生きるのが下手な僕たちは、それでも命を愛したい。

柚鷹けせら

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第5章 マーへ大陸の陰謀

124.西方への出港

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 地球のカモメはそんなに早く飛ばない。
 隼や鷲はもちろん、鳩、カラス、雀なんかの方が早く飛ぶくらいで、それはロテュスでも同じだ。
 プラーントゥ大陸を始め森や平原の環境を持つ銀級アルジョンダンジョンなら梟や燕に似た鳥の魔石を入手することも出来るというので、ゆくゆくはそちらも入手したいと思うが、魔力がものをいうこの世界では銀級アルジョンダンジョンの魔の鴎ムエダグットより金級オーァルダンジョンの魔の鴎ムエダグットの方が強く早く飛べるように、魔力を込める人物次第でいくらでも速度が上がる事が判った。
 例えば皇帝陛下と俺の間で行き来した魔の鴎ムエダグットは、俺の魔力だと船と城を5分くらいで飛ぶのだが、陛下の魔力だと1分で飛んで来る。
 師匠セルリーだと3分くらい。
 たぶん魔力の密度の差だろうって師匠セルリーは教えてくれた。
 それから魔の鴎ムエダグットと、魔獣のムエットは見た目がそんなに変わらなくて、魔の鴎ムエダグットの方が速度が速く持久力も高かったので、今回は魔物の姿で試行中。
 いずれにせよ証紋を登録した二名分の魔力しか受け付けない魔の鴎ムエダグットは、録音の際に魔力を流し、聞く時に他方が魔力を流す事で、術式が勝手に次に行くべき方向を理解するという非常に優秀なメッセンジャーとなってくれたのだった。
 ちなみに、飛行可能距離など実験データがまだ不足しているので世界中の誰もが使えるよう登録するのはトル国の獄鬼ヘルネル討滅戦が終了してからになりそうだが、プラーントゥ大陸の文官が仕様書を作成し、登録することで話はついたそうだ。
 ロイヤリティについては後日相談って言われたけど、とりあえず皆が便利になってくれたらいいなと思う。
 その夜には神具『住居兼用移動車両』Ex.でリーデン様と話し、獄鬼ヘルネル除けの魔導具はオセアン大陸の各国に20個程度であれば問題がなさそうだと計算した。
 トゥルヌソルだけで20個がぎりぎりOKだったのだから、国で20個は余裕を見ての個数かなって思う。
 また、魔石で魔物を誕生させメッセンジャーにするという新しい術式に関しては「見事だ」と褒められた。
 ダンジョンから出る魔導具とは異なる、ロテュス独自の術式開発は主神様もずっと願って来たことだったらしい。


 翌日。
 俺が移動するのに合わせてグランツェパーティの休みも終わり、師匠セルリーはエレインちゃんの護衛に戻り、グランツェさん達と一緒に城に向かった。
 作戦会議中の陛下は、俺の顔を見るなり大きな溜息を吐き「オセアン大陸に来てたった数日でとんでもないことをやってくれたな」と。
 魔石に魔力を込めて従順な魔物を顕現しようなんて普通は考えないと呆れられてしまった。

「でもダンジョン内の戦闘にしても、魔物の協力を得られたら楽になりますよね?」
「ダンジョンでも可能なのか⁈」
「え」
「は?」

 そういえばダンジョンでは試してない事に気付いて、目を逸らす。
 ダンジョンではダンジョンの魔力が常に供給されているから、……どうなんだろうね。

「次に挑戦する時には試してみます」
「ぉ、おう……」

 くくって後方で笑いをかみ殺している護衛のグランツェさん達や、大臣さん達。
 陛下はもう一度大きな息を吐いてから、笑った。

「とんでもない発想ではあったが、あのメッセンジャーという術式は画期的で、非常に助かる。いま開発してくれたことに心から感謝している」
「ぁ、いえ。お役に立てたなら俺も嬉しいですし」

 述式の名前がメッセンジャーで決定している感じなのが気になるけど、……まぁいいか!

「いま、帝都の冒険者ギルドや各種工房に魔の鴎ムエダグットの魔石があれば持って来るよう伝えているところだ。集まれば、また術式の合成を頼みたい」
「承知致しました」
「ん」

 それから会議で決まった事は、俺たちは明日10月の16日月の日の朝8時に港を出て、反時計回りにピティ、ホエ、オノ、マハ、パエの順に各国の重鎮たちを降ろし、トル国制圧に向けての準備を進めることになった。
 ぐるっとオセアン大陸を回って、トル国の沖に着くのが10日後の26日。
 翌27日には各国からトル国に向けて行軍開始。
 順調にいけば30日までに王都の制圧が完了する予定だ。
 船はマーヘ大陸からの船に警戒しつつ陛下からの連絡を待って浄化ピュリフィカシオンのタイミングを待つことになる。

「各国に20の魔導具を設置可能ならば、いまある20はメール国で預かり、船内で追加の20を作製、ピティ国でそれらを降ろした後はホエへの移動中に更に追加で……という形で頼めると非常に助かるのだが、どうだろうか」
「魔導具の改造だけなら僧侶以外の面々にも可能なので、追加を作る事自体は難しくないと思います」

 というわけで獄鬼ヘルネル除けの魔導具に関しては相談終了。
 魔獣除けの魔導具を大量に購入して船に戻ることになった。
 メッセンジャーに関しては、いまは馬の交換場所に移動中の騎士達と飛行可能な距離の実験中だが、離れすぎると「無理だ」と言うように飛び立たなくなるらしいという新しい発見もあった。
 また銀級アルジョンダンジョンの魔石だと魔力が足りなくて魔物を顕現させられない騎士や冒険者がいることも確認されている。
 うちのメンバーでいうと、グランツェパーティの盾士ディゼルが顕現出来なくなり、剣士モーガンや、バルドルパーティのウーガ、エニスも「魔力を持っていかれ過ぎて戦闘に支障が出る」と言う。
 陛下と直接連絡を取り合うような騎士団トップの人たちは大丈夫そうだが、使える人が限られるという点に関しては再考の余地が有りかもしれない。
 ちなみに師匠セルリーたちが船に持ち帰って来た7つの魔石は、俺と陛下で一つ。
 師匠セルリーと陛下で一つ。
 大臣さんと陛下で一つ。
 それから俺と師匠セルリーで一つ。
 俺とグランツェさんで一つ。
 師匠セルリーとグランツェさんで一つ。
 大臣さんとグランツェさんで一つだ。

「魔石が集まりましたらメッセンジャーの加工はうちの文官達が行いましょう。こちらに4人残していきます」
「感謝する」

 メッセンジャーに関しても話が決まって、後は明日の出向に関する話へ。
 続々と決定していく各種事項。
 否が応にも緊張感が増していった。




 10月の16日、月の日。
 朝8時。
 オセアン大陸各国の重鎮たちを乗せた船が帝都ラックを出港。その後、大陸を反時計回りに一周する航路は順調だった。
 各国にその国の偉い人達を獄鬼ヘルネル除けの魔導具と一緒に降ろし、次の国に到着するまでに新たに増産する。
 それらに神力を注ぐ作業はそれなりに疲れたが倒れるほどの事でもない。
 船は獄鬼ヘルネルはもちろん魔獣の襲撃を受けることもなく、困った事といえば乗船人数が増えたことで食堂やホールが多少窮屈になったくらいだろう。
 そんな平和な船内なので、不定期に発生する見送り等以外は各自ほぼ自由に過ごしていたのだが、俺の部屋には相変わらず大人数が集まっていろんな術式を前に唸っていた。

「メッセンジャーの改良もしたいですが、声が届けられるようになったら今度は物も一瞬で届けられるようにしたいですね」

 俺が言うと、周りで皆が驚いた顔をする。

「物? 物体ってこと?」
「はい。例えば獄鬼ヘルネル除けの魔導具ですが、僧侶の魔力が尽きたら意味がなくなっちゃうでしょう。そうなった時に、すぐに僧侶のいる場所……例えば帝都のお城に送って、僧侶の魔力を注いでもらってから送り返してもらえたら、僧侶のいない地域にも安全が広がるじゃないですか」
「なるほど……? でも物体を転移させるなんて聞いたことがないな」
「転移は、ダンジョンの転移の術式が使えるんじゃないんですか?」
「あれは主神様の術式で、ロテュスが刻まれているから私達には触れられない領域よ」
「ロテュス……これのどこが花なんですか」
「この線の一本一本が花びらなのよ」

 俺の右手に嵌められた僧侶のグローブに刻まれた証紋を指差しながら師匠セルリーが教えてくれる。
 正直、説明されても花には見えない。

「これは花じゃなくて……あ、でも薄目でなら花火には見えるかもしれない……」
「花なのよ! ロテュスっていう神話の中にだけ登場する大陸の花!」

 不敬だと叱られた。
 いや、でも花ならもうちょっとこう……丸みと言うか、もう少しそれらしい表現の仕方があったんではないですかリーデン様。今度なんの花を線で表現したのか訊いてみようと思った。


 10月の20日。
 ピティ、ホエ、オノと3カ国に偉い人達を降ろして船は次のマハ国に向けて進路を変えた。船内にはマハ国とパエ国の20名くらいが残り、俺たちは相変わらず俺の船室で術式とにらめっこ中。
 帝都ラックから見ると正に端と端、大陸の東西に位置するためさすがにメッセンジャーが飛んでくることもなくなり、新しい魔石を入手する方法も無いため保留案件が多くなり、緊張感を保つのも大変だということを改めて学んだのだった。
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