば。
地位には興味なさそうだが・・・さて何がいいやら。
返事の文を認めまた鳥に咥えさせる。
開放されたあいつの笑顔が目に浮かぶようだ。
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