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第7章 呪われた血筋
221.決戦(5) side:レイナルド
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群がる獄鬼。
「グルァァァァァ!」
「またか!」
白い魔豹の咆哮で連中の動きが鈍った隙に僧侶の結界。前衛で押し返し魔法使いの火力でごり押し。
ゾンビは臭いで接近に気付くから獄鬼相手よりは余裕をもって対処出来たが、いずれにせよ魔豹と魔剣持ちは大活躍である。
そんなことを繰り返している内に、とうとうカンヨンの王が見つかったという知らせが届いた。
『カンヨンの王は南の塔屋上!』
それを受け取ったのはギァリック大陸の騎士だったが、ふと外からの地区ごとの捜索完了の知らせが届かなくなっていることに気付いた。
最後は33番地区で30分ほど前だったか。
城に近付くほど強敵に邪魔されていたのは自分たちもそうだったし、知らせの間隔も徐々に空いていたから気にしていなかったが、……嫌な予感がする。
確かグランツェたちのパーティが35番地区にいるはずだが、……メッセンジャーの魔石は向こうにあるから此方から送ることが出来ない。いま自分の手元にあるのはレンとのメッセンジャーだけだ。
送るべきか、否か。
迷っている間にも足は同じ班の連中と共に南の塔へ向かっている。
一つの魔石を二つに分けて双方向から連絡を取れる魔道具をレンが何としても開発しようとしていた気持ちが理解出来た。
誰だ、自分の番が他人と二人で一つのものを持つなんて嫌だと駄々捏ねたのは。
気持ちは判らんでもないがな!
「南の塔、あれだ!」
ギァリック大陸の騎士が窓の外を指差して声を上げたが、それよりも視界に入った街の光景に目を瞠った。
「なんだあれは……!」
誰かの震えた声が聞こえた。
俺も同じ気持ちだ。
なんだ、あれは。
地上から空へ伸びる黒煙。
大気中に広がる黒いもの。
そして家屋などを轟々と燃やす炎――それが、街全域に広がっている。魔力を持たない炎が。見渡す限りの大地が炎の赤と煙の黒に埋め尽くされていた。
「どういうこと……あのままでは火が消えないわ」
キクノ大陸の騎士、いや、あちらではサムライというのだったか。他とは違う鎧を纏った女サムライが顔色を失くしている。
「火が消えないって?」
「魔法使いの炎は目的に応じて必要な魔力分の炎を発生させるの! だから目的を達した時点で自然に鎮火する」
そうでなければ延焼する。
消えない炎など敵味方が入り乱れる戦場では危険過ぎて――。
ドオッ……オオ…ォォン……
あの轟音がまた聞こえた。
一瞬にして炎が上がり、黒い煙が空へ。
「なんてこと……っ」
女サムライがメッセンジャーを取り出したが、それより早く俺はレンに飛ばしていた。
「レン、無事か!」
普段より多めの魔力を流して飛んで行った魔の鴎は、普段ならすぐに帰って来る。レンの暢気な「どうしたんですか?」なんて声を録音して戻って来るはずだった。
なのに、戻らない。
「……っ」
レンは無事だ。
無事なはずなんだ。
主神様の加護持ちだぞ!
なのに、なんで――。
「フハハハハハハ!!!!」
「っ⁈」
一斉に皆の視線が南の塔に向く。
拡声魔法だ。
「ひっ……」
短い悲鳴を上げたのは僧侶だ。
塔の天辺には僧侶が吐き気を催すほど獄鬼の濃い気配が漂っているという。
「カンヨンの王も獄鬼憑きってことか?」
「いいえ! あの王に獄鬼は憑いていません!」
僧侶が断言する。
であれば人のはず。
「クククククッ。ようやく我が元に辿り着いたようだが、残念だったな。裏切者どもよ」
声の主は十中八九カンヨンの王だろう。
まだ若く雄々しい男の声だった。
「貴様らは見誤ったのさ! 私の怒り! 私の恨み! 私の野望!! 我が望みはこの世界の滅びだ!!」
冠も玉座も要らない。
国も。
民も、もはや不要。
声は叫ぶ。
吐き出す。
世界よ滅べ。
たまに小さく混ざる他者の声や戦闘音はカンヨン王と対話する、または戦闘中の者たちだろう。拡声魔法が拾っているに違いない。
いくら獄鬼と手を組もうとも世界を滅ぼせるわけがない。
おまえは此処で終わる。
獄鬼は僧侶がいる限り決して好き勝手出来やしないと返す連合軍に、しかしカンヨンの王は笑った。
「アハハハハ! そうとも、一人で世界を潰すなど無理だ! だが此処に来ているのだろう、主神の伴侶とやらが」
瞬間、頭の芯が冷水を被ったように冷えた。
「伴侶に何かあれば主神様が黙っていないのだったか? ハッ! これでも情報を得るツテくらいは確保しているんだよ」
殺せるなら殺そう。
殺せないなら心を壊そう。
赤と黒に埋もれたこの光景は獄鬼の生まれる場所に似ている。怨嗟と絶望の中で何もかもを失えばいい。
失くして、壊れろ。
壊れた伴侶を抱いて、主神もいっそ壊れてしまえ。
全部。
全部。
全部全部全部全部。
全部、壊れろ。
「狂ってやがる……っ」
同感だ。
こいつは狂ってる。
「魔豹! アレを止められるか⁈」
叫ぶが早いか白い魔豹は跳んだ。俺を背に乗せて窓から塔へ、さすがに一度では敵わなかったが城の屋根や壁を介してカンヨンの王に迫る。
レンは仲間といるはずだ。
あいつの手元にはいないと思うが、違うかもしれない。
無事じゃないからメッセンジャーが返って来ないと考えればどんな可能性もゼロじゃない。
「捕えるぞ!」
「ガウッ!」
見える屋上。
塔に続々と上って来る屈強な味方は、しかし塔の屋上という限りあるスペースに加え、その大半に動かなくなった体が折り重なっていて充分な人数を揃えられないようだった。
塔の上で誰かがこちらを見て驚いている。
カンヨンの王も此方に気付いて、……笑った。
「……!」
王は一切の迷いなく屋上の塀の上に身を翻とその身を宙に投げ出した。
「なっ……」
こ れ で 終 わ り だ
にやりと笑った直後の轟音。
塔が。
城が、崩壊した。
「グルァァァァァ!」
「またか!」
白い魔豹の咆哮で連中の動きが鈍った隙に僧侶の結界。前衛で押し返し魔法使いの火力でごり押し。
ゾンビは臭いで接近に気付くから獄鬼相手よりは余裕をもって対処出来たが、いずれにせよ魔豹と魔剣持ちは大活躍である。
そんなことを繰り返している内に、とうとうカンヨンの王が見つかったという知らせが届いた。
『カンヨンの王は南の塔屋上!』
それを受け取ったのはギァリック大陸の騎士だったが、ふと外からの地区ごとの捜索完了の知らせが届かなくなっていることに気付いた。
最後は33番地区で30分ほど前だったか。
城に近付くほど強敵に邪魔されていたのは自分たちもそうだったし、知らせの間隔も徐々に空いていたから気にしていなかったが、……嫌な予感がする。
確かグランツェたちのパーティが35番地区にいるはずだが、……メッセンジャーの魔石は向こうにあるから此方から送ることが出来ない。いま自分の手元にあるのはレンとのメッセンジャーだけだ。
送るべきか、否か。
迷っている間にも足は同じ班の連中と共に南の塔へ向かっている。
一つの魔石を二つに分けて双方向から連絡を取れる魔道具をレンが何としても開発しようとしていた気持ちが理解出来た。
誰だ、自分の番が他人と二人で一つのものを持つなんて嫌だと駄々捏ねたのは。
気持ちは判らんでもないがな!
「南の塔、あれだ!」
ギァリック大陸の騎士が窓の外を指差して声を上げたが、それよりも視界に入った街の光景に目を瞠った。
「なんだあれは……!」
誰かの震えた声が聞こえた。
俺も同じ気持ちだ。
なんだ、あれは。
地上から空へ伸びる黒煙。
大気中に広がる黒いもの。
そして家屋などを轟々と燃やす炎――それが、街全域に広がっている。魔力を持たない炎が。見渡す限りの大地が炎の赤と煙の黒に埋め尽くされていた。
「どういうこと……あのままでは火が消えないわ」
キクノ大陸の騎士、いや、あちらではサムライというのだったか。他とは違う鎧を纏った女サムライが顔色を失くしている。
「火が消えないって?」
「魔法使いの炎は目的に応じて必要な魔力分の炎を発生させるの! だから目的を達した時点で自然に鎮火する」
そうでなければ延焼する。
消えない炎など敵味方が入り乱れる戦場では危険過ぎて――。
ドオッ……オオ…ォォン……
あの轟音がまた聞こえた。
一瞬にして炎が上がり、黒い煙が空へ。
「なんてこと……っ」
女サムライがメッセンジャーを取り出したが、それより早く俺はレンに飛ばしていた。
「レン、無事か!」
普段より多めの魔力を流して飛んで行った魔の鴎は、普段ならすぐに帰って来る。レンの暢気な「どうしたんですか?」なんて声を録音して戻って来るはずだった。
なのに、戻らない。
「……っ」
レンは無事だ。
無事なはずなんだ。
主神様の加護持ちだぞ!
なのに、なんで――。
「フハハハハハハ!!!!」
「っ⁈」
一斉に皆の視線が南の塔に向く。
拡声魔法だ。
「ひっ……」
短い悲鳴を上げたのは僧侶だ。
塔の天辺には僧侶が吐き気を催すほど獄鬼の濃い気配が漂っているという。
「カンヨンの王も獄鬼憑きってことか?」
「いいえ! あの王に獄鬼は憑いていません!」
僧侶が断言する。
であれば人のはず。
「クククククッ。ようやく我が元に辿り着いたようだが、残念だったな。裏切者どもよ」
声の主は十中八九カンヨンの王だろう。
まだ若く雄々しい男の声だった。
「貴様らは見誤ったのさ! 私の怒り! 私の恨み! 私の野望!! 我が望みはこの世界の滅びだ!!」
冠も玉座も要らない。
国も。
民も、もはや不要。
声は叫ぶ。
吐き出す。
世界よ滅べ。
たまに小さく混ざる他者の声や戦闘音はカンヨン王と対話する、または戦闘中の者たちだろう。拡声魔法が拾っているに違いない。
いくら獄鬼と手を組もうとも世界を滅ぼせるわけがない。
おまえは此処で終わる。
獄鬼は僧侶がいる限り決して好き勝手出来やしないと返す連合軍に、しかしカンヨンの王は笑った。
「アハハハハ! そうとも、一人で世界を潰すなど無理だ! だが此処に来ているのだろう、主神の伴侶とやらが」
瞬間、頭の芯が冷水を被ったように冷えた。
「伴侶に何かあれば主神様が黙っていないのだったか? ハッ! これでも情報を得るツテくらいは確保しているんだよ」
殺せるなら殺そう。
殺せないなら心を壊そう。
赤と黒に埋もれたこの光景は獄鬼の生まれる場所に似ている。怨嗟と絶望の中で何もかもを失えばいい。
失くして、壊れろ。
壊れた伴侶を抱いて、主神もいっそ壊れてしまえ。
全部。
全部。
全部全部全部全部。
全部、壊れろ。
「狂ってやがる……っ」
同感だ。
こいつは狂ってる。
「魔豹! アレを止められるか⁈」
叫ぶが早いか白い魔豹は跳んだ。俺を背に乗せて窓から塔へ、さすがに一度では敵わなかったが城の屋根や壁を介してカンヨンの王に迫る。
レンは仲間といるはずだ。
あいつの手元にはいないと思うが、違うかもしれない。
無事じゃないからメッセンジャーが返って来ないと考えればどんな可能性もゼロじゃない。
「捕えるぞ!」
「ガウッ!」
見える屋上。
塔に続々と上って来る屈強な味方は、しかし塔の屋上という限りあるスペースに加え、その大半に動かなくなった体が折り重なっていて充分な人数を揃えられないようだった。
塔の上で誰かがこちらを見て驚いている。
カンヨンの王も此方に気付いて、……笑った。
「……!」
王は一切の迷いなく屋上の塀の上に身を翻とその身を宙に投げ出した。
「なっ……」
こ れ で 終 わ り だ
にやりと笑った直後の轟音。
塔が。
城が、崩壊した。
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