人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻

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番外編

とある侍女が言うには

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見た目も普通、才もない私は男爵家の三女として産まれた。
兄が二人に姉も二人。私がまだ男だったら良かったのですが、逆立ちしても性別は変わりません。

正直お荷物だったんでしょう。
両親や姉兄の瞳には蔑む色がいつも浮かんでいました。

おかげで私は何に対しても自信がもてなくなってしまったのです。



そんな私でも王宮に仕えるという幸運が舞い込んできました!神様ありがとう!

この運を逃すわけにはいかないと必死に働き、その甲斐あってか側室の一人、ロバーツ伯爵令嬢専属の侍女となることができました。

ロバーツ伯爵令嬢は大変美しく、自信に満ち溢れているお方。
しかし選民意識も強いお方でとっても、とーっっっても嫌な奴でした。

お茶の味が美味しくないと何度も淹れなおさせ、小さな失敗でも怒鳴り散らし、気に入らないことがあると物に当たったり手を上げたり・・・

お前何歳だ?
と何度問いたかったことか。抑えた私を私は褒めてあげたいです。

しかし気持ちもわからないでもないのです。
王太子殿下に嫁いできてから一度もお渡りがないのですから。
初日から一週間ほどまではロバーツ伯爵令嬢も「忙しいのかしら」と余裕がありましたが、それ以降は駄目です。
もうほんと困ったさんでした。


そんな困ったさんが続いて数ヶ月、こちらも疲労困憊で毎朝「辞めたい」が頭に浮かぶ状態で仕えさせていただいていました。
そんな時、その困ったさんが何やらコソコソとあやしい動きをなさるのです。どうやら誰かとお会いしているようで・・・

これは事件の香りがします!
私はその誰かさんを何とか突き止めようとしましたが、巧妙に隠れられなかなか尻尾を掴めません。

何事もなければいいのですが・・・と思っていたのも束の間、殿下の寵愛が深い王太子妃殿下、クロエ様のご懐妊が発表されました。しかも三人目!

めでたいなぁ!なんて素直に喜びたいところですが、如何せん私の主は困ったさん。
この後のロバーツ伯爵令嬢の不機嫌さといったらもう。えぇ、えぇ。侍女たちは屍となりました。


屍から復活した私たちはなんとか午後もやり切ろうと一致団結したものです。
が!しかしまたもや事件が!
なななんと私たちの同僚の侍女が、クロエ様がお飲みになるお茶のポットへ何か入れたのです!

見ました、私。この目で!

咄嗟に彼女の腕を掴み侍女モードでキビキビ指示を出します。
王子殿下お二人はクロエ様にしがみつき、震えておりました。うぅおいたわしや。

そして真打ち登場!我らが王太子殿下がそれはそれは恐ろしい顔で同僚の侍女に睨みを利かせています。

「殿下、私はその者が容器の中身をお茶に入れるところを見ました」

事実確認だいじ。しっかり進言させていただきました。

おかげで彼女は牢へドナドナ。後で聞きましたが、あの小瓶は猛毒だったようで・・・しかも指示したのは困ったさん!もう困ったどころではありません!

ロバーツ伯爵令嬢も仕込んだ侍女も同情の余地がないとは言いきれませんが、相手は王家。相手が悪すぎます。合掌。


✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼


「マリー今日はよくやった」

皆さんがスヤスヤしている夜更け、王太子殿下の私室にお邪魔しています。あ、マリーって私のことですね。

「身に余る光栄に存じます」
「それで?結局ロバーツ伯爵令嬢と会っていたらしき人物の特定はできなかったのか?」
「はい・・・大変申し訳ございません」

あぁ殿下、顔が怖いです。お綺麗な顔が般若のように歪んでおります~。


・・・・・・お気づきでしょうが私、マリーの本当の主はヴァーデン王太子殿下でございます。はい。
王宮に上がった自信も何もない私を殿下は熱心に教育して下さいました。もう本当に手取り足取り。血反吐吐くかと思うほどでしたね!

殿下の息がかかった侍女はクロエ様・・・もといリリアンヌ様に三人、それぞれの側室に二人ずつつけられております。
そしてその侍女ズが集まって毎日、定例報告会が行われるのです。それが今でございます。
偶に殿下がリリアンヌ様を抱き潰・・・可愛がられてブッチする時もありますが、ほぼ毎日でございます。

ですのでロバーツ伯爵令嬢が何やら企んでいそうなのは、発覚した時点で報告させていただいておりました。
四六時中目を光らせていたところ、今日の事件なわけですよ。いやほんと未遂で良かったです。私が殿下に殺されます。ふぅ。


問題は黒幕の方です。ロバーツ伯爵令嬢が素直に話しても黒幕はわからないでしょう。きっと二重、三重と策を張り巡らせているはずです。
殿下も難しそうなお顔をしてらっしゃいます。

「・・・・・・マリー」
「はい」
「そなたはリリアンヌの目に入らない職場へ移動な」
「は!?」
「リリアンヌは助けてくれたそなたに良くするだろう。優しいからな」
「は、はぁ」
「だから移動な」


・・・この独占欲丸出しクソ王太子め!

性別関係なくリリアンヌ様に気に入られる可能性がある使用人は悉く遠ざけるのです。
故にリリアンヌ様の専属侍女も数ヶ月単位で入れ替わります。ヤンデレが過ぎる!

私だってお優しいリリアンヌ様の近くに侍りたいのに・・・くすん。




私は新しい職場・・・職場?でリリアンヌ様専属の影になるため今必死に特訓中です。
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