鬼哭島変異譚~君といつまでも~

柚鷹けせら

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 三十六人の同級生が机を持って移動する。
 一年生の教室は、この時間は校外学習の班決めと席替えで予定が統一されていたようで左右からもガタガタと騒がしい物音が聞こえて来る。
 そんな中、俺も六班が集まる窓側後方に机と一緒に移動していると、先に移動を終えた武尊が近付いて来た。

「貸せ」
「このくらい運べるよ」
「良いから」

 言い聞かせるように言われたら、手は勝手に力を抜いてしまって机は武尊に持って行かれた。しかも俺に確認するでもなく窓側後ろから二番目に設置。武尊の後ろで、幸大の前の席だ。

「ありがとう」
「ああ」
「しっかし揃いも揃って引きが強いな」

 席に着くと後ろの幸大が愉快そうに言う。
 これには頷くしかない。いくら確率はそこまで低くないにしたって、親しい自分たちが一つの班に固まるなんて出来過ぎだ。
 と、そこに割り込んで来た苛立たし気な声。

「ちょっと! ひぃちゃんの手伝うならボクのも手伝ってくれて良いんだけど!」
「あっ」

 机をガコンガコンと左右に揺らしながら移動して来た結人だ。彼の移動は教室を斜めに端から端まで。小柄なのも相まってなかなかの重労働になっている。

「ごめん、気が利かなくて」
「ひぃちゃんは良いんだよ、ほとんど移動してない二人に言ってんの」

 武尊は机一つ分下がっただけ。
 幸大はその場から一歩も動いていないので、結人の言うことも一理ある……が。

「なんで俺がおまえを手伝うんだ」と真顔の武尊。
「おまえ自分で運べるだろ」と此方も真顔の幸大。
「ああぁもうそういうヤツらだよね!」

 結人が乱暴に机を置いたら途端に笑い出す人がいた。
 驚いてそちらを振り返ると、武尊と同じくらいの背丈で、だけど国籍が違って見える同級生が大きな口を開けて笑っていた。
 高橋晴也たかはしはるや
 見た目が理由で入学当初から噂になっていたし、同級生だから、彼がイギリス系三世ってことや、隣町の中学校出身者ってことくらいは知っているが、この距離で話をするのは初めてだ。

「アンタら面白いな。同じ班でラッキーかも」
「六班?」
「そそ」

 言ってたら、結人。

「高橋くんだっけ?」
「そそ、高橋晴也」
「じゃあはるちゃんね。席どこが良い? あいつら窓側から動く気無さそうだけど」
「はるちゃん」

 いきなり付けられたあだ名を復唱して、ふはっと楽しそうに笑った高橋君は「後ろがいいな」と幸大の横を指差す。

「窓側は眠くなるから遠慮する」
「そ? じゃあもう一人にも聞いて……もう一人誰?」
森崎颯真もりさきそうま。六人全員男子ってのもすごいな」

 答えたのは動いていない幸大。
 机の上にノートパソコンが開きっ放しだったからすぐに確認出来たみたいなんだけど、……森崎くん。入学式のその日にクラス全員の前で一人ずつ自己紹介したし顔も見たはずなのにまったく思い出せない。

「森崎颯真、もりさきそーま……じゃあそーちゃんだ。そーちゃんどこぉ?」

 さっそくあだ名を付けて呼び始める結人に幸大は呆れ、武尊は我関せず。高橋君は「すげぇな」って笑ってる。俺も結人のこういうところはすごいと思う。

「そーちゃーん」
「ぁ、あの」
「うぉっ?」

 いきなり真横から声がしたものだから結人はもちろん俺たちも驚かされた。
 こんな近くにいて今の今まで気付かないなんてある?
 確かに影がうす……存在感が……いや、うん。身長は結人と俺の間くらいだから決して小さくはないのだけど、背中が丸まっているし、前髪が顔の半分を隠してしまっていて眼鏡を掛けていることしか判らない。
 しかも、こうして間近に接していてもどんどん姿が薄らいでいく感じがする。いや、物理的に消えていってるわけではないんだけど!

「そ、そーちゃん?」
「……森崎颯真です」
「ぁ、うん。ボク浦野結人。今日からしばらく同じ班だし、よろしくね」
「……名前は知ってます。よろしくお願いします」
「そ、そうだよね、入学式に自己紹介したもんね」

 結人の口元が引き攣っている。
 気持ちは判らないでもないけど、何も言えないより良いと思うよ。うん。

「よろしく」
「よろー」

 俺と、高橋君も挨拶。
 そしたら幸大が立ち上がった。

「よろしく。ところで席はどこが良い? 窓側が良ければ俺が移動するし」
「あ、俺も移動出来るよ」
「おまえは駄目」

 俺が言ったら武尊から却下が。
 なんで。

「俺の前か横なら良いが、それでも窓側は決定」
「なんでさ」
「理由が判ってないからだ」
「はぁ?」

 思わずイラッとして返すと同時、結人の溜息が聞こえて来る。

「同じ班になっちゃったからにはアレに慣れてね。あの二人、無自覚で所構わずイチャつくから」
「っ、イチャついてない!」
「ね?」
「なるほど無自覚」

 結人と高橋くんが判り合っている。
 解せぬ。

「……僕はどこでも良いです。空いているところで」
「そ? じゃあたけちゃんの横ね。ボクがひぃちゃんの隣!」
「で、オレが一番後ろか。サンキュー」

 高橋くんが幸大の隣に机を置いて、六班の席替えは完了。

「ところでオレ苗字呼びって慣れなくてさ。名前で呼んでくんない? オレも名前で呼ばせて欲しいし」
「ああ、構わんよ。俺は幸大な。よろしく晴也」
「ボクははるちゃんって呼ばせてもらうね。結人だよ」

 そんな風に親交を深めながら他の班の席替えが終わるのを待った。
 少し心配だった森崎君は、流れで「颯真」って呼ぶことになって以降は口を閉ざしたままだったけど、体はずっとこちらに向けたまま俺たちのやり取りを聞いていた。
 どうやら交流が嫌なわけでは無さそうなので、一安心かな。
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